東大大学院の二瓶雄太さん(工学系研究科・修士1年)を中心にした関東圏の大学の建築学科生有志が、2023年に建築学生のアイデアの社会実装をサポートするプログラムを開催した。その名も「ASIBA」。妄想で終わりがちな建築学生の提案を、妄想で終わらせず社会で試すことを目指すプログラムだ。ゼネコンや設計事務所、デベロッパーなど建築・都市領域の企業と連携しており、資金提供を受けて実際に形になりつつあるアイデアもある。前編ではASIBAを始めた経緯や思いについて深堀りする。(取材・安部道裕)
*記事末尾に、4月から始まる第2期プログラムの概要や、応募するためのリンクを記載しています。
【後編はこちら】
建築の中だけで終わらせたくない
──ASIBAについて教えてください
ASIBAは主に三つの事業を行っています。その中で核となるのがインキュベーション事業(起業や事業創出などの新たなビジネスの成長をサポートする活動)です。東大には「アントレプレナー道場」という起業を目指す学生向けの有名な授業がありますが、ASIBAのインキュベーション・プログラムは、いわば建築版のアントレプレナー道場です。
建築学科にはメインの授業として設計製図があり、学生は2カ月ほどの期間で図書館や美術館などを設計します。そこでは模型や図面が最終的な成果物になりますが、そうではなくてもう少し社会的な実践をすることを目標にしたのがASIBAのインキュベーション・プログラムです。提案内容は、イベントを企画するのでも、プロトタイプをつくるのでも何でも良くて、とにかく自分の中に止まらずに社会に出してぶつけてみるという趣旨です。
残りの二つがプラットフォーム事業 、メディア事業です。プラットフォーム事業は社会実装に興味のある学生がつながるための場づくりで、メディア事業はその活動を発信することです。
──ASIBAの名前の由来はやはり「足場」からでしょうか
そうです。建築都市社会実装スタジオを意訳した「Architecture Studio for Impact Based Action」の頭文字を取ってASIBAですが、そこには「世界に飛び出る学生の第一歩のための足場をつくりたい」という思いがあります。どんな建物でも、建てる前には足場を組む必要がありますが、何もないところから、学生がまず一歩踏み出すためのASIBAなわけです。あとは、単純に私は足場が大好きで(笑)。
──なぜこのような活動を始めたのですか
模型や図面という「自分の中の表現」で終わるのがもったいないという思いからです。
先に私のバックグラウンドを話しましょう。私は後期課程で建築学科に進学する前に、とあるベンチャー企業の中で新規事業開発をしていました。社会との対話の中で、製品の設計から製作、修正、販売まで行い、遂には誰かに届いて、使ってもらえる。その過程がすごく楽しかった。しかし、事業を発展させようとすればするほど、経済合理性ばかりを追求する社会に嫌気が差してきて、建築学科に進学しました。
建築学科に入ってみると、良い意味で「聖域」で(笑)。「豊かな社会」とか「過度な合理性への抵抗」とか、そういう話をするわけですが、その妄想には未来を形づくる力がある、と希望を感じました。しかし、建築学科でたどり着けるのは模型や図面まで。そこにはある種の失望感や、もどかしい気持ちがありました。
スタートアップにあるような社会実装する力が建築にもあればな、と考えていたのですが、たまたま研究会で知り合った早稲田大学の森原正希さんも同じような考えを持っていたんです。そうして一緒にASIBAを始めました。
これはプラットフォーム事業にもつながります。つまり「同じような考えを持つ人はきっと他にもいるから、ASIBAをその仲間たちが集まれるコミュニティにしよう」ということです。そしてASIBAは、自分の中に明確にやりたいことがあるわけではない人のためのプラットフォームにもしました。その人たちが自分なりのテーマを見つけるための糸口として、ワークショップなどを開催しています。
ワークショップは建築以外の分野とのコラボレーションにして、建築の外に一歩飛び出せる機会にしています。
エアビーのような社会を変える力を建築に
──「建築の外に」と考えるのはなぜですか
建築学科は「内輪の盛り上がり」をしている現状があると思います。建築の中でしか通用しない言葉で「建築や都市を変えたい」と議論しているんです。
ですが、いざ都市を見て、その形をつくっているのは誰なのかを考えると、それは決して建築家だけではないわけです。行政や企業、住民など多くのステークホルダーがいます。そう考えると、建築学科の中に閉じこもっているだけではなく、建築の外と接点を持って、他の分野と協働しないといけません。
──そう考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか
建築にはない「都市を変える力」がスタートアップなどにはあると痛感したからです。例えばAirbnb(民泊仲介サービス)の登場により、「個人が民泊をする」という概念ができて、それに特化したような建物が生まれました。まさしく新しい都市の形ができたわけです。
──今の話を聞くと完全に「建築の外」でも良いのではないかと感じました
完全に「建築の外」から都市をつくると、経済合理主義一辺倒のつまらないものが出来上がると思います。
これは私が常々思っていることですが、建築や都市を学ぶ人は、世界を見る視線が違う。建築や都市を学ぶ人が都市のあるべき方向を示しつつ、建築分野に限らず社会の課題を解決し、価値を提供することが重要だと考えています。
後編では23年に開催した第1期のプログラムを振り返りつつ、24年4月から始まる第2期や、将来のビジョンについて迫る。
【第2期プログラム開催概要】
期間:2024年4月13日(土)〜2024年7月6日(土)
募集人数:20名程度
参加費:無料
場所:都内
応募締切:2024年3月31日(日) 24時
詳細は以下のページへ
「ASIBAインキュベーション・プログラム第2期 募集ページ」
https://note.com/asiba_studio/n/n59511abce9a5
【事前説明会】
本プログラムに関心のある方向けに、オンラインにて事前説明会を実施します。応募にあたって説明会の参加は必須ではありません。
日時:2024年3月28日(木)午前9-10時
説明会参加フォーム:https://forms.gle/k8XxJfUQC4J8Ri847
サムネイルの写真撮影:あくび ( @akubi_12ss)
【記事修正】2024年3月23日午後1時51分 大見出しに【前編】を追加、【後編】のリンクの挿入、記事末尾にサムネイルの撮影者の追加をいたしました。