教養

2021年4月19日

女性が活躍する東大に 多様な研究者集団Toward Diversityの活動に迫る

 2021年度の東大入試では、全体の合格者に占める女性の割合が過去最高の21.1% を記録したことが大きな話題となった。これは東大、ひいては日本社会における女性のプレゼンス向上への大きな一歩であると同時に、2 割近辺の女子比率で一喜一憂している現状は東大が他の先進国の大学に後れを取っていることを再認識する契機となった。とりわけ理系学生・研究者・教員の間で低い東大の女性比率であるが、この状況を改善すべく活動する学内の研究者団体Toward Diversityを取材した。

(取材・弓矢基貴) 

*取材は、日本語と英語で下の4 人のメンバーの方を対象に行いました。(所属・学年は取材当時) 

 

岡村 梢 さん(工学系・修士 2 年)
川瀧 紗英子 さん (新領域創成科学・博士 1 年 )
Maximilien Berthetさん (工学系・博士 2 年)
李 楊 さん (新領域創成科学・博士 2 年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロールモデルの存在を広める 

 

 「駒場や本郷で過ごした学部時代から周囲に女性教員が少なく、現在所属している白金台キャンパスでも女性教員の姿はほとんど見えません」とメンバーの川瀧さんは話す。この身近な問題に焦点を当て、Toward Diversityは2019年度から研究や支援活動を行っている。 

 

 初年度は東大の女性研究者を対象に取材調査を行った。そこで東大、特に研究の場に女性が少ない五つの原因が浮かび上がってきたという。それは、①女性の数がクリティカルマス(母集団の中でその影響力を無視できない存在になるための割合)に達していないことで後継者が生まれず悪循環が生まれているため、②身近なロールモデルがいないため、③家事・育児の女性の負担が大きく研究成果を上げづらいため、④研究員の任期が短く育休・ 産休を満足に取れないなどの理由で女性が定着しづらいため、⑤既存の女性支援制度の認知度が低く十分に活用されていないため  という五つだ。 

 

世界各国の高等教育における女性教員の割合(OECD, 2020)。東大はこの国内基準よりさらに低い。Toward Diversityの研究成果や提言は東大男女共同参画室および五神前総長に提出した。

 

 こうした研究を踏まえ、20年度はさまざまな支援活動に力を入れた。その一つがオンラインツールの構築だ。「ロールモデルが少ない」という東大の課題を踏まえ、身近な女性のロールモデルを見つけられるオンラインツールの開発を東大工学系研究科に提案し、支援を受けながら取り組んでいる。 

 

 もう一つの活動であるHer UTokyoでは、東大の博士課程の女性にインタビューして体験談を公開してもらうとともに、彼女らを特集したドキュメンタリービデオを作成。「このような活動を通じて女子学生の道しるべを提供したいと考えています」と李さんは語る。今後もこれらの活動を継続しつつ、地方からの東大受験の支援など、新たに活動の幅を広げていく予定だ。

 

2021年の国際女性デーには、大学の学生や教員の写真を集め、李さん主導で動画を作った。「全ての学生がそれぞれの夢を追う後押しをしようと思って作りました」。動画はこちらから。

 

大学の環境に変革を

 

 アカデミアにおける女性比率向上・男女平等を達成するために大学は何をすべきか。岡村さんからは「(女性比率の)数値のみを追い求めていても不十分」との指摘があった。女性研究者を積極的に採用するなどして数を増やすだけでなく、入ってきた女性が働きやすい環境を整えることが重要だ。加えてBerthetさんは「多様性の重要性に関する教育の拡充」を提案する。なぜ多様性が大切なのかについて多くの人に理解してもらい、社会の内側から変えることが男女比改善につながるだろう。また女性支援策を練るに当たって「当事者の意見を調査した上で、データを基にした議論や意思決定をすることも重要」だと話す。

 

 大学の風土や制度設計など、根本的な課題も残る。川瀧さんは受験生時代に「女子だから浪人とか東大の理系とかはやめておいたら?」と周りから言われ、研究室選びの時期には「うちに来ると女性としての幸せはちょっと無理かも」と言われた経験があるという。そのような日本の環境を客観視するきっかけとなったのが、スウェーデンの大学を訪れたときの経験だ。「学生の年齢層が幅広く、中には子供がいる人もいて、多様な人が研究する場が整っているなと感じました。また、日本だと教授が書類の用意など研究以外の職務をこなすことも多いですが、向こうでは事務作業に特化した秘書がいて研究に集中できる環境があるなど、制度上の違いも大きいと感じました」 

 

 加えてアファーマティブアクション(積極的格差是正措置)に関しても考えを聞いた。「男性側からの反発も理解できます。若い世代からすれば、上の世代が制度的な欠陥を作ったのになぜそのツケを我々が払うのか、となりますよね。特に研究者は少ない資金をみんなで奪い合うので、女性を優遇すれば不満は出ます。男性にアファーマティブアクションの意義を説明して理解してもらったり、男性にも支援したりすることが重要でしょう。男女平等を目指しているのに男女間に溝ができてしまうのはすごく残念なので、工夫が必要です」

 

多様性が社会を変える

 

 そもそも東大に女性を増やすことはどのような意義を持つのか。Berthetさんは、女性だけでなく社会全体に及ぶ三つのメリットを挙げる。一つ目は、多様性が新たな発想や変革を生み出し、日本経済全体にも良い効果があること。二つ目は、東大に女性研究者が増えれば海外の女性研究者にも魅力的な大学になり、より多くの優秀な研究者を誘致できるようになること。三つ目は、現状では連日夜遅くまで研究するなど、男性が多いからこそ生まれた慣習がはびこっているため、女性が増えることでこの時代遅れな働き方が改善され生産性も向上し得ることだ。

 

 研究はさまざまな角度からアプローチする必要があり、女性の視点を取り入れることは重要だ。学部時代に薬学を学んだ李さんは「薬によっては被験者が男性か女性かで代謝に与える影響が異なる場合もあります。臨床試験に多くの女性研究者が参加するようになれば、研究の質が上がるかもしれません」と述べる。「さらに言えば、たとえ女性研究者が増えることに何のメリットもないとしても女性研究者はもっといるべきだと思います。社会に男性と女性は半分ずついるのですから、それが自然な状態ではないでしょうか」

 

 東大生が日々の生活の中で意識すべきことは何だろうか。岡村さんは「東大に入ってくる人たちは、東大には女子が少ないということを分かった上で入学するので、実社会と比べて学内に女性が圧倒的に少ないことに疑問を感じづらくなっていると思います。でも、それは異常だということを忘れないでほしいです」と強調する。Berthetさんは「大学内のダイバーシティーを向上させるために、大学のアクションを待たずとも、自分たちで主体的に活動することもできるということを伝えたいです。自分で活動することは貴重な体験で、そこから学ぶことも多いと思いますよ」とエールを送った。 

(Toward Diversity のウェブサイトは こちら から)

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