スポーツ

2021年8月12日

國枝健、不屈のラガーマンの2年間 【前編】第一の壁

 ボールの前に立つ。2歩下がり、1歩左に進む。はるか前方に立つ2本のポールの間を見据える。そしてボールを見つめ、深呼吸。準備完了だ。ここは「自分一人のフィールド」。他の選手が動きを止めて視線を注ぐ中、ついに國枝の右足からボールが蹴りだされた。高さ十分、飛距離十分。会心のキックに、思わず小さなガッツポーズが出た。波乱の日々を越えてきた國枝健(文・3年)。「ラグビーは精神のスポーツ」という恩師の言葉を体現するかのように、どんな瞬間も、闘志を失うことなく困難を越えてきた國枝の2年間に迫る。

(取材・川北祐梨子)

 

1年生の2月、ウエイトトレーニングに励む國枝(写真は國
枝さん提供)

 

第一の壁:脳震とう

 177cm、66kg。至って標準的な体格の青年、國枝健は、2019年の4月、東大に入学した。「初心者も、元運動部でなくても誰でも大歓迎!」。寛容な雰囲気と新歓練習の楽しさに魅了され、ラグビー未経験者ながらも、ラグビー部に入ることを決めた。駒場キャンパスのグラウンドでの練習が週に5回、加えてウエイトトレーニングが週に3~4回。タフな日々だが、中高とサッカー部で鍛えた体力を生かし、食らい付いていった。

 

 事件が起きたのは1年生の夏、初めての合宿でのことだった。合宿3日目の8月3日。タックル練習の際、相手の肩が顎に当たった。頭部に衝撃が走る。頭痛がしたが、最初は「ぼーっとして、気持ち悪い」 程度だった。しかし練習後、さらに強い頭痛や吐き気に襲われた。「また脳震とうを起こしてしまった」。実は國枝は6月に軽い脳震とうを経験しており、これで2度目だった。「長く練習を離れなければいけないかもしれない。これからどうなるんだろう」。不安が募った。連続した脳震とうは生死に関わることもある。予期していた通り、医師には3カ月間のコンタクト練習(接触プレーの練習)の禁止を告げられた。

 

 「試合に出た後の同期の楽しそうな表情を見ると、毎回つらく、悔しかった」。募るやるせなさに加え、練習が十分にできない焦りが國枝に追い打ちをかけた。経験者が6割を占め、毎日練習を重ねる同期たち。 対して自分は初心者で、しかも3カ月間満足に練習ができないのだ。「取り残されてしまう感じがした」

 

 だが、國枝は立ち止まらなかった。「悔しさをバネに、その期間でもできるウエイトトレーニングを重点的に行いました。復帰したら体の面では負けないぞ、と」。空きこまを積極的に利用して、トレーナーに作成してもらった週4~5回のメニューをこなし続け、11月には再びコンタクト練習に参加することが可能になった。1月からは新シーズンが始まり、試合の始まる4月も目前となった。ウエイトトレーニングが功を奏し、この頃には体重が1年前に比して12kg増え、78kgに。一目でスポーツ選手と分かる、がっしりとした体つきに生まれ変わった。「やっと、(試合に)出られるかな」。その矢先だった。(後編に続く)

 

國枝健、不屈のラガーマンの2年間 【後編】第二の壁、そして努力の開花

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