入試本番まであと少し。東大独自のサークルとして注目されている「東大襖クラブ」の戸谷祐登さんに、自身の受験や東大での生活について語ってもらった。東大で活躍するイメージを持って、全力を出し切ってほしい。(取材・伊藤凜花)
自分の強みを生かして最後まで努力
──東大を志望した理由を教えてください
高2のとき、部活の先輩に会いに五月祭に行き、工学部の展示を見ました。そこで都市工学科でまちづくりの研究をしていることを知り、面白いなと思いました。そのようなことが学べるのは近くで東大だけだったので、東大を受験しようと思いました。
──受験勉強で大変だったことはありますか
私はアメフト部に所属していて、周りの友人が高2の秋に部活を引退して受験勉強を始める中、高3の5月まで週4、5回の部活を続けました。周りに差をつけられているのではないかと、部活を引退して受験勉強を始めてからも焦りを感じていました。通学時間を利用して英単語などの基本を身に付け、限られた時間を計画的に使うことを心掛けていました。
振り返ると部活で体力がついたおかげか、特にセンター試験(現・共通テスト)後に毎日長時間集中して勉強し、スパートをかけることができたので、最後まで頑張って良かったと思います。受験勉強では自分の強みを生かすことを大事にしてほしいです。
──入試当日について教えてください
受験勉強を始めるのが遅かったこともあって過去問を消化しきれず、他の受験生と比べて努力が足りていないのではないかという不安はありました。それでも会場に入ったら気が引き締まり「やるしかない」と気持ちを切り替えられました。2日目の昼休みには衝動を抑えられず、受験していた私大の合格発表を見てしまいました。合格していたので良かったですが、要らぬ緊張を生んでしまったなと思います。
過去問演習のようにはうまくいかないなというのが本番の印象で、合格した手応えはありませんでしたね。それでも合格発表までの2週間弱は、旅行に行ったり映画を見たりして、結果のことは一切考えずにリフレッシュして過ごしました。
──合格が分かったときはどのように感じましたか
両親が本郷キャンパスの掲示板を見に行っていて、私は一人家に残ってネットで確認しました。まさか合格しているとは思わず、とても驚きました。その後私も本郷キャンパスに行き両親に「すごいね」と言ってもらっても、東大生になるという実感が湧かず「訪問者」の感覚が抜けませんでした。入学手続きを失敗しないかという不安もあり、東大に入学するのを実感したのはオリ合宿に行き、授業が始まってからでした。
奥深く多様な襖の面白さ
──襖クラブとはどのようなサークルなのでしょうか
一般家庭や商業施設などからの依頼を受けて襖や障子の張替えを行う、創部65年以上という歴史のあるサークルです。主に一都三県で活動していて、コロナ禍前は年間100件ほど張替えを行っていました。部員は現在学部1年生から大学院生まで、各学年5人ほどで合計30人弱います。
──入学後、襖クラブに入った経緯を教えてください
大学では新しいことを始めたいと思いいろいろな団体のビラを一枚ずつ確認している中で、大きく「襖」と書かれたビラを見つけ、珍しさから興味を持ちました。サークルオリエンテーションに参加し、部室で張替えの様子を見せてもらって衝撃を受け、入会を決めました。
部員によって入会動機はさまざまで、入学前から襖クラブのことを知っていたという人もいれば、日本の工芸に興味がある人もいます。
──襖や障子の張替えは難しそうに見えますが
料金を頂いて張替えを行うので、入部してからの1年間は「見習い」として部室で張替えの練習を行います。部室が狭く1人しか入れないので、最初に先輩にやり方を教わってからは1人で張替えを行い、後日先輩がチェックして襖にコメントを残す、というのを繰り返します。練習は大変ですが、難しい作業ではなく、回数を重ねれば誰にでもできるようになります。その後テストに合格したら、一人前として個人で仕事を請け負います。
──襖クラブの活動の魅力は何ですか
襖は奥が深く、いろいろな魅力があります。例えば和紙にもたくさん種類がありますし、伝統文化として歴史を感じられる側面もあります。個人的には出張したお宅の立て付けや間取りを見るのが好きです。活動を始めてから、旅行先で見た城の内装や自宅の襖などで、これまで見過ごしていたことに気付くようになりました。このように活動のさまざまな部分に面白さを見出せるのが最大の魅力です。
──コロナ禍で活動に影響はありましたか
しばらく感染拡大防止のために張替え出張を休止したので、依頼に応えることができずもどかしい思いをしました。その後都内、一都三県と範囲を限定して徐々に活動を再開していますが消化し切れていない依頼も多く、現在は依頼の受付を停止している状態です。
また新歓では直接対面で張替えを見せる必要があるため、コロナ禍が始まって最初の新歓は新入部員が入らず、活動を再開した現在、人手が足りていません。新入生だけでなく私たち上級生も経験を積むことができず、創部以来受け継がれてきた技術の継承が危うくなっています。
感染状況の今後は分かりませんが、元の日常に戻ることを期待して、しばらくはコロナ禍以前の活動頻度を取り戻せるよう頑張っていきたいです。
学び、進路の多様な選択肢が東大の魅力
──東大の環境についてどのように考えていますか
「体験活動プログラム」や前期教養課程で受講できる主題科目など、体験活動が非常に充実しているなと感じます。私は、せっかくだから教養課程のうちに進学予定の専門分野によらないさまざまな体験をしたいと考え、積極的に参加しました。特に1・2年生対象の「柏サイエンスキャンプ」で、柏キャンパスだけでなく福島県まで足を延ばし、エネルギー政策についてのフィールドワークを行ったことはとても印象に残っています。他にも種子島に行ったり牧場作業体験をしたりとさまざまなプログラムがあり、他の大学にはない恵まれた環境だと思います。
その意味では進学選択も良い制度だと思います。成績面など大変な部分もありますが、大学での学びを知った上で進学先を選べるのはとてもありがたかったです。
また学生は、勉強だけでなくピアノやスポーツなど、プラスアルファで何かできる人が多い印象です。高校にはそのような人があまりいなかったので、入学してから衝撃を受けました。
──受験生へのメッセージをお願いします
周りとの差に悩むこともあるかと思いますが、受験は自分との勝負です。ひたすら自分ができないところをつぶし続けてください。勉強に疲れたら、息抜きにぜひ東大のことをいろいろと調べてみると良いと思います。授業以外にもさまざまな活動ができる仕組みが整っているので、大学生活への期待を膨らませて、それをモチベーションに頑張ってほしいです。