INTERVIEW / OBOG 2016年4月21日

〈平和〉を自分事に置き換える権利を、戦争の抑止力に…弁護士 笹本さん 後編

戦争を抑止する要因とは何だろうか。経済発展か、文化的交流か、はたまた武力か。国際社会科学分野では様々に論じられるが、“平和”を人権として個人が確保できる権利を創設することも、戦争を抑止する要因として提唱する活動が、今国連を舞台に行われている。

 

笹本潤さんはこの活動に参加する弁護士であり、東京大学大学院総合文化研究科にて同活動をテーマに研究する「学生」でもある。二度目の大学で勉強する価値について前編のインタビューで語ってもらったが、後編では“平和”としての人権創設という、いわば新しい国際法をつくる活動に参加する理由、そして普段の弁護士としての仕事について伺った。

 

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NGO代表者として「平和への権利」創設を訴える笹本さん(一番右) 写真は笹本さん提供

 

―――新しい国際法をつくる活動をされていると伺いました。具体的には何をされているのでしょうか。

 

平和を、もっとミクロにひとりの人間の生活とひきつけて考えられるようにしたいから、人権として平和を訴えられるようにする権利(以下、平和への権利)をつくっています。

 

「平和への権利」はイラク戦争をきっかけに考案されたもの。スペインの国際人権法協会というNGOが発案したアイデアです。嫌な言い方かもしれないけれど、あのとき国連安保理を無視して戦争がはじめられた。つまり国連憲章のシステムに限界があった。そこで、国連憲章とは全く別の法規範として存在している国際人権が注目されたんです。人権は人権で基本的には国際的に守っていかなければならないわけだから。安保理がどういう決定をしようと、あるいは、安保理の決定がなくとも、守らなくてはならない普遍的なルールとして在るといえます。もちろん平和への権利が国際的な人権になったからって、戦争がストップできるかどうかはわからない。けれども、一つの制限規範にはなりえる。こうして戦争を“抑制”する人権をつくる活動がはじめられました。それに私は賛同して、日本をふくむ世界のNGOと協力しながら活動に携わっています。

 

―――「平和」って何でしょうか。何だと考えられていますか。外交官だった山口洋一氏の著書『〈思い込み〉の世界史』では、一見好ましそうな金科玉条が現実には一部の人々の利得に使われるための言葉の綾に過ぎないこともあることが指摘されました。だから平和という言葉も怖い。なにか危険を秘めている気がしてしまいます。

 

確かにすごく難しい。色んな人が各々の立場から“何が平和か”その要素を主張してくるから。単に戦争がない状態だけではなく、例えば差別や貧困がないことも平和の一部なんじゃないかとも主張される。権利の対象を規定する際にも、移民や難民をどうするかという議論になる。他方、人権侵害のある国に介入することも「平和」に含めるべきという人もいます。まだ権利をつくる段階なので、どういう定義にするか今まさに話し合っています。

 

「平和への権利」を創設する意味

 

ただ、定義それ自体と同等に大切なことがあると思うんです。それは平和への権利を通じて人一人と“平和”という概念をリンクさせることです。

 

裁判って基本的には訴える利益がないといけないですよね。何か権利があってはじめて、「それ」が侵害されて、そして訴えることができる。だから平和に関わる権利をミクロにすることで、もっと平和について皆が意識するようになるんじゃないかと思うんです。つまり、もし平和への権利が人権として創設されたら、極端なことをいえば自分の平和的生存が侵されているからというだけの理由でひとりの人間が裁判所に訴えることが、不可能ではないよね。

 

既存の平和的生存権と「平和への権利」の違い

 

例えば日本で政府の自衛隊の海外派遣が憲法9条に違反するかという話がわかりやすい例として挙げられます。「政府」が「憲法」に違反するかというと、大がかり。だけど現行の平和的生存権は「基地のまわりに住む人」が、基地があることで「自分の平和的生存」が侵害されるという理由で訴えることができます。こういった意味での平和的生存権はどこの国にもあるわけではなくて、むしろほとんど無い。こういう風に、日本であたりまえに出来ている平和に関する訴えを、世界でも出来るようにしたい。それでいま世界のNGOと提携しながら国連に案を持って行っているところなのです。

 

―――法学の授業は、既存の法律にある言葉がこうも読める、こういう意味にもとれるっていうパターンをひたすら暗記しなければならなくて。弁護士さんの仕事も、昔の規範を新しいケースにもずっと当てはめていく様な、1から何かを新しく創造するクリエイティブなこととは離れたものかと思っていました。

 

普段の仕事はそれに近いかもしれないです。でもルールを「当てはめる」というほど簡単じゃないかな。毎回30分から1時間かけて、どういう相談なのか聞いて。それで裁判を起こした方がいいのか、そもそも弁護士を入れない方がいいのかとか、作戦を考えるわけ。この時、裁判をおこす意味があるかどうかは法律の知識があればある程度わかる。ただそれを実現する方法でいうと千差万別。どういう人が当事者なのかによって違うから。たとえば同じ不倫という行為でも、その態様と当事者がどういう感情を抱くかすごく多様で。ひとつとして同じケースは無いのです。

 

―――法律の知識というところでは、最近インターネットを通じて普及されてきていますよね。

 

たしかに前よりも相談に来る人が法律の知識は持っていると思います。でも結局人が人と分かり合いたい時って顔を突き合わせて交渉しないといけないじゃない。「顏も見たくない」「話すらしたくない」という人を再び一つのテーブルに向かわせるには、やはり生身の人がいないと出来ないと思います。あとはネットで紹介されている判例に近い事件でも、困っている人が直面しているのとまったく同じ事件にはなり得ないので、ネットでの知識を得たところで解決できないことが多いのではないかと思います。

 

例えば離婚のケースで、妻の方が離婚したいと言ったとしても、どうしても夫が応じてくれないという相談がありました。自分がいくら言ってもダメで、何ヶ月も訴えかけているけれど応じないと。そういう時に弁護士が来て調停して話合いが成立したとするじゃない。そうすると話合いが出来たこと自体が嬉しいのですよね。話すことに応じさせてくれたことが。だって自分では出来なかったんだもの。

 

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インタビューに応える笹本さん   (撮影 北原梨津子)

 

―――話を聞いてほしい、というだけの人もいる。誰かに悩みを吐き出すことそのものに価値をおく依頼人も多いと耳にしたことがあります。

 

そうですね、聴いてくれるだけでもいいという人も実際にいますね。介入しなくても、アドバイスだけちょっとくれればいい様な人も。あとはネットで得た知識を弁護士と話して確認してもらうことで、その後自分だけで対処するとしても自信が持てるという人もいます。こういったところに対面のコミュニケーションの価値を感じています。

 

どう対処できるかは知識から、どう対処すべきかは経験からしか判らない

 

もう一つ法律の知識だけでは不十分なことは、どう対処できるかがわかったところで、どう対処すべきか、という別次元の議論が残ることだと思います。

 

対立する人と人をなんとか話合いで納得してもらわなくちゃいけないから、そのために私は白黒つけない、勝ち負けではない方法をできるだけ推奨します。弁護士だと、判決で勝つことだけが仕事かと思われるかもしれませんが、どんな事案でもできれば話合いにして、当事者の意思に反してものごとが決まらないようにする(裁判にしない)ことが重要だと思っています。勝ち負けだと、負けた方は強制的に何かを「させられる」わけですよね。そうすると、仮に形式・手続き的に決着がついたとしても、恨みがずっと残ってしまう。納得していないから。それで後で殺傷沙汰になることもあるんですから。ところが話合いだと、しぶしぶだけれど双方が納得するわけです。

 

このことはどんな事案でも同じで、例えばお金の貸し借りだって、知った仲の間でおきることに対して裁判を起こすと禍根を残してしまうから、その後の関係がダメになってしまう。だからゆるやかに交渉して解決していけるように努めます。

 

―――自分たちじゃない人が自分たちのことを決めてしまうことに抗う。だから当事者が話合いに加わることが優先されるべきということでしょうか

 

そうですね、自分のことは自分でコントロールしたいという、人の根源的欲求が前提にあるのかもしれないですね。こういうことって国際的な紛争解決の際に用いられているシステムにも共通することがあると度々思います。スケールの大きな組織や集団間の紛争解決に対するものであっても、どうしてそういう仕組みになっているか理由が分かる気がすることがよくあります。例えば国際刑事裁判所とかでも、一応裁判所として処罰はするけれど、それだけじゃないじゃない。付随する機関が話合い、対話の場を必ず設けたりしているから、例えばアフリカでおきた民族紛争後の措置においても、和解のプロセスが大事にされている。身近な場面でも国際的な舞台でも、根底にあるルールが似通っている気がする。そういった相似を観測することが、いますごく面白いなと感じています。

 

―――ありがとうございました。

 

前篇はこちら→ 30年ぶり再入学「人を説得する言葉を見つけに来た」…弁護士 笹本さん 前編

 

(取材・文 北原梨津子)

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