インタビュー

2021年4月10日

「学びを社会と結ぶ」学生たれ 藤井輝夫新総長就任記念インタビュー・後編

 今年4月、五神真前総長(東大大学院理学系研究科教授)からバトンを受け、第31代東大総長として藤井輝夫新総長が就任した。これまで財務担当の理事・副学長や社会連携本部長として東大の改革に参画してきた藤井総長は現在の東大が抱える課題をどのように認識し、どのような改革を見据えているのか。東大新聞オンラインでは就任直前に実施したインタビューを2回にわたって掲載する。後編の主な話題は藤井総長が求める学生像や自身の学生時代、学生の多様性向上に向けた取り組みについて。藤井総長は「学びを社会と結ぶ」ことの意義を主張するとともに、学内の多様性向上に向けた取り組みにやる気をのぞかせた。

(取材・中野快紀、撮影・高橋祐貴)

 

 

 

多様性向上へコミュニケーション不可欠

 

――「大学の体力向上」を課題として挙げたが、そのためには学内の改革が不可欠。学内の課題としてジェンダーバランスの偏りの問題が挙げられるが、現在の認識は

 

 ジェンダーを含めたダイバーシティーは非常に重要で、多様な視点を持つ人たちが1カ所にいることはより高いレベルのアウトプットにつながります。4月以降もダイバーシティー&インクルージョンが非常に重要なテーマであり、前面に押し出そうと考えています。ただ、一部メディアで報道されたように新執行部に占める女性の割合が過半数となったことについては、各担当で適切な人を選んだ結果としてそうなったという話であり、女性を過半数にするという目的が先にあったわけではありません。

 

――3月10日の学部入試合格発表で合格者に占める女子の割合が過去最高の21.1%になった一方、2010年策定の「行動シナリオ」では20年度までに30%という目標を掲げていた。「21.1%」という数字をどのように見るか

 

 具体的な施策についてはまだ話せる段階ではありませんが、改善していきたいと考えています。ただ、学内の構成員の属性に関する問題は男女の問題だけではありません。性的マイノリティの方、障がいのある方、留学生など、ダイバーシティー全体を考えながら本課題に取り組んでいきます。そこはまさに全学的にコミュニケーションを深めて共感を広げていきたいです。

 

――濱田元総長が策定した学部の総合的教育改革の全面施行から丸6年が経過した。東大の教育の現状をどのように認識しているか

 

 総合的教育改革の策定時に着想していたことについては、定着がかなり進んでいると認識しています。また、五神前総長が進めた国際卓越大学院制度における博士課程学生への経済的支援についても、かなり支援の幅が広がってきています。そういう意味では優秀な学生が博士課程に進学してしっかり経済的支援を受けながら学び続けることができるようになってきているといえます。

 

――学部教育、大学院教育それぞれについて、今後改善すべき部分を挙げるとすれば

 

 私は「学びを社会と結ぶ」ことを主張してきました。学生が大学で得た知識を生きたものにするには現場の体験が必要で、直接役に立たないとしても現場を見ることによって「あの時やったことがここで生きるな」といった経験を広げていくことが大事だと考えています。学生が社会と接する機会を国内外問わず広げていきたいです。

 

――東大生に求める学生像は

 

 学問を極めるにせよ学びを生かして就職するにせよ、主体性を持って物事に関わり、創造的に対応できる力を身に付けてほしいと考えています。自分が興味を持ったことに対して努力を惜しまずに対応することは重要です。特にCOVID―19の影響で行動・活動が制限されている中、やれる範囲でどのようにして目的を達成しようかと考えることにはある種の創造性が必要になります。学生にはこれらの主体性、創造性の発揮を期待したいです。また、冒頭でも指摘した通り、自分のことだけを考えるのではなく、広く社会や地球全体に対して配慮できることも大事だと考えています。

 

――総長として理想の学生像を描くに当たり、自身の学生生活はどのように振り返るか

 

 私自身は理Ⅰに入学し、サークル活動などに明け暮れていました。そもそも東大に入りたいと思ったのは、海のことをやりたいと思っていたから。海の中を調べたかったというよりは、いろいろなことを調べることを可能にするエンジニアリングをやりたいと思っていました。結果として工学部の船舶工学科(当時)に進学しました。

 

 サークル活動については、海に興味があったことから一つはダイビングサークルに、もう一つはバンドサークル「東大音感」に所属していました。そういう意味では大学で勉強しながら、さまざまな現場でかなり充実した体験をしていた記憶があります。

 

 また、当時はエチオピアで大きな飢饉が発生していて、USAフォー・アフリカやバンド・エイドなど世界の問題を解決しようとする運動に関する情報がリアルタイムで入ってきており、そういう問題に関心がありました。

 

 講義で学んでいたことに関しては、学部を卒業するかしないかの時期に、沈没していたタイタニック号を発見したというニュースが世界を駆け巡りました。その際に潜水機器が活躍していたのを見てやはり非常に面白いと感じ、自身の関心が海中ロボットの研究を行う方向に一層進んでいきました。自分が研究していることが現実の世界に直結していると感じ、興味がどんどん広がっていった原体験があります。そういう環境を作ってくれた私の先生も素晴らしかったと思います。例えば、FLY Program(希望する学部新入生が1年間休学し、大学の外で自主的な活動に取り組むことができる制度)を創設したときにはアドバイザーの先生を学生に付けましたが、学生がやりたいと思ったことに対して教員が適切に点と点を結んであげられる環境を増やしたいです。

 

東大の良さ、伝える努力を

 

昨年のオープンキャンパスではアバターの姿で自身の研究領域について講演を行った(写真左の壇上)

 

――学生参画の観点も含め、東大というコミュニティーの中で学生をどのような存在として位置付けているか 

 

 私自身学生の意見を聞いてみたいと考えています。今のCOVID―19に対して、みんなで協力しながら学内の活動を制限している中で、学生が実際どのような意見を持っているのかを聞いてみたいです。学生に関してもう一つ重要なのは、卒業生のネットワーク構築。卒業生に在学生のことを支援してもらう「Greater 東大コミュニティー」構築が非常に大事です。構想は温めている状態ですが、卒業生とどうつながっていけるかを議論していて、デジタルツールなどを使いつつ何とか工夫していきたいと考えています。

 

――4月12日の入学式には総長として新入生に直接言葉をかける機会もある。対話を重視する中で、今後新入生や既存の学生に対してどのようなことを伝えていきたいか(編注:藤井総長の新型コロナウイルス陽性判定により、総長式辞は取り止めになりました)

 

 やはり一番伝えたいことは「学生一人一人が東大という一つの大きいコミュニティーの仲間である」ことです。大学で展開されているのは構成員間の対話であり、ある種の東大のカルチャーのようなものを共有していきたいと考えています。一方、2020年度入学生から入学式のようなイベントをやってほしいという声があることも認識しています。

 

――より大きな「Greater 東大コミュニティー」を考えていくとなると、今後東大に入る可能性のある人たちへのメッセージも重要だ。どのように考えているか

 

 もちろんこれも、より積極的にやるべきだと思っています。例えば昨年度はオープンキャンパスが実地開催ではなくオンライン開催となったわけですが、ただ逆に「もう一つ手段が増えた」という考え方もできるわけです。もちろん対面での可能性も探りながら、オンラインを活用しつつ東大の良さがしっかり伝わり、参加者が必要な情報にアクセスできるように整えていきたいです。

 

――東大が多様性を重んじる意義が社会に伝わっておらず、現在のジェンダーバランスなどの問題を生んでいる側面があるのではないか。その意義をどのように伝えていきたいか

 

 伝え方は工夫が必要だと考えています。東大としてのコミュニケーション能力を高めていきたいと思っています。本当に伝えたいと思っている人にどう受け取られるか、どう伝わるかをしっかり考えながら送るべきメッセージやその見せ方を考えなければいけないと思っています。4月以降の重点課題の一つです。

 

 例えば東大を志す女子学生やその親など、メッセージを受け取ってもらうべき人にしっかりと東大の良さを伝えなければなりません。東大がダイバーシティーを大事にしているのであれば、それはどういう理由で、どう重要なのかをちゃんと伝える努力はしないとなりません。

 

――ではもし東大を志す高校生に東大の良さを語りかけるとしたら何を伝えるか

 

 まず一番は本当に高いレベルの知に触れることができる環境が整っていることです。例えば文系でも、分野の最高峰の先生がたくさんいらっしゃって、その方々から直接教わることができるし、周りの若手教員や研究者であっても非常に能力の高い人たちがそろっています。留学生まで含めれば、大学院などはかなり国際性が高く、そういう人たちとも一緒に活動ができるということも大きいです。それから理系でいうと、世界の中でも東大にしかない施設・設備もあります。そういう多様なものが一つの大学に同居していることは大きな魅力です。

 

 

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