INTERVIEW / FEATURE 2018年10月18日

人生の進路に新しい選択肢を 東大への再入学者2人にインタビュー

 東大にはさまざまな学生が在籍している。20歳前後の学生が多い中、30歳以上と思われる人が講義を受けているのを見かけたことがある人もいるのではないだろうか。今回、一度大学を出て社会人を経た後に東大に再入学した在学生・卒業生に、再入学に至った経緯などについて話を聞いた。近年大人の学び直しが注目される中、彼らの生き方をのぞくことは、自らのキャリアを考える上で参考になるはずだ。

(取材・武井風花)

 

退職後にもう一花

 

笹尾克彦(ささお・かつひこ)さん(文Ⅲ・2年)

 

━━再入学する以前の経歴を教えてください

 東大法学部を卒業しました。講義をサボりがちで、仏語の単位が足りずに1年留年しました。何をやってたんですかね……(苦笑)。
 卒業後はエンジニアリング会社で働いていて、プラント建設のために東南アジア、中東、アフリカに10年以上駐在しました。

 

━━なぜ再入学を決意したのでしょうか

 一つは、自分の仕事が一段落したと感じたからです。業界で絶対に失敗すると言われていた事業を成功させたことで「もうこれ以上の達成感は味わえないだろう」と思ったのです。二つ目の理由は、第2の人生があっていいと思ったからです。多くのサラリーマンは仕事が唯一だと思っているけど、2個目の人生で歴史に名をとどめた伊能忠敬を目指したっていいじゃないかと。歴史を学ぶため、文Ⅲを選びました。
 また、家族の理解があったことも大きいです。普通止められそうなもんですけど、うちの奥さんは素晴らしい人で、あっさり許してくれました。

 

━━受験勉強はどのようにしていましたか

 仕事を続けながらだったので大変でした。記憶力勝負の歴史や、スピード勝負の数学などは頭の回転が追い付かずに苦労しました。反対に考えさせる記述式の入試は、人生経験が豊富な分、若い学生より有利だったと思います。東大の入試は実は大人向きなのかもしれないですね。

 

━━再入学してよかったことは何ですか
 純粋に新しい知識を得られることです。勉強をするために戻ってきたから、授業にも真剣に取り組めます。常に最前列受講、先生には率先して質問。そんな中地球惑星科学に出会い、その面白さに感化され、結局文学部進学をやめて留年し、理学部進学を目指すことにしました。

 勉強以外だと若い学生と話せるのがうれしいです。座禅部に所属していて、週に1回座禅会に参加し、その後にみんなで飯を食べたりしていますが、普通この年で若い学生と友達付き合いできる機会は絶対に無いので会社の元同僚に大変うらやましがられます。

 

━━逆に大変だったことは

 「スポ身」です(苦笑)。体力はね……とてもついていけませんね。それと、他の学生からの視線を常に感じることでしょうか……(笑)。「誰やあのおっさん」と珍しがる気持ちも分かりますけどね。

 

━━これからの目標は
 1年留年しますが、理学部の要求科目は1科目しか残ってないので、あとの時間は進学選択の点を気にせず好きなことを勉強したい。相対性理論とか量子論とか。理学部に進学できたら院に進んで研究者になるのもいいと思っています。寿命との競争ですね(!)

 

 

妻の一言で決意

 

本元俊行(ほんもと・としゆき)さん(工学部卒)

 

━━再入学する以前の経歴を教えてください

 東京農工大学の電気電子工学科で、燃料効率についての研究をしていました。部活は卓球部で、部室に寝泊まりして夜はマージャンをするという普通の(?)大学生活を送っていました。

 しかし、2年生の時に休学せざるを得なくなりました。というのも、父親がギャンブル好きで借金をしていまして。さらにDV的な面もあったので自分が借金を肩代わりする代わりに両親に離婚してもらいました。それで、働かないとならなくなりまして。塾の講師や家庭教師を軸に、日雇いの引っ越しアルバイトや深夜の倉庫内作業などいろいろやっていました。株の電子化処理や官公庁での仕事などもしていましたね。

 

━━なぜ再入学を決意したのでしょうか

 一番のきっかけは結婚して妻に「大学卒業すれば?」と言われたことです。子どもが生まれて「お父さん大学どこ卒業したの?」と聞かれたときに堂々と答えられた方がいいだろうということで。家から近かったこともあり、東大を受験しようと決めました。

 

━━受験勉強はどのようにしていましたか

 塾講師をしていたのでそんなに苦労しなかったです。化学だけは勉強していなかったので、『チャート式』で基礎を固めたり、他の参考書を本屋で立ち読みしたりして勉強しました。

 

━━再入学してよかったことは何ですか

 「自分、まだ若いな」と思えたことですかね(笑)。同世代としか付き合わないと、知らずに古い考えに凝り固まってしまったり、若者の流行などに疎くなったりしますが、東大に来ていろいろ吸収できました。最新のスマホの使い方とか(笑)。それから、プログラミングなどの役に立つ知識を得られたことと、そして何よりボルダリングに出会えたこともよかったです。在学中に御殿下記念館でボルダリングを体験して、ハマってしまって。今でも友人や同僚とボルダリングジムに通って楽しんでいます。

 

━━逆に大変だったことは

 一番は、1年次の6月に子どもが生まれて、授業を受けるどころではなくなり、単位を落としてしまいそうになったことです。子どもが熱を出したら帰らないといけないので必修に出席できず、50点台の可を連発してしまいました(笑)。でも、クラスの友人に子どもの誕生祝いをサプライズでしてもらえるなど、うれしいこともありました。

 

━━総じて、再入学してよかったと思いますか

 思います。社会人を経験してから学生に戻ると、指示する側からされる側に急に戻るので新鮮で楽しかったです。やってみないと何が面白いか分からないし、飛び込んでみてよかったと思います。

 


この記事は、2018年10月9日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:「文化遺産の教育を」 絵画廃棄問題 シンポジウム開催
ニュース:ラクロス男子一橋大戦 1失点に抑え快勝 予選リーグ無敗で決勝Tへ
ニュース:世界大学ランキング 総合42位に上昇 教育・研究で高評価
ニュース:2試合連続完封負け 硬式野球早大戦 計わずか6安打
ニュース:本庶京都大特別教授にノーベル賞 かつて東大で研究
企画:東大ガールズハッカソン2018 アイデアソン開催 動詞選んでテーマ決め
企画:商品ヒットに法則はある? 理論と実践に見る商品開発の裏側
企画:人生の進路に新しい選択肢を 東大への再入学者2人にインタビュー
キャンパスガール:東野雅潔さん(理Ⅲ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

INTERVIEW / FEATURE 2016年05月12日

【五月祭おすすめ企画⑥】なるほど実感!サイエンスミュージアム@本郷 科学の不思議さを体感

COLUMN 2016年02月01日

東大受験本番の思い出③ 散々だった受験本番。そんな僕でも受かる

COLUMN 2018年03月16日

【受験生応援2018】東大に実家から通えるのはどこまで?

COLUMN 2017年10月06日

「初音ミク」10周年 知れば知るほど奥深いボカロの世界

INTERVIEW / FEATURE 2016年02月09日

東大女子に聞く、私の合格体験談 髙橋麻美さんインタビュー

TOPに戻る