INTERVIEW / OBOG 2014年10月30日

MBAは不要、エンジニアは今すぐ世界に挑戦しよう 「TomyK Ltd.」鎌田富久 代表

東大卒起業家たちのイマ、今回はエンジェル投資家として著名な鎌田富久氏へのインタビューです。東京大学理学部情報科学科で博士取得後、起業、上場、そして現在は投資家として活躍される鎌田氏。東大発ベンチャーにも積極的に投資をする投資家の視点から、近年のベンチャーの状況、東大生について、話を聞きました。

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−−簡単にご経歴を教えて下さい。

1980年に東京大学理科一類に入学し、理学部情報科学科に6期生として進学、その後博士を取得しました。当時は、まだコンピュータ・インターネットの黎明期で、プログラミングのアルバイトが家庭教師よりもはるかに高額な時期でした。4年生の終わり頃にACCESS社(設立当時は、有限会社アクセス)を起業し、大学を出た後も、そのまま会社経営を続けました。ネットワークの通信ソフトウェアを事業の柱とし、世界初の携帯電話向けブラウザソフトを開発して、「iモード」を実現しました。2001年には東証マザーズに上場し、海外展開も進めました。

−−近年では、東大発のベンチャーへの投資を積極的に行われていますね。

2011年に、28年間経営してきたACCESSを退任しました。そして2012年4月に、テクノロジーベンチャーを支援するスタートアップ・ブースター TomyK Ltdを設立しました。東京大学を中心に、世界をリードできるテクノロジーベンチャーを育成することを目標に、投資・経営のサポートをしています。

−−どういった分野、企業に投資しているのでしょうか?

次の10年のキーテクノロジーとなるインパクトのある分野を支援しています。例えば、ロボットです。東大工学系のロボット研究で有名な稲葉雅幸教授の研究室の助教たちが起業した、ヒューマノイドロボットSCHAFTに投資していました(同社は、2013年11月にGoogleによって買収された)。最近では、モノづくりやIoT(Internet of Things)、宇宙、人工知能、ゲノム解析、画像処理技術などに投資しています。

tomyk.jpg 鎌田氏が代表を務めるTomyKの主な支援先。東大発ベンチャーが多く含まれる。

−−最近の東大生の中では、ベンチャーへの熱が高まっていると感じますか?

感じますね。「東大生、なかなかいいんじゃない」と思います。もともと、技術力や研究レベルは高かった東大ですが、自分でベンチャーを起こす人はそれほど多くありませんでした。しかし、近年のベンチャーを取り巻く環境の変化によって、私の学生時代の時とは比較にならないほど、起業はしやすくなっていると思います。そこには、いくつかの背景があります。

1つ目は、会社法です。今でこそ、株式会社の資本金は1円でも起業することが可能になりましたが、私が起業した時は1000万円必要でした(という訳で、有限会社でスタートしました)。

2つ目は、オープンソースの浸透です。優れた技術がどんどんオープンになり、利用できるようになりました。開発環境も、GitHubのような手軽なクラウド型が登場し、ソフトウェア開発の知見を共有する場が整備されています。

3つ目は、特にここ1年くらいの傾向として、ハードを作るコストが劇的に下がったことです。3Dプリンターなどの工作ツールの進化によって、プロトタイプを作るコストは圧倒的に低下していますし、Kickstarterなどのクラウドファンディングによって、プロダクトを生産する前から事前予約として資金を集めることも可能になりました。

−−東大の理系学生には、非常に大きなチャンスがあると。

研究者は、今や自分さえ頑張ればビジネスができる時代になっています。特にハード絡みのIoT分野を中心に、チャンスはごろごろ転がっていると思います。

20世紀型の大量生産の時代では、プロダクトを作るだけでなく、量産し、流通させ、宣伝し、販売するという一連のプロセスが重要でした。ビジネス全体のことを理解している、MBA(経営学修士)取得者のような存在が不可欠だったのです。

しかし現在では、初期開発では、3Dプリンターなどで安価に製造し、SNS上の口コミでお金をかけずに宣伝し、在庫を持たずともAmazonに流通・販売を委託することが可能になっています。もはやMBAは不要なのです。今やエンジニアは、使われる存在ではなく、まちがいなく主役なのです。

−−鎌田さんが投資を検討する上でも、やはりプロダクトが重要なのでしょうか?

最初の段階では、プロダクトがすべてと言ってもよいです。一番困るのが、具体的なモノもないのに、事業計画書を持ってこられるケースです。具体的なモノがないのに、机上で計画書を作ってもうまくいくはずがありません。先ほど述べたように、最初の段階では全力で製品開発にフォーカスする。簡単なものでいいので、思いの伝わるプロトタイプがあって初めてイメージが湧き、「面白そうだね」となります。

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−−今後10年で、投資先として有望な分野はどこでしょう?

人工知能は可能性が大きいと思います。世の中の課題は、当然ながら人間に関わることであり、もっと大きく見れば地球環境に関することになります。したがって、課題を解決するには、「人間を、地球をより深く理解する」ことが第一歩だと考えています。日本のような先進国は、衣食住が既に満たされている社会です。20世紀的な大量生産・大量消費の時代は終わり、人々の多様性にマッチするニッチな需要の集合体、如何に地球環境と調和して豊かさを実現するかが、社会のニーズになっています。人間や地球をより理解することが大切になってくるでしょう。

そういった意味で、文系、特に心理学や社会学といった分野は、今後重要になると思います。人間や社会というものを計算資源に織り込んで考える学問でしょうから。

−−長らく企業経営にも携わってこられましたが、リーダーシップを考える上で大切なことは何でしょうか?

チームとして、出来る限り高い目標を掲げ、それを共有することだと思います。研究でも同じだと思いますが、メンバーの間で何を目指すかの目線がずれてしまうと上手くはいかないでしょう。

そして、やるからには「世界を目指す」くらいのチャレンジをしてほしい。大抵の場合、掲げた目標以上にはなりませんから。高い目標に向かって、目の前の問題をクリアしていくことが重要です。

−−最後に、東大生へのメッセージをお願いします。

今の時代、キャリアの選択肢が広がっていることに気づいてほしいと思います。例えばSCHAFTの例がそうですが、アメリカでは”acqhire”という言葉があります。これは、acquire(買収)とhire(雇用)を交ぜた造語です。Googleのような会社は、買収によって、優秀なチームを獲得するわけです。ベンチャーにとっても、より大きな舞台で開発を進めることができます。

起業のゴールとして、上場をステップとして事業拡大を目指すのもよいですし、キャリヤアップのショートカットもありです。大企業に新卒で入社してロボットのような新規事業の責任者を目指すのと、自分がロボット分野で起業し、技術力を示して世間の注目を集め、大企業に買われて大きな事業を任されるのとでは、どちらが時間的にも金銭的にも得か、考えてみてください。

なるべく早くチャレンジしてほしい。

そして、世界にチャレンジしよう。

(文責 荒川拓)

※本企画は東京大学GCLプログラムとの共同企画です。

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