インタビュー

2022年7月9日

「コロナ禍を、生きづらさを、エリート街道をぶっつぶせ!」アナキズム研究者 栗原康さんインタビュー【後編】

 

 「生きづらさ」という言葉が社会で頻繁に使われるようになって久しい。特にコロナ禍では、日本社会を取り巻く閉塞感や圧迫感はいっそう増している。アナキズムという一見突飛な思想、それは「生きづらさ」の現代社会に何を投げ掛けるのか──。東大で「近現代史」の授業を担当し、アナキズムを専門とする政治学者の栗原康さんに聞いた。(取材・近藤拓夢)

 

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「コロナ禍を、生きづらさを、エリート街道をぶっつぶせ! 」アナキズム研究者 栗原康さんインタビュー【前編】

 

自分の奴隷状態を自分で解放せよ

 

──昨今、小田急線や京王線での刺傷事件や、東大弥生キャンパスの農正門前での刺傷事件など、他人や社会を巻き込んで自殺を図ろうとする「拡大自殺」が日本でも増えているように感じます。拡大自殺に関して栗原さんの考えを聞かせてください

 

 拡大自殺に関しては、社会に多くの責任が帰せられると思います。社会からの強いプレッシャーの中で追い詰められると「どうにかしなければいけない」という感情が思わぬ方向に暴発してしまう、ということがよくあると思うのです。これは──拡大自殺においてもそうですが──相模原の障がい者殺傷事件において、最も恐ろしい形で現れています。これらの事件の加害者は、「もっと社会の役に立て」と言われる側の人間だった可能性もあります。その中で、自分が「役に立っている」ことや、自分の存在をなんとかして世に知らしめたいという思いが、自分より「非生産的な」人への加害や無差別殺傷につながっているのでしょう。

 

 今の資本主義の世の中では「使えない人間は捨てろ」ということが平気で言われています。それを文字通り受け止めて、実践してしまう人が世の中に出てきているということは、とても恐ろしいです。拡大自殺に関していえば、弱者がより弱い者の生死を支配することで支配者ぶりたいという権力欲のゆがんだ表れのようにも感じます。自らが他者の権利を奪うことで「社会の奴隷」であることから解放された気になる。「主人のふりをしたい奴隷」とでもいえば良いのでしょうか。

 

 大事なのは、自分の奴隷状態を自分で解放するということです。主人のまね事をするのではなく、全く新しい「生のあり方」を求めることが必要になっていると思います。

 

取材で語られた波乱に満ちた人生は記者に示唆を与えてくれた

 

「無駄なこと」を東大で

 

──東大生の中には、良くも悪くも「エリート」としての生き方をしなければならない人が少なからずいます。しかしそれは手放しで素晴らしいこととは限らず、周囲からの期待がかえって抑圧となっている人や、本心では学歴や社会的地位にとらわれない生き方を望んでいる人もいるかと思います。アナキズムの見地から東大生にメッセージをお願いします

 

 東大で教えないかと最初に誘われた時は、正直戸惑ってしまいました(笑)。「はたらかないで、たらふく食べたい(栗原さんの著書のタイトルであり、「働かざる者食うべからず」という原理に対する栗原さんのアンチテーゼでもある)」と言っても、東大生に通じるのかなと。就職しようと思えば一番優遇されるような人々ですから。

 

 しかし、東大生は同時に一番社会からプレッシャーを掛けられる人たちでもあると思います。小さい頃から自らにプレッシャーを掛けて勉強をしていた人も多いでしょう。そういう人たちほど、大学に入って「無駄なこと」をやりたくなるのではないでしょうか。無駄に新聞を書いてみるぞ、とか(笑)。思うに、その無駄から人生が豊かになったり、興味が芽生えたりするものです。

 

 だからこそ、東大生の皆さんに言いたいことは「後先考えずに、フラッと生きることが大事じゃないかな」ということです。大学の真の意味はモラトリアムの場であることだと思います。無駄な時間を友人と過ごして、訳の分からない人々と出会い、訳の分からない知性を生み出して、それをめちゃくちゃな方法で表現する。そこにこそ喜びがあると思います。

 

栗原康(くりはら・ やすし)さん

09年早稲田大学大学院博士満期退学。修士(政治学)。14年より東北芸術工科大学非常勤講師。著書に『大杉栄伝── 永遠のアナキズム』(角川ソフィア文庫)、『はたらかないで、たらふく食べたい ──「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)など。

 

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