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2020年6月2日

高い教員自給率の弊害 東大外の人材導入で自由な研究を

 東大教員の自校出身者率(教員自給率)は、学部によって差はあるが、法学系、文・外国語系、理学系、工・理工学系で国内1位と高い傾向にある。教員自給率の高さが、大学にさまざまな悪影響を与えると指摘する識者は多い。東大の実情を探るべく、日米の比較大学論を専門とする福留東土教授(東大大学院教育学研究科)と東京都立大学(当時)、千葉大学出身で、26年間東大に勤めた松田良一教授(東京理科大学)に話を聞いた。

(取材・中井健太)

 

 

師弟関係が悪影響に

 

 福留教授によると、日本で大学教員の教員自給率が高いことへの危機意識が生まれ始めたのは1990年代ごろだという。「学部から教鞭を執るまでずっと同じ大学にいるのは良くない、外に出ることに意味があるという風潮が生まれました」。90年代以降、全国で大学院が拡大し、出身大学と異なる大学院に進学する人が増えたことも一因となった。

 

 母校出身者の大学・学部への愛着が組織運営に好影響を与えるという良い面もあるものの、教員自給率が高過ぎることの影響はあると福留教授は指摘する。「研究室の良い伝統が継承されやすい反面、過去のやり方にとらわれ過ぎてしまうと自由な発想が生まれづらくなる面もあります」

 

 米国では「採用時に大学側が教員自給率をとりたてて意識することはない」というが、基本的に日本の大学に比べて教員自給率は低い。その最大の理由として、米国には研究レベルが同等な大学が多く存在するという点を福留教授は挙げる。その点、日本は研究大学の数が少ないこともあり、米国と比較して、東大を頂点とする研究大学の威信構造の中で、大学間の研究レベルの差が生じやすい。東大が優秀な研究者を採用しようとした結果、東大の卒業生が採用されるという側面もあり、自給率が高いことが一概にネガティブに捉えられるわけではないという。

 

福留 東土(ふくどめ ひでと)教授(東京大学大学院教育学研究科)

 

学内にもっと異質な環境を

 

 松田教授は教員自給率の高さは大学内のヘテロジェナイティー(異質性)につながるため、重要だと主張する。「さまざまな環境で、さまざまなものの考え方に触れてきた教員が少ないことは東大の弱みになっています」。実際、松田教授が現在勤める東京理科大には教員自給率が6割を超えないようにするルールがあるという。

 

 17年度まで東大大学院総合文化研究科に勤めた経験から、東大では人事評価が同程度だった場合、自校出身者を優遇する傾向があると推測。研究員として3年在籍した米カリフォルニア大学バークレー校では自校出身者が応募すると自動的に評価が下がっていたという例を引き、その対照性を強調した。

 

 しかし、東大でも学内の異質性が高い場所はあるという。「総合文化研究科・教養学部は英語コースPEAKの創設をきっかけとして、外国出身教員の採用を強化し始めました。日本人教員も東大外から多く採用しており、学内では比較的異質性が高い場所だと言えます」

 

 教員自給率を下げるためには長期スパンで取り組むことが重要だという松田教授。「10年、20年かけて5割、6割に下げていくことが必要です」

 

 ただ、教員自給率の問題はあくまで入り口で、本質は東大が異質性を嫌うところにあるという。「異質な環境の中に飛び込んだ経験のない教員が多い、というのが問題です。東大教員のマジョリティーは東大というある種のたこつぼの中で育った人たちで、若いころに異質な環境に飛び込む経験をしないと、年を取ってから殻を破る発想に至れません」

 

 松田教授はかつて、医学系研究科の教授に、米国のメディカル・スクールに倣った学卒者の入試制度の導入を提案した。しかし「東大から医師になるなら理Ⅲの試験に合格した人でないと受け入れられない」と言われ、断られたという。成功体験からしかものを評価できないことが、文理の峻別や進学選択などを含めた東大の仕組みを変えるための強烈な足かせとなっている状況だ、と松田教授は語る。

 

松田 良一(まつだ りょういち)教授(東京理科大学)

この記事は2020年5月19日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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