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2015年9月10日

安保法案東京大学人緊急シンポジウム開催 「東大は70年前の戦争に加担した」

8日、東京大学本郷キャンパスで「安保法案東京大学人緊急シンポジウム」が開かれた。安保法案東京大学人緊急抗議集会・アピール実行委員会が主催した。東京大学で学んだ議員や学者、そして現役の職員や学生が、それぞれの立場から安保法案に対する反対の声を挙げた。雨の中集まった350人が、経済学部棟地下1階の会場を埋めた。

登壇する広渡清吾氏

 

まず、史料編纂所教授で呼びかけ人の横山伊徳さんが「会場の皆さんとの充実した議論を通じて、良心の府とされる参議院で与党を追い詰め、廃案を実現するよう、大学人として力を注いでいこう」と訴えた。

 

「象牙の塔が動いた」

続いて、アピールの賛同者として、経済学部を卒業した亀井静香衆議院議員が壇上に上がった。亀井議員は「私は、東大に裏から入って裏から出たような男ですが」と笑いを誘った後で、「学問の府、象牙の塔は、社会を動かすため、よくするためにあるものだと思う」と述べた。

そのうえで「皆さん方が立ち上がって、象牙の塔が動いたということは、それなりにインパクトを与えるんです。ぜひ自信を持って、今日こうしておやりになったこと自体が、日本の歴史に必ず前向きな足跡を残していく」と話した。

次に、教育学部を卒業した共産党の宮本徹議員が登壇し、「今や、政府がこの法案が合憲だと言ってきた論拠が、ことごとく崩れてきている。こんな状況で、どこでも通用しない屁理屈をこねくり回してこの法案を強行するなど、知的頽廃の極みじゃありませんか」と政府を強く批判した。

その後、学者として活躍する「東京大学人」が、それぞれの専門分野の視点から、安保法案に対する疑問を呈した。軍事研究を禁止する東京大学憲章の策定にも関わった、専修大学大学院法学研究科の広渡清吾教授は、「私たちが安保法案に反対するのは、新生日本建国の理念の柱を擁護する戦いである」と話した。

また、東京大学法学部で憲法を教える石川健治教授は、「学者とは本来、活動的な生活とは切り離されて物事を深く考える、非政治の領域で卓越性を競い合う人種だ。とりわけ憲法学は、政治と境を接しているだけに、安易に政治領域を立ち入ってはならない。気質としても、私は非政治的な人間だと思う。しかし自分のような者でも、ここは引き下がるわけにはいかないだろう」と、危機感を示した。

 

「若いうちは、まずは行動することが大事」

その後も学者によるスピーチと討論が続いた後、学生と職員がマイクの前に立った。このうち、理科一類の1年生は次のようにスピーチし、大きな喝采を受けた。

「政治的なことをすると、すぐ勉強不足だとか芸能人やネットで馬鹿にされる。『あなたはどうなのか』と言い返したくなるのですが、確かに知識が足りないのは、僕も承知しています。では、知識をつけるまで黙っていようか、と考えました。

労働組合や学生自治会を中心として行われていた60年代の安保闘争は、ある意味で完成された思想、イデオロギーを持っていました。しかし、だから失敗に終わってしまった。インテリによる、インテリのための暴力にしかなりえなかった、と考えます。

今は違います。不完全、だけどそれぞれに全く異なる価値観を持った人たちが、今の日本を守りたいという、その一心だけで集まっています。僕はむしろ、それを強みにできると思います。若いうちは、まずは行動することが大事。これは、僕の恩師のおっしゃった言葉であり、かつ僕自身の実感です。知性の放棄や軽視を意味している訳ではありません。行動しながら、思考をどこまでも保ち続ける。それが大事なのではないでしょうか」

閉会後、「東大生に向けてメッセージなどあれば」という記者の質問に対し、学生は「賛成でも反対でもいいので、自分の言葉で意見を交わしてほしい。それが民主主義の第一歩だと思う」と話した。

 

「軍事的なものに加担しないという原点」

また、生産技術研究所特任研究員でシンポジウム主催者の男性は、シンポジウムの狙いについて、次のように話した。

「東大の中でいま、安全保障や戦争の問題が、特に問われているという感覚がある。私たちの実行委員会は、学部生・院生も含めていろいろなメンバーがいるが、東大は70年前の戦争に加担したということもあって、二度と戦場に送られたくない。個人的にも、私は被爆三世で、原爆の被害はものすごく深刻だという意識がある。

その中で、持続可能な社会や平和な社会をどう作るか東大が研究しているにも関わらず、それが真っ向から戦争に持って行かれるような状況に、声を上げたかった。東大の中でも、個々の先生など、いろいろなところで実際に軍学共同に声がかかってくる状況がある。その中で、学内で軍事的なものに加担しないという原点を、幅広くこの東大からアピールしていきたい」

シンポジウムは、最後に「私たちは、この東京大学の力を、学問の力を、正しく生かすべく、社会に対し責任を果たさなければならない」とする集会アピールを採択し、盛況のうちに幕を閉じた。次回の緊急抗議集会は、9月16日に駒場キャンパスで開催される。

(文責:井手佑翼)

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