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2017年5月18日

学生間の性暴力を防ぐために 東大生有志のワークショップに女子部員が参加した

 大学生間の性暴力事件「キャンパス・レイプ」を防ぐために性行為での「同意」について考えるワークショップ「これからの『性』の話をしよう」が、東大生有志により4月25日に駒場キャンパスで開かれた。同ワークショップは東大生有志「Believeキャンペーン@東大」が学部生・院生らを対象に主催したもので、昨年5月に東大生5人が女子大学生への強制わいせつ容疑で逮捕された事件や、他大学で起こったキャンパス・レイプをきっかけとしている。大学で「同意」について考える国内初のワークショップに弊紙記者2人も参加し、お互いを尊重できる性のあり方などについて20人程度の学生らと意見を交わした。(取材・矢野祐佳、分部麻里)

 

日本における性暴力事件の現状について説明する主催者

 

だまされても、強要されても、日本では「強姦罪」が成立しない

 

 プログラム前半では主催者から、日本での性暴力の現状や110年ぶりに改正予定の刑法の性犯罪規定に関する論点の説明を受けた。

 

 初めに、性行為に至るまでの六つの状況として①「殺す」など脅される②だまされてホテルに連れ込まれる③夫婦間で、気が進まないのに「夫婦だから」と押し切られる④親子間で、親(子)から押し切られる⑤上司に強要される⑥意識をなくしている―が挙げられ、参加者は各々が「性暴力に該当すると思うもの」を選んだ。記者(矢野)は六つ全てを選択した。

 

 その後、答え合わせも含めた説明が始まった。英国・米国などの現行の法律では六つの事例全てで強姦罪が成立する一方で、驚くことに日本ではどの事例も成立するとは限らない。他国と著しい差が生じるのは、日本の刑法の性犯罪規定が1907年(明治40年)に制定されたままだからだ。来年の国会で刑法が改正されても、新たに強姦罪が成立するのは親子間の場合のみで残りの五つの場合は現状と変わらないという。主催者の一人は「欧米諸国が『同意のない性行為は犯罪』と位置付けているのに対し、日本では同意の所在ではなく『被害者が抵抗できないほどの暴力や脅迫があったからレイプ』という定義が変わらないことが大きな課題」と語った。

 

 また、内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査(平成26年度調査)」によると「異性から無理やりに性交されたことがあった人」が回答した「加害者との関係」のうち、75%が配偶者・家族・知人など見知った人であるという。主催者は「大学生が知り合いの学生に乱暴するキャンパス・レイプでは、周囲との関係を気にする被害者が性暴力を打ち明けられない、同意の上の行為だったと加害者が誤解しやすい、など様々な問題が生じている」と解説した。記者(分部)は「レイプ」と聞くと見ず知らずの人から受ける暴力だと考えてしまいがちだったが、知り合い同士の性暴力が多数という事実に驚いた。

 

主催者側がロールプレイの見本を見せる。男性役を女性が、女性役を男性が演じた

 

同意を得る責任は常にアクションを「起こす」側に

 

 プログラムの後半では前半の説明を基に、ロールプレイを通して性行為での「同意」について参加者と議論した。

 

 ロールプレイは、男子大学生「B男」と彼に好意を抱く同級生の女子大学生「A子」がデートを楽しんだ後、成り行きでB男の部屋に行き、互いの意思を明確にしないまま困惑するA子をB男が押し切って性行為に及び、経験を得たことにB男が喜ぶ一方でA子がショックを受けるというシナリオ。参加者は4、5人のグループに分かれ、初めに性行為の当事者の片方がショックを受ける結果になった原因を話し合った。

 

 参加者からは「押し切れたから同意が取れた、とB男が思い込んでしまったこと」「まだ付き合っていない相手との距離の縮め方にA子とB男で認識の差があったのに、確認を取らなかったこと」など、意思確認の不十分さに触れる意見が多く上がった。ある男子学生からは「B男が性行為に及ぶ前までA子は普通に接しているので、A子の言動だけを見て、『性行為を持ちかけたら嫌がられるだろう』とB男が判断するのは難しい」との声も。記者(分部)は、同意を確認するために互いの感情を理解することの難しさとその重要性を改めて実感した。

 

 ここで主催者から「互いの同意に基づいていれば、性行為は本来ポジティブなアクション」という解説が入る。「同意を得る責任は常にアクションを起こす側にある」。相手が抵抗しなくても、NOだとはっきり言わなくても、それは同意を得たことにはならず、アクションを起こす側は同意を得るまで適切に振る舞う責任があるという。性暴力事件が報じられるたびに、「被害者もはっきり『嫌』と言わなかったのでは」など被害者の責任に触れる意見が挙がることに違和感を抱いていた記者(矢野)には納得のいく説明だった。

 

 続いてその「同意」に注目し、「同意が取れている状態、同意が取れていない状態」を再びグループや全体で話し合った。参加者は「同意とは押し切ろうとしてくる相手の意見を受け入れることではなく、お互いの考えをはっきりと言い、双方が納得できる落としどころを見つけること」「部分的な同意を得たからといって次の行動が自動的に許されるわけではない」など意見を出していた。

 

 話し合いを踏まえ、グループはそれぞれに「同意」の定義をまとめた。あるグループは「『同意』とは、確認することで双方が納得する形で意見が一致すること」と発表した。記者(分部)のグループでは「対等な立場」や「正直な意見」、「相手の尊重」がキーワードとして掲げられた。同意は、さまざまな状況が絡み合って得られるもの。定義を考えることで、性行為においてアクションを起こす際に相手とどう向き合えばいいのか理解を深められたと思う。

 

記者(分部)のグループでまとめた同意の定義

 

「同意なき性行為は犯罪です」

 このプログラムは大学で「同意」について話し合う初の試み。最後に全員でプログラム全体のフィードバックを行った。参加者の一人は「同意のない性行為は犯罪である、ということをしっかり認識できるよい機会となった」と振り返った。

 

 一方で、「このようなプログラムに参加するのは、もともと相手を思いやる意識が高い人。キャンパス・レイプを起こす人、起こす可能性が高い人はそもそも性暴力についてきちんと考えようと思いにくいだろう。そのような人たちに『同意のない性行為は犯罪』というメッセージをどう届けるのかは課題ではないか」といった指摘も。主催者は「その指摘は企画考案時からの懸念でもあったため、これから考えていかねばならない」と改善に意欲を見せた。

 

 キャンパス・レイプを防ぐために、性暴力への関心が薄い層にどう働きかけていくのか。今後の動向に注目だ。

 

東大生有志へのインタビュー

 

 東大でワークショップを開催した理由について、Believeキャンペーン@東大の代表の佐々木弘一さん(人文社会系・修士1年)は「東大生に性暴力事件について当事者意識を持ってほしかった」と語る。きっかけは昨年5月に起きた東大生による性暴力事件。「事件について周囲と話していると、『あの事件は特殊な人が起こしたもので、自分とは無関係だ』と考える人が多いように思えました」。性暴力事件への当事者意識が薄いことに違和感を覚えた佐々木さんは、今年3月にBelieveキャンペーンが行っていた他のワークショップに参加。東大でも同様のワークショップを開くことを決め、有志を集めて今回の開催に漕ぎつけた。

 

 「キャンパス・レイプは決して他人事ではなく、誰にでも起こりうることです。ワークショップを通じて、より多くの東大生に、性について考える機会をもってもらいたいですね」


 Believeキャンペーン@東大は5月24日に第2回ワークショップを開催する。詳細はイベントページから確認できる。

【開催概要】

第2回 これからの「性」のあり方を考えよう―性における「暴力」とは?―

 日本での性暴力の実態、現行刑法改正の論点などを紹介する「レクチャー・パート」と、そうした知識を踏まえ、実際にどのように相手を尊重することができるかを学ぶ「ワークショップ・パート」の2部構成。

日時:5月24日(水)19:00〜21:00(18:50開場)

場所:駒場キャンパス5号館513教室

参加対象者:東大の学部生・院生

参加費:資料代として100円

定員:20人程度。参加申し込みはフォームから

問い合わせ:consentworkshop.utokyo@gmail.com

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