PROFESSOR

2019年3月25日

退職教員インタビュー② 石田英敬教授 今こそ記号論が必要だ

 毎年恒例の退職教員インタビュー企画。今年度末で退職する教員たちの目に、今の東大はどのように映っているのだろうか。4人の退職教員に、自身の研究内容を振り返ってもらった他、東大生への最後のメッセージを語ってもらった。

 

 2回目の今回は、記号論を専門とする石田英敬教授に、21世紀における記号論の重要性や東大の問題について話を聞いた。

 

(取材・高橋祐貴)

 

石田英敬(いしだ・ひでたか)教授(総合文化研究科・情報学環)
 89年パリ第10大学大学院博士課程修了。人文科学博士。同志社大学助教授などを経て、96年より総合文化研究科教授、00年より情報学環教授。

 

──最大の研究成果は

 東大に来て以来、記号論を研究してきました。先日元教え子の東浩紀さんと『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン)を出版しましたが、21世紀に合った新しい記号論を打ち立てたのが私の研究成果です。

 

石田教授の新刊はAmazonの現代思想売れ筋ランキング1位を獲得した(ゲンロン、税込3024円)

 

──新しい記号論とは

 私の研究対象は大まかに言えば「メディア記号論」です。元々、人が情報を伝えるには手で字を書き、絵を描くしか方法がなかったのが、20世紀以降、映画や写真、レコードといったメディアで情報を伝えるようになりました。今ではiPadのような機械が情報の読み書きをしてすらいます。ここで読み書きされる情報を「記号」というわけです。20世紀には記号が機械により拡張される中で、文字ではなく音で言語を分析する現代言語学や人が見たものをどう知覚するかを研究するゲシュタルト心理学が生まれました。

 

 20世紀後半、映像や音声がアナログメディアからデジタルメディアに変化していく中で、やりとりされる記号やその作用も変化しました。新時代の記号論を「情報記号論」として提唱したということですね。

 

──新しい記号論はどれほど社会に受容されてきたのでしょうか

 あまり受容されている感じはしないね(笑)。ただ現代社会では記号論は極めて重要な位置を占めています。そもそも今我々の生活を変え続けているコンピューターの原理は、17世紀にライプニッツが思考を0と1で合理的に記述するバロック記号論という哲学的プロジェクトとして提唱したものです。昨今話題を呼んでいる人工知能(AI)に関する議論も、本来的には記号論の議論に立ち返ってしなくてはならないでしょう。

 

──フランスの詩人・マラルメの研究からキャリアをスタートさせました

 5〜6年をかけ、留学先のフランスで千ページに及ぶ論文を書きました。マラルメという詩人はメディアの移行期に当たる19世紀後半に活躍した人で、言葉や書物について思索を深めていました。それが今の自分の分野につながっています。マーシャル・マクルーハンというメディア論の大家がいましたが、彼もマラルメの研究をしていました。フォノグラフ(蓄音機)、フォトグラフ(写真)、シネマトグラフ(映画)の「グラフ(graph)」とは文字という意味です。文字の知とはメディアの知でもあり、文学とメディア論という二つの学問領域は連続したものと言えます。私はむしろ文学者が書物の問題だけを研究していることに疑問を感じています。

 

──教育における成果は

 制度面で言えば、総合文化研究科の言語情報科学専攻や大学院情報学環を立ち上げ、社会人大学院入試を行うなどの取り組みをしてきました。土曜日には社会人院生向けの授業も続けています。これは、変化が激しく人生における学び直しが必須となってくるこれからの時代に合った先進的な取り組みだったと思います。

 

──現在東大はさまざまな問題を抱えています

 最大の問題は大学としての体を成していないことです。そもそも明治時代に複数の学校が集まってできた大学なので、全く中央集権ができていません。現状では「総長」は皆を束ねるという意味でしかなく、東大のリーダーとしての権限は弱い。近年制度上の総長権限は強まっていますが、大学の教職員の意識が変わらないと迅速な改革はできないでしょう。

 

──学生に向けてのメッセージをお願いします

 最近は学生が皆おとなしくなっていますね。もっとさまざまなことにチャレンジしていってもらえればと思います。


この記事は、2019年3月19日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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