COLUMN 2014年8月20日

就職はできなかったけど夢を叶えた大人の話 霜田明寛の就活十番勝負10

shimoda10.jpg モデル:下田奈奈 元「ZIP!」リポーター/明治ガールズコレクション2012 グランプリ

 

 先日、東京国際フォーラムで号泣しました。 ただ、その理由を書いてしまうと1行で終わってしまい、感動の理由も伝わらないと思うので、号泣までの経緯をお伝えしたいと思います。 この連載は、就職活動についてのものですが、今回は少し就活から離れて、僕の個人的な話をさせてください。最終的には、就職活動と自分の「夢」についての話に落ち着きます。

 話は今からちょうど8年前にさかのぼります。大学3年生の夏、僕は自分の就活がうまくいきそうなことに調子に乗っていました。日テレのアナウンスフォーラムという青田買いセミナーの面接に通過した、男子50名ほどの中に残っていたのです。そのときはもうアナウンサーになる気満々で、自分の背が低いことすら「日テレっぽいな、俺」と思えていました。

  しかし。その後に行われたカメラテストで放ったギャグが人生最大の大スベリとなり、もちろんそれだけが理由じゃないのですが、不採用になってしまいます(その悲しい経緯は僕の1冊目の本『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』に詳しく書いたので割愛しますが…)。 今、振り返ると、完全になめくさっていましたが、僕は「ジャニーズに入れる」と思って生きてきた男なので、就活がスタートしたときには「まあ、ジャニーズに入れなかったけれど、アナウンサーにくらいはなれるだろ」と思っていて、日テレから人生初の不採用をつきつけられたときですらも「まあ、地方のテレビくらいいけるだろう」と思っていました。

 しかし、その予想は大きくハズれ、落ちまくりました。そういうセルフイメージが肥大な男というのは、現実の自分との落差が大きいために、ヘコむ量もでかいのです。 ジャニーズにも入れず、アナウンサーにもなれず、全ての夢が絶たれた自分の人生は、今後、二度と上向くことがないかのような感覚に陥りました。 自分は世界の一番底にいるような気がして、電車に揺られるサラリーマンを見て「もしかして、みんな偉いのかもなあ……」と思うようになりました。 ホームレスが強制退去させられるというニュースを見た日の夜に僕が見た夢は、自分が撤去されている夢でした。ちなみに、ホームレスとしてではなく、ダンボールとしてでした……。 仲間たちはどんどん「就活ゲーム」から抜けていきます。大学で所属していたアナウンス研究会の友達、就職試験で出会った友達……。僕は同じ夢を目指す仲間たちとばかり接していたので、その現実から目を背けることができませんでした。

 むしろ、彼らの夢が叶っていくのを目の当たりにしてしまったため、余計ツラかったのです。 面接で隣に座っていた友人と帰り道に一緒に歩いていると、友人の携帯電話だけ鳴るということもありました。 こんな状況が続き、僕は、「なぜ自分は選ばれなくて、彼らは選ばれるのか」をひたすら考えるようになりました。面接が終わると、自分のことはもちろん、他の人が何を話し、どんなリアクションだったのかについても、ひたすらメモ。 その後、内定のないまま、お笑い芸人になってみたものの、マネージャーに殴られ、ヘロヘロになって事務所を辞め、さらに大学を留年するという最悪の状況に。 ふとテレビをつけると、一緒に就活をしていた友人たちが「初鳴き」(アナウンサーが初めてテレビに出ること)をしていて、僕は静かにスイッチを切りました。「自分は就職という道を選ばなかったんだ」と自分に言い聞かせながらも、世間的に見たら完全に「負けている」状況。大好きなジャニーズが毎週出る『ミュージックステーション』も、高校の同級生が司会に代わってから、見られなくなりました。

  テレビをつけなくなった僕の唯一の楽しみは、書店に行って本を探すこと。しかし、お金のない僕にとって1000円を越える単行本は高級品です。大型書店に行っては、3~4時間はグルグルと全フロアをまわって吟味し、1~2冊「これだ!」と思った本を買って帰るというのが、ささやかな贅沢でした。 そんなふうにして買った本の1冊が、水野敬也さんの『LOVE理論』でした。自分の恥ずかしい過去と、恋愛についてのトライ・アンド・エラーを、笑いに包み、見事にノウハウ化していて、「この人は決してモテないかもしれないが、この恋愛理論は使える!」と震えながら読みました。 幾度となく本を読み返すうちに「モテなさそうな人の恋愛理論がこれだけ参考になるのだから、内定が出ていない僕でも、就活理論について書くことができるのではないか!?」と思うようになりました。

 そして、かつての就活メモを取り出し、それをもとに本を書き始めました。それが、『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』です。 水野敬也さんは、学生のときの就活でアナウンサー試験を受けており、また1次面接では盛り上がるものの2次試験で落ちてしまうので、あだ名が「2次の水野」だったそうです。さらに、学生のときに就職しなかったことも含めて、就活以後にたどった人生の道が僕と似ていることから勝手に親近感を抱き、本人のところに押しかけていって、「弟子」になることができました。

  その頃の水野さんは、『夢をかなえるゾウ』が大ヒットした後で、次のヒットがまだ出ていないときでした。2人で「水野は一発屋じゃないよ!」と書いた旗を振り回しながら書店を行脚したりしましたが、苦笑されることもしばしば。僕はよく、「水野アトリエ」に泊まり込んでいたのですが、水野さんは深夜2時に僕ら弟子の部屋にやってきては「俺、どうすればいいと思う?」と相談のような疑問を投げかけていきました。 そうして書かれたのが『夢をかなえるゾウ2』です。主人公は、大学生のときにアナウンス研究会に所属していて、いったんは就職活動をしますが、その後芸人になる、というお話です。 この本が発売されると、周囲からは「これ、霜田がモデル?」と言われまくりました。ただ僕自身は、これは、水野さん自身の投影なのではないかと思っていました。

  あれから2年。水野さんは、『夢ゾウ2』以降にも、『人生はワンチャンス!』『人生はニャンとかなる!』『それでも僕は夢を見る』など、ベストセラーを連発。2014年上半期ベストセラーランキング(日販調べ)にもベスト20内に2冊もランクインさせます。そんな最高の状態で迎えたのが、先日、東京国際フォーラムでの、映画『イン・ザ・ヒーロー』のキックオフ会見だったのです。 『イン・ザ・ヒーロー』は、今年9月に公開される映画で、唐沢寿明さん演じるスーツアクター(変身ヒーローや怪獣などの着ぐるみやスーツを着て演技をする俳優)が主人公。頑張っているけれども、陽の当たらないスーツアクターがチャンスを掴もうとするストーリーで、このオリジナル脚本を水野さんが担当しました。 僕は前日から水野さんの家に泊まり込み、付き人として会場に同行。そして会見には、自分が編集長を務めるニュースサイトでの取材のために、プレスとして入りました。

 会見では、唐沢さんをはじめとする登壇者が、自分の昔の写真を披露して、当時の夢を語る、というコーナーがありました。唐沢さんはスーツアクター時代の写真、監督の武正晴さんは助監督時代の写真を、そして水野さんは就職活動で使ったスーツ姿の写真でした。 水野さんの写真は、アナウンサー受験のためにスタジオで撮られていて、満面の笑みを浮かべていました。司会者に「当時の夢は?」と聞かれた水野さんは、「内定ですね。でも、このあと就職活動でひとつも内定取れなかったんですよ」と笑いながら答えていました。

 しかし、次に水野さんが喋ったあとに聞こえてきたのは、僕の横にいたカメラマンの「き、キミ、大丈夫か!?」という動揺した声でした。 水野さんは当時の自分の写真を指して、こう続けたのです。 「でも、彼の夢は、今、全部叶っています」 ウエッウォッ。 気がつくと僕は記者席でカメラを構えながら号泣していました。今にも倒れそうな僕を、隣の男性カメラマンの太い手が支えていました。周りにいる報道陣は、僕と水野さんの関係なんてもちろん知らないので「なぜか脚本家に異常に感情移入している記者」を覗きこんでいました。 僕の頭の中には、『夢ゾウ2』の幻のラストシーンが鮮烈に浮かんでいました。水野さんは本を何回も書き直す人なのですが、『夢ゾウ2』は出版される直前にラストシーンが変わったのです。

 もともと予定されていたラストシーンは、芸人を目指していた主人公が、放送作家として成功して記者会見にのぞむ、というものです。多くのフラッシュがたかれる中、間接的に夢を叶えた主人公……。このとき、僕は目の前の光景を見ながら「こ、これは夢ゾウ2の幻のラストシーンや……」と震えたのです。 僕は新卒では就職できなかったのですが、ライターとして活動し、その後、今の会社に就職しました。思えば、学生のときの就職活動で考えていた「夢」というのは、「就職活動用に考えたもの」だったような気がします。いわば、「別に心底やりたいことではないけれど、その会社に入るんだったら、やってもいいかなと思えること」を、「夢」と言い張っていたのかもしれません。そして、就職できないことは、自分の夢がかなわないことだと思い、内定が取れなかったときには、心底落ち込んでしまいました。

 でも、決してそんなことはなかったのです。僕がそのとき夢だと思い込んでいたものは、就職活動のときに生まれた、「目先の目標」だったのです。就職できないことと、本来の夢がかなわないことは全く別物でした。 さらにいえば、振り返ってみて、就職できなかったことの効用も、いくつかありました。 まずは、「目先の目標」を達成できなかったことで、見ないようにしていた、「本来の夢」を直視しなければならなくなったこと。 就職して目先の仕事に追われる状況になると、自分の本来の夢のことを考えたり、それに向かって行動したりすることがなくなったかもしれません。そのまま年をとっていくのは危険なことであるような気もします。

 また、2つ目の効用として、選ばれなかったことで、簡単にいえば「負け」の側に立つことで、自分の共感の幅が広がった、といえます。「選ばれなかった」という新しい感情を与えられたと言ってもいいでしょう。今回で10回目を迎えるこの連載を読んでくださった方の中には、僕のそうした感情に気がついた方もいらっしゃるかもしれません。 就職できなかったからこそ、叶えられる夢だってある。 就職できなかったからこそ、見えてくる世界だってある。

 夏になっても内定が取れずに頑張っている就活生、そしてこれから就活を控えている学生たちに言いたいのは、選考に落ちたとしても、それは人生全体で見たら決して悪いことではない、ということ。 その状況は、自分には、「本来の夢」があるかもしれないということに気づくチャンスでもあるかもしれません。ひょっとしたら、本来の夢への未練があるうちは、面接には通りにくい、という矛盾っぽいことまで生じるかもしれません。 もちろん「就活用に考えた夢」について語り、テクニックを駆使して面接を通過することはできます。

 しかし、そんなふうに突貫工事で作った夢は、優秀な面接の担当者には見ぬかれますし、何よりも自分で自分の噓に薄々気づいているので、心がこもらないのです。特に最終面接は、ほぼ熱量勝負といってもよく、心がこもっていない人は負けてしまうのです。 もし、あなたが面接に落ち続けているのだとしたら、本当は自分の本来の夢が別にあるのかもしれません。僕もそうでした。そんな人は、器用に立ちまわって内定をもらうことができないかもしれません。

 でも、大丈夫。世の中には、「夢を語ったときに笑わない大人」がきっといるはずです。 映画『イン・ザ・ヒーロー』の中で、福士蒼汰さん演じる一ノ瀬リョウが、ある大きな夢を語ります。そのとき、仲間のひとりはそれを笑い飛ばすのですが、唐沢寿明さん演じる本城渉は、笑うどころか、急にテンションを上げます。そうして2人の距離は一気に近くなり、その後の本城は、リョウの夢を助けます。 本城も、そしてこの本城というキャラクターを創りあげた水野さんも「人の夢を笑わない大人」です。若者がどんなに大きな、根拠のなさそうな夢を語っても笑わない大人は、必ずや、その若者の夢を助けてくれます。

 僕も、まだまだ、会社員をしながら、文章も書きつつ、という中途半端な、夢の途中の身分ではありますが、水野さんを筆頭とする、「人の夢を笑わない大人たち」に出会えたおかげで、なんとか生きてこられています。 そして。『夢をかなえるゾウ2』には、こんなセリフが出てきます。 「無職」の新しい呼び方はこちら。夢職。 何者でもないからこそ、何者にでもなれるこの夢のある期間を、もう少し僕も皆さんと一緒に楽しんでいければと思っています。

 

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霜田明寛 (しもだ・あきひろ) 1985年生まれ、東京都出身。国立東京学芸大学附属高等学校を経て、早稲田大学商学部を卒業。2008年の大学在学中に、第四回出版甲子園準グランプリを受賞し、執筆活動を始める。雑誌記者・ライターとして活動する傍ら、『夢をかなえるゾウ』著者の水野敬也氏に師事し、『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』『マスコミ就活革命(レボリューション)~普通の僕らの負けない就活術~』の著書を出版。 その後、就活生相談や全国の大学からの講演依頼が殺到。アナウンサーをはじめ、テレビ局、出版社、広告代理店など、マスコミを中心に多くの就活生を送り出す。2013 年からはPR会社に勤務する傍ら、早稲田大学で就活講座を担当。主宰するセミナー『就活エッジ』も好評を博している。 ◆『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』が電子書籍化されました! http://amzn.to/1kgAi20

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