INTERVIEW / OBOG 2014年11月21日

「東大生はベンチャーに来るべき」とはこれっぽっちも思わない データアーティスト社長

これまで何名もの東大卒起業家を紹介してきた本連載。今回は初めて、慶應義塾大学と東京大学、2つの大学に在学した経験を持つ起業家、データアーティスト株式会社の山本覚社長に話を聞いた。「東大生はベンチャーに来るべきとは、これっぽっちも思わない」と語る、その真意とは?

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−−学生時代の頃、どういった活動をされていたのでしょうか?

高校時代に漠然と東大に行こうと思っていましたが、学力至らず、現役では慶應大学に行きました。

在学中はロックンローラーでした。あまり勉強をするわけでもなく、バンド活動に明け暮れる日々でした。卒業後、就職も院進もせず半年ほど経ってから、やはり地に足を着いた道に進もうと、慶應の大学院に行きました。

真面目に化学の研究をしていましたが、より原理的なことに興味を持ち、東大理学系研究科を受けて、専門を物理に変えました。この時、既にバンドマンで半年ぶらぶらし、慶應院にいたことで、周囲より2年遅れての入学でした。

−−そこから、情報系の研究に進まれました。

物理の研究も楽しかったですが、とはいえ、実践的なことやりたいと思うようになりました。起業という道を考え始めたのはこの頃です。

そこで、現在は人工知能の第一人者として活躍されている松尾豊先生の研究室(当時の坂田・松尾研)に行き、データマイニングを学び始めました。入る段階から、学位ではなく自分でケーススタディをやりながら事業を起こしたいと言ってかなり自由に研究をしていました。正直、浮いていたと思います(笑)。

その時研究していたことが、今の事業にもつながるWebコンテンツの最適化です。LPO(ランディングページの最適化)やABテストといった技術の活用法を学びました。

−−その後、今の会社のもとになった会社に入社されたのですね。

現在の会社が分かれてできる前の、アイオイクスにデザイナーとして入社しました。その後、データマイニングを使ってビジネスをやりたい気持ちが強くなり、アイオイクスから分社化して、データアーティスト株式会社を設立しました。

−−会社の中にいる方は、今流行りのデータサイエンティストが多いのでしょうか?

そんなことありません。文系の人も多いです。

データサイエンスという言葉の定義は曖昧ですが、個人的には何段階かレベルがあるように思います。例えば、バリバリのエンジニアとしてログコレクションを取ったり、大規模データ解析をしたりするのが得意な人。一方で、文系的な視点で、データからメッセージを読み取るのが上手い人もいます。自分はどちらかというと後者です。

株式会社ギックスの網野知博さんが、「データがビッグであることよりも、データがビッグアウトカムなことが大事」と仰っていますが、まさにその通りだと思います。

−−データサイエンスというと、かなりアカデミックとビジネスの境界が曖昧な部分でもあると思います。

データサイエンティストの仕事内容は、データから有意義な知見を見つけて分かりやすく説明することで、その方法は問われないと思います。

ただ、研究者としてやるなら、もっと基礎的なことに取り組んでほしいと思います。まさに松尾先生がやっているようなディープラーニング(当時はリアルAI)の研究などは、大学でこそやるべき研究でしょう。

でも、例えばツイッターやブログのデータを解析して、ネガ・ポジ判定しましたとかは、正直技術があれば誰でもできます。そして、そうしたWebデータをから何か言えたとしても、実はもう経済学で立証されていることの繰り返しにしかならないこともある。汎用化されないものは研究ではありません。ビジネスでも応用できる、基礎的かつ汎用的な技術自体の研究をやることに、意義があるのではないでしょうか。

−−東大生への率直な印象を聞かせて下さい。

単純に、頭がいいと思います。だからかもしれませんが、良くも悪くも真っ向勝負を挑みがちです。言い方を変えると、今まで培ってきたことで勝負しようとする傾向が強い気がします。だから、何が何でも短期で成果にあげるのは弱い印象を持っています。

一方、私がいた慶應の学生は、なしたいことを先に見据えて、しょうもないことをやっちゃう人が多い気がします。東大生は頭がいいのだから、今ある制約を取っ払ってもなんとかなりますよ。

−−最近は、少ないながらも、ベンチャーを選ぶ東大生も増えています。

「東大生はベンチャーに来るべき」とはこれっぽっちも思わないです。家が超大金持ちか、他に捨てるものもないような人に行ってほしいと思います。

日本を中小企業が支えているのは事実ですが、ほとんどの東大生は、大企業の業務のほうに適性があるはずです。だから、うちみたいなベンチャーに来てくれるのは嬉しいけれど、正直なこと言えば「マジか」って思います。

「ベンチャーやるのって素敵!」っていう空気は、以前よりある気はします。ただそれも言ってしまえば、バンドマンブーム、お笑いブーム、からのベンチャーブーム、くらいではないでしょうか。

−−ベンチャーを経営されるお立場から、かなりぶっちゃけますね。

自分がベンチャーやっているのは、大企業に行けなかったのもあります。博士課程まで行った中、学部卒と同じ給料、同じ環境で、大企業に行くのもためらわれたからです。

ベンチャーをやるにしても、ビジネスの取引相手はほとんど大企業です。だから、大企業に入ってできたで人間関係は、将来起業するときも必ず活きてくると思います。

−−ベンチャーをやる面白さはどこにあるのでしょう?

いつ倒産するかも分からない、そういうすれすれ感を楽しめる人がベンチャーをやるのだと思います。あるいは、退路が絶たれているからやる、とか。そうじゃないと、この精神状態を続けていくのは、なかなか大変ですよ。いつも、参ったなあと思っていますから(笑)

−−最後に、東大生へのメッセージをお願いします。

勉強ができることは圧倒的な競争優位性なので、ここに軸足を置くべきです。それは、学生の時も社会人になってからも変わることはありません。大学を出てからは、これまで学ばなかった変数が加わるだけ、と考えるといいと思います。

はっきり言うと、私のように大学受験で一度負けた人間は、もう勉強では東大生に勝てないことが身にしみて分かっているのです。ふんどしを締めて、本気でぶつかって負けているから。だから、次もまた負けるかもしれないと思うと、真っ向正面から戦うのではなく、ある種ゲリラ的に戦うことにならざるをえない。

優秀な人が多い東大生に向かって、無闇矢鱈に「チャレンジしよう!」とは言いません。しっかり勉強したこと、勉強できるその才能を、世の中に還元していってほしいと思います。

(取材・文 荒川拓)

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