インタビュー

2015年7月25日

「直感信じて突き進め」 東大卒 弁護士兼プロボクサー 坂本尚志さんインタビュー

弁護士とプロボクサーという2種類の仕事を両立させる坂本尚志さん。東大在学中に司法試験に合格し、弁護士として働く傍らプロボクサーとしても活躍している。「弁護士もプロボクサーもどちらも本業」と話す坂本さんはなぜ二つの職業を兼ねようと考え、どのようにして両立させているのか。弁護士、プロボクサーそれぞれのやりがいや資格取得に関する東大生へのアドバイスを取材した。(取材・矢野祐佳 撮影・林拓巳)

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兼業で互いに好影響

――弁護士とプロボクサーを兼業しようと思ったきっかけは

司法試験合格後、司法修習生として法律実務について学んでいるときに、全日本実業団ボクシング選手権大会で優勝したことですね。ボクシングは高校生のころからしていて、弁護士になったらアマチュアでやめるつもりでした。でも大会で優勝して、ボクシングが上達しているのにやめるのはもったいないと思いました。どうせボクシングを続けるならプロになろうと思い弁護士とプロボクサーを両立させることにしました。

―弁護士とプロボクサーを兼業する生活とは

1日の大半は弁護士の仕事をしています。弁護士業には基本的に休みがありません。ボクシングは1日2時間ほど、夜練習することが多いです。朝走り込みをするボクサーが多いのですが、僕は「夜型人間」なので夜走っています。日中は弁護士として働き、夜にボクシングの練習をするという生活をしています。 ボクシングの試合の前日、当日には弁護士の仕事は極力入れないようにしています。しかし刑事事件が起きるなど突然弁護士の仕事が入ることもあります。試合は夜なので試合そのものと弁護士の仕事がかぶったことはないのですが、ボクシングの計量が終わってすぐに弁護士として警察に走ったこともありました。 たとえボクシングの試合が差し迫っていようと、僕を頼ってくれる人がいる限りは弁護士としても働きます。仕事を両立させるとはそういうことだと思っていますから。

―弁護士とプロボクサーを兼業して良かったこと・苦労することは

良かったことは二つの仕事が互いに好影響を及ぼしていることです。系統が違う二つの仕事を兼ねているので弁護士とプロボクサー、双方の立場で目立ちます。弁護士としては仕事をよく依頼されますね。プロボクサーとしては、話題性があるという理由で試合を組んでもらえることがあります。 苦労するのは、仕事の両立のために身体的にも、精神的にも疲れることです。昼に弁護士、夜にボクサーとして活動するのには体力が要ります。弁護士の仕事がうまくいかないと「ボクシングもやってるからだ」と言われ、ボクシングの方では「もっとボクシングに打ち込め」と言われ……。二つの仕事の間で板挟みになることもありますが、どちらも中途半端にならないよう「仕事をきちんと両立させなくては」と強く自覚を持っています。プロボクサーの定年の37歳になるまであと3年は仕事を両立させるつもりですね。

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自分の裁量で仕事を

文Ⅰに入学し、法学部に進学しました

中学生のころに世の中の仕組みに興味を持ったのがきっかけです。経済学や社会科学からも世の中の仕組みは学べるとは思いましたが「法学部に行けば確実に学べるだろう」と考えて文Ⅰや法学部を志望しました。政治学は真面目に授業を受けられましたが、法律学にはあまり興味が湧きませんでしたね。

弁護士資格を取ろうと思った理由、きっかけは

高校生のころに弁護士志望の友人がいたことですかね。僕に弁護士という将来の新たな選択肢が生まれました。他人の下で働きたくない僕には、司法試験に受かりさえすれば自分の裁量で仕事ができる弁護士は魅力的でした。

弁護士資格の取得までにした勉強、苦労したことは

特殊な勉強はしていません。広く使われている司法試験対策書籍の『伊藤真試験対策講座』(弘文堂)を読み、司法試験の過去問を解くことを繰り返していました。人の授業を聞くのが苦手だったので、予備校には通いませんでした。基本事項は自分で勉強し、1回目の司法試験に受からなかった後は司法試験の模試のような「答案練習会」をもう2年続けて、司法試験には3回目で受かりました。 苦労したのは、法律学の勉強が面白くなかったことです(笑)。法律学は文言解釈になりがちで、文字や字句に従って法律条文を理解することに僕はあまり興味を持てませんでした。 4年生から受け始めた司法試験に一度では受からず、5年生の時には同級生が社会人になっていることもつらかったですね。「みんな社会人になっているのに自分はまだ試験勉強をしている」と思うと苦しくなることもありました。でも「いまさら引き返せるか」という意地もありましたし、司法試験には必ず受かると思っていたので乗り越えることができました。

弁護士のやりがいは

仕事がうまくいったときの達成感は大きいです。依頼してくれた人から感謝されますし、別の依頼がある人を連れてきてくれることもあります。「僕の仕事に満足したから、僕に新しいお客さんを紹介してくれたのかな」と思うとうれしくなりますね。仕事に対する評価をじかに感じることができます。

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憧れの自分に近づく

プロボクサーになるためにどのような練習をしましたか

司法修習生のころはジムで週3回、1日2時間ほどボクシングの練習をしていました。プロを目指してからは週6回、1日2時間~2時間半ほど練習しましたね。 プロボクサーを目指し始めたときにはすでに弁護士になっていました。弁護士の仕事を夜7時くらいまでした後、徒歩5分程度の距離のジムに行って毎日2時間程度ボクシングの練習をし、また事務所に戻るという生活をしていました。弁護士とはいえ新人だったので、仕事も多くなく時間に余裕はあったんです。

プロボクサーになるまでに苦労したことは

「弁護士がプロボクサーとしてデビューする」ことを、ジムになかなか理解されなかったことです。「ボクシングをやりたいならアマチュアでいいじゃないか」と言われましたね。「他の選手の応援に行くのにプロのライセンスがあると費用がかからない」という理由で、ライセンス自体はプロを目指し始めて数カ月後にはもらえました。 でもそれから1年以上デビュー試合は組んでもらえなかったんです。デビューを認めてもらうために、ジムに行っては練習に打ち込みました。

プロデビューのきっかけは

トレーナーを必死で説得したことが直接のきっかけですかね。僕はデビュー試合を迎えていないのに、僕より後からジムに入った人が先にデビューしていく状況に耐えられない、とトレーナーに訴えたんです。 「デビュー戦で負けたら今後試合は組まない」との条件でデビュー戦を組んでもらいました。1ラウンド目にダウンを奪われポイントでは絶体絶命の状況まで追い込まれたんですが、何とか勝ちました。デビュー戦のことは今でも鮮明に覚えていますね。

プロボクサーのやりがいは

好きなことをできている実感を持てることです。続けているのは意地に近い気もしますが(笑)。プロボクサーとして活動するとやはり体力的に厳しいと感じることもあり、減量中は精神的な負担も大きいです。それでもボクシングという好きな活動をできることに喜びを感じます。 弁護士と両立できていることにもやりがいを感じます。自分で事務所を構える弁護士もプロボクサーも、他人の指示というよりは自分の裁量や技術でやる仕事です。高校卒業のころの僕はそういった「自分の腕一つで世の中を渡っていく人」に憧れていました。当時の僕が今の僕を見たら「なりたい自分に近づいているな」と思うんじゃないですかね。

資格取得に関して、東大生にアドバイスをお願いします

資格は人生の問題を一度に解決してくれる便利なものではないということを心にとどめておいてほしいですね。資格があるからといって人生の幸せが約束されるわけでも、お金持ちになれるわけでもないです。 ただ、資格があると自分の世界を広げてはくれます。ある資格が人生において役立つと思ったなら、その直感を信じて突き進んでください。僕はたくさんの資格を得るより、核になる資格を一つ得たらいいと思います。それから他の資格を必要に応じて取ることをお勧めしますね。まずは自分の核になる資格を見つけてほしいです。 資格取得には試験が付きまといますが、東大に入るだけの学力があるならば受からない試験はないと思います。資格のための勉強がうまくいかないこともあるかもしれませんが、資格試験を突破しさえすればあとはその世界に飛び込むだけです。ためらわずに、勇気を持って飛び込んでほしいですね。

 

坂本尚志(さかもと・たかし)さん 弁護士、プロボクサー 01年文科Ⅰ類入学。06年旧司法試験合格。08年法学部卒。09年弁護士登録、10年清陵法律事務所開設。11年プロボクサーとしてデビュー。 この記事は、2015年7月21日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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