COLUMN 2019年4月18日

「東大生」とは誰か、「障害者」とは誰か、私たちは何者か 障害者のリアルに迫るゼミ参加者募集

『五体不満足』の乙武洋匡さんによる講義

 

 世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

 

 あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。

 

 4月12日に行われた平成31年度東京大学学部入学式での、上野千鶴子名誉教授の祝辞の一節である。この祝辞を巡って、東大内外の多くの人が、様々な反応を示していた。東大生が祝辞に否定的な意見を述べると、それに対して再批判がなされる、ということも多く見かけられた。

 

 そんな中で、東大生はもしかしたら怒りや戸惑いを覚えたかもしれない。自分たちが一番「東大生のリアル」を肌で感じていて、その中で日常を送っている、その日常の置かれた環境が多くの人に否定されている。会ったこともない人から「これだから東大生は」と叱責されることもある。「東大」を語る人々のうち、一体どれだけの人が、「東大生」を知っているのだろう…。

 

 SNS、TV、あらゆるメディアでも、障害や依存症、非行、セクシュアルマイノリティなどに対して、様々な意見が飛び交う。彼らのうちどれだけの人が、当事者と直に対面したことがあるだろうか。顔の分かるひとりの人間をどれだけ知っているのだろうか。そして彼らに向かって実際に意見や疑問を投げかけられるだろうか。

 

 「恵まれた環境と恵まれた能力」があふれているというこの東大のなかに、「恵まれないひとびと」を講師に迎えるゼミがある。

 

 「障害者のリアルに迫る」ゼミは、「『障害』についてタブーなく議論する場を作りたい」という思いのもと、2013年に自主ゼミとして発足した。障害者福祉に造詣の深い野沢和弘氏(毎日新聞社論説委員)を主任講師に、身体障害・精神障害、LGBTQsや依存症、非行経験などの当事者や、全国で先進的な取り組みを行う支援者の方々をゲストとして招き、東京大学教養学部で自主ゼミ・全学ゼミとして講義を行なっている。

 

元タカラジェンヌの東小雪さんによる講義。現在は性虐待のサバイバーかつレズビアンであることを公表し、啓発活動などを行なっている

 

 このゼミの場では、一見不謹慎とも取れる質問や意見が出る。

 

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)で、ストレッチャーで移動し、人工呼吸器をつけ、瞼や唇のわずかな動きだけで文字盤を使って会話をする岡部宏生さん。「NO Cause NO Cure NO Hope(原因不明、治療なし、希望なし)」とも言われる難病であり、人工呼吸器をつけずに自死を選択する罹患者も多いという。そんな彼に向けて「死にたいと思ったことはないですか?」「生きる意味とは?」と問う。

 

 すべての質問は、質問者自身に返ってくる。人に生きる意味を問うとき、自分自身もまたその問いを突きつけられる。内なる優生思想や、自分自身の否定的な感情が露わにされる。ひとりの「障害者」のリアルを前にすることで、自分自身のリアルと対峙することになる。「健常者」だと思っていた自分のなかに「障害」を発見し、「障害」とはなんだったのだろうか、私とは一体何者なのだろうかと考えることになる。

 

 気づかなかったもの、知らなかったことを学ぶことは、時に大きな苦痛を伴う。ある学生は、ゼミで摂食障害の当事者の語りを聞き、自分を見つめる中でうつ病と不安障害を背負うことになったとすら語る。

 

 今すぐに役立つ知識でも、将来の収入や社会的地位に結びつく営みでもないかもしれない。むしろ、より深くその人自身を混迷に落とし込めてしまうものかもしれない。しかし、他人のことも自分のことも、まずは知ることから、何かが始まるのではないか。

 

 「障害者のリアルに迫る」ゼミは今週金曜日(4月19日)5限に初回講義(駒場コミュニケーションプラザ北館多目的室1)、そして4月20日土曜日には書籍『なんとなくは、生きられない。』の出版を記念した一般公開のイベントを行う。「障害」、そして自分自身を知るために、ぜひ勇気をもって、しかし気軽に参加してみてはいかがだろうか。

 

 

寄稿=大島真理佳(養・4年)

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