PROFESSOR

2023年1月31日

【教員エール】本郷和人教授 歴史を「推して」楽しんで

 

 入試本番まであと少し。歴史学者として活躍し、多くの著作を出版している本郷和人教授(東大史料編纂所)に、受験の思い出や日本史の魅力について聞いた。受験生の皆さんには、学びにあふれた東大生活を想像し、 東大で活躍するイメージを持って、全力を出し切ってほしい。(取材・佐藤万由子)

 

━━歴史への興味をどのように深めると良いでしょうか

 

 僕が言うのもなんですが「興味を深めた先で、ぜひ歴史学者になってほしい」などとは正直思っていません。

 

 なぜかというと、歴史学者はもうからないから(笑)。皆さんにはぜひ、アイドルを推すのと同じ感覚で歴史を好きになってほしいです。自分に推しができると、周囲にもその魅力を伝えたいし、好きになってほしいと思いますよね。僕にとっての歴史も推しと同じです。アイドルは引退があるけれど、歴史に引退はない。一生の趣味にできるところが魅力だと思います。歴史を学問分野として堅く捉えすぎずに、肩の力を抜いて「推して」ほしい、好きになってほしいと思っています。

 

 

本郷和人(著)『歴史学者という病』、講談社、税込み990円
―皆さんくらいの年齢で僕が右往左往している様子をウソ偽りなく書いています。少しは参考になるかと思いますので、ぜひ読んでみてください。

 

━━どのように受験勉強に取り組むと良いでしょうか

 

 自己分析は大切だと思います。受験生の悩みどころとして、どの教科も満遍なく点数を取るか、得意分野に磨きをかけるか、の二択があると思います。僕の場合は完全に後者でした。数学や物理は笑われるくらいできませんでしたね。高校1年生の中間テストの時に「物理だけ勉強する」と決めて対策したことがあるのですが、返却されたテストの点数はなんと6点でした。そのタイミングで物理を捨てる決心がつきました(笑)。数学に関しても「なぜこうなるのか」と考え込みすぎて前に進めなくなることが多かったので、そこはすっぱり諦めて「このパターンはこうする」と暗記学習に切り替えるようにしました。公式も、無理に理解しようとせず、暗記するものとして考えました。自分に合った勉強スタイルを身に付けてからは、比較的楽に成績が伸びたと思います。

 

━━日本史に興味を持ったきっかけは

 

 小学校4年生の時、家族旅行で京都と奈良を訪問し、そこで仏教芸術の美しさに衝撃を受けました。千年も前の人間がこのような美意識を持っていたのか、ということに感動し、歴史にも興味を持ち始めました。

 

━━中高生時代はどのように過ごしていましたか

 

 出身校が勉強に価値を置いていたので、恵まれた環境だったと思います。人が勉強することを馬鹿にしない、学習意欲の高い仲間が多かった。中高生時代は歴史に限らずさまざまなジャンルの本を読んでいました。仏教哲学に興味を持ったことをきっかけに、哲学書も読んでいました。かっこいい、といった単純な憧れから、ヘーゲルの『法の哲学』などを読んでいましたね。また、空海などのお坊さんの原著も読んでいました。そのおかげか、古文漢文は苦にならなかったです。

 

━━なぜ東大を志望したのですか

 

 こう言うと嫌味に聞こえるかもしれないけれど、一番通いやすくて、安かったからかな(笑)。教員であった母が東大の史料編纂所の先生と面識があったことも大きいように思います。「歴史が好きなら、東大の史料編纂所に行ったら」と言われていたこともあり、頭のどこかで東大を意識し続けていたのかもしれませんね。僕自身も現在は史料編纂所で働いていますし、不思議な縁を感じます。

 

━━受験生時代に苦労したことは

 

 親が口うるさかったですね。僕自身は塾に行く必要を全く感じていなかったのですが、母が教育熱心だったため、四ツ谷にある塾に通わされていました。授業を受ける気にもならないけれど、早く帰れば母に怒られるので、何をするでもなく四ツ谷の街をウロウロしていました。当時のヒット曲を聞きながらパチンコをやったこともありました。皆さんは僕の真似はしないで、ご家族と仲良く過ごしてください。

 

 ただ、自分の特性を理解して行動することは重要だと思います。僕の場合でいえば「じっくり考え込むのが好きで、授業を聞いて理解するのは得意でない」といった特性ですね。親に言われたからこうする、ああするのではなく、自分で自分を理解するのが大切だと思います。

 

━━学生時代のエピソードを教えてください

 

 せっかく素晴らしい授業が受けられるチャンスを棒に振ってしまい、今でも後悔しているのですが、大学に通うことが難しくなり、2年間ほど引きこもってしまったんです。というのも、パニック障害を引き起こしてしまって。地下鉄や教室といった閉じ込められる空間に恐怖心を抱くようになってしまいました。今から考えると、本当にもったいないことをしたと思います。

 

 大学という場所は、教員たちが命懸けで勉強していることを快く教えてくれる、最高にコスパのいい環境です。質問も自由にできて、まして東大は最高峰の専門家も多いですよね。それを使わない手はありません。学生の皆さんには、勉強できる今の一瞬一瞬はもう戻ってこないから、存分に勉強を楽しんでねと伝えたいです。

 

━━今の東大生から受ける印象は

 

 本当にいい子たちばかりです。しみじみ感じることが多いです。昔はこんなにいい子はいませんでした(笑)。「将来のために勉強しよう」という一生懸命さを感じます。昔は大人ぶって「社会にモノ申したい」というような姿勢で授業を聞く学生が多かったのです。今の学生は素直に授業を聞いてくれるし、変に目立とうとするわけでもないので、大人っぽいなという印象を受けますね。

 

━━どのような学生に入学してほしいですか

 

 「学ぶことの面白さ」を知っている人に入学してほしいです。受験勉強にしても「なぜこんなことを勉強しなければいけないのか」と言っている人は成績が伸びにくいものですよね。「将来役立つかもしれないし、楽しんじゃおう」という意識のある人は成績も伸びます。前向きに学ぶことを面白いと思える学生が増えれば、大学はもっと素晴らしい場所になると思います。

 

━━受験生へエールをお願いします

 

 「勉強を楽しんで」と話したものの、やはり受験勉強は覚える内容も多く、つらいでしょう。それでも無理矢理にでも楽しみを見出して勉強してほしいです。そうすると後が楽ですから。大人になってからの1年と若い時の1年は重みがまるで違います。後で後悔しないように、ぜひ勉強の時間を楽しんでください。もし受験勉強を大変に感じることがあったら、世界に目を向けてみてください。お隣の韓国、中国は日本以上に熾烈(しれつ)な受験戦争が繰り広げられていますね。その一方で、世界的に見れば勉強できる環境があるのはとても幸せなことです。世界には戦争など、さまざまな要因で勉強したくてもできない子どもたちがたくさんいますから。今の日本の環境を大切に、勉強を楽しんでほしいなと思います。

 

 東大は重箱の隅をつつくような問題ではなく、思考力を問う問題を用意していますから、安心して臨んでください。素晴らしい先生がそろっていますから、どの教科の問題もよく練られているはずです。ぜひ多くの学生に東大を受験してほしいです。そして受験に臨む上で、学びを楽しむ姿勢を忘れずにいてくれればとてもうれしいです。心から応援しています!

 

 

本郷和人(ほんごう・かずと)教授(東京大学史料編纂所) 88年東大大学院人文科学研究科(当時)博士課程単位取得退学。博士(文学)。史料編纂所助手などを経て、12年より現職

 

 

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