GRADUATE

2019年3月13日

就活1年目全敗、2年目全勝の小学館漫画編集者のメッセージ「就活をなめるな」

 3月1日、経団連の「就活ルール」が適用される最後の世代・2020年卒の就職活動が本格的に始まった。エントリーや説明会が活発化する中で、就活の悩みが絶えない人も多いのではないだろうか。

 文学部卒で東大新聞OBでもある千代田修平さんは、学生時代には演劇に没頭し、1年の留年を経て小学館に入社。就活1年目の失敗を糧にして、2年目を完全攻略したという。現在は漫画編集者として活躍する千代田さんに、自身の学生時代と就活について振り返ってもらった。

(取材・石井達也 撮影・高橋祐貴)

 

 

演劇に没頭した学生生活

 

──演劇を始めたきっかけは

 高校3年生の時に三つの出来事がありました。一つ目は、仲が良かった友達が「ヨーロッパ企画」という劇団のDVDを貸してくれて、演劇の面白さを知ったこと。二つ目は、文化祭で舞台の主役を演じ、それが楽しかったこと。三つ目が、当時好きだった演劇部の女の子とお近づきになりたいな、と。受験間近の文化祭の時期に演劇の魅力に目覚め、大学で絶対にやろうと考えていました。ちなみに、その女の子は大学ではやっていなかったみたいなんですけどね(笑)。

 東大では「三劇」と呼ばれる大きな学生劇団が三つあり、その中の「シアターマーキュリー」に入りました。僕は2年冬にマーキュリーを引退して「ナラズモノ」という劇団を立ち上げ脚本・演出を行い、出演依頼が来たら他の演劇で役者もやっていました。とにかく学生生活は演劇が中心でしたね。東大新聞の活動で最初に書いた記事も、東大を中退して劇団を立ち上げた人へのインタビューでした。

 

(左下から時計回りに)シアターマーキュリー『刈り取った恥部をマンホールに詰める=殺人事件』、演劇集団宇宙の喜び『ワルプルギスの夜』、しあわせ学級崩壊『CRともだちこれくしょん』(写真は千代田さん提供)

 

──演劇の魅力とは何だと考えていますか

 自分が意図したこと以上の面白いことが起こる瞬間は、鳥肌が立つほど気持ちいい。「その瞬間」に立ち会うことができるのは、演劇以外にはなかなか思いつきません。だから四六時中演劇のことしか考えられなくなる、「演劇中毒」の人が続出するんだと思います。

 「演劇中毒」になると、普段の会話とか、面白い映画とか、聴いた音楽とか、全て「作品でどう使おうか」と考えるようになります。今の編集者の仕事でも同じことをしているので、その点で演劇の経験が今につながっているなという気がしますね。

 

ナラズモノ『世界が君を連れ出す/夜の遊園地へ』(写真は千代田さん提供)

 

──演劇などの作品への向き合い方は学生時代と現在で変わってきたのでしょうか

 学生時代は、自分の思想をどれだけ表現できるかを意識して脚本を書いていました。一方で今の編集者としての仕事では、それよりも「面白い」ということを意識しています。編集長からよく言われるんですが「面白い」とは「分かる」「新しい」ということです。学生のときは、作品が観客にどう受け止められるかということについて傲慢でした。「面白さは分かる人にだけ分かればいい」というスタンスだったのですが、今は「面白さは伝わらなければ意味がない」と考えています。

 それに加え、キャラクター自身の魅力も大事です。思想が先立ってしまうと、それに基づいてキャラクターが動いてしまうのですが、生き生きとしません。今は任せられる部分はキャラクターに任せることを心掛けています。

 

──演劇以外で学生時代について印象深いことは何ですか

 文Ⅱに入学し、進振り(現在の進学選択)を利用して文学部の美術史専攻に進みました。成績は異様にギリギリで……。初修外国語のスペイン語で、ほとんどの学生が「優」の成績を取れる先生だったのに僕は「不可」。追試も不合格になり、結局「平均点合格」で乗り切った覚えがあります。あれは自信をなくしましたね(笑)。

 美術史での卒論では、梗概を書くのが遅過ぎて指導教員に見てもらえなくて。拒否されることってあるのかって驚きましたね(笑)。京都大学で美術史を専攻する従兄に教えを請いながら、何とか完成までこぎ着けました。

 

 

なめていた就活 改心して2年目に挑む

 

──どのように就活を進めたのですか

 1年目の就活は確固とした軸もなく、映画、音楽、出版、広告……ぼんやりとコンテンツに関わる仕事に就きたいと考えていました。4年生の春から夏にかけて、演劇をやりながら有名企業ばかりを受けていたのですが、全落ち。はっきり言って就活をなめていましたね。1単位を残し、卒論も来年に回すことにして自主留年しました。

 留年が決まって、改めてしっかりと就活しようと考えるようになりました。インターンシップがどのようなものかすら分からない状態だったので、まずは参加してみることに。街中の広告を見て申し込んだり、就活サイトのバナー広告から申し込んだり。視野を広げるために、コンサルティングや保険など全く興味ない業種を優先して見るようにしました。インターンから学んだことは多かったのですが、「社員や、集まってくる学生のレベルやカラーを肌で感じられた」ということが特に大きかったです。

 冬のインターンから選考に進み、コンサル会社の内定をもらい、春からの就活本番を迎えました。「コンテンツに携わりたい」、もっと言うと「コンテンツを生み出す天才を支えたい」という気持ちが一貫してありました。天才と直接関わる編集職、コンテンツのプラットフォームを作る技術職、「クールジャパン」などを行政と一緒に進めるコンサル職。この3職種を念頭に、コンテンツとどの距離感で関わっていくべきかを考えながら就活を進めました。

 

──2年目の就活で失敗したことと、うまくいったことは何ですか

 2年目は驚くほどうまくいきました。「僕はこういうことができる人間です。僕はこういうことがやりたいです。あなたの職場ではこういうことができるので志望します」と理論武装していて、これは落とす理由がないだろうと思っていました。実際に理論武装が完璧だったかというと、今思うとかなり怪しいのですが(笑)。自信を持っていたことでリラックスして面接に臨めたことは良かったんじゃないかと思います。

 学生時代には演劇しかやっていなかったので、あらゆる質問に対して演劇を引き合いに出して答えていましたね。例えば小学館を受けた際には「自分の劇団で公演を行う際は、自分が天才と見込んだ人を集め、その方たちの魅力を最大化することを意識していました。漫画家さんとも同じ意識で、才能をプロデュースしていきたいです」と演劇のエピソードと絡めて語りました。

 

 

あくまで「天才」と仕事をしたい

 

──小学館を選んだ決め手は

 アルバイトをしていた小さな出版社の人から「千代田は秀才と仕事したいのか、それとも天才と仕事したいのか」と聞かれました。これ、名言ですよね(笑)。その言葉に後押しされ、自分は天才と仕事がしたいと考え小学館を選びました。

 

──「天才」とはどのような人を指すのでしょう

 おこがましい基準だけど、僕の考える天才は「自分がどれだけ時間かけても思いつかないアイデアをパッと出せる人」。その瞬間に触れて驚く時が好きですね。タイプはいろいろありますが、今担当している作家さんにはいつも驚かされっぱなしで、とても楽しいです。

 

──現在の仕事のやりがいを教えてください

 やっぱり、天才と一緒に仕事できることです。僕との関わりの中で、想像できないような面白いことを生み出してきます。打ち合わせ後に作者が出してくるネームが本当に面白いときが一番うれしいですね。深夜の職場で、「やべー!」って口に出してしまうときとかあります(笑)。

 編集者としての仕事では、やっぱり演劇での経験が生きているのかなと。学生レベルですが作品を作ってきたので「作っているとき、こういう相談相手がいたらうれしかったな」と思い出しながら作家との打ち合わせに臨んでいます。

 

──就活が本格化した学生にメッセージを

 就活は受験と同じで、競争であり、戦争です。であるならば、ルールをよく知り、戦略を立て、ベストを尽くそうという意識を持つことが大切です。受験なら「数学はこうやって勉強してこれだけの点数を取って、英語は〜〜」と考えるはずなんです。就活になった途端に「まあ受かるでしょ」と1年目の僕みたいに臨む人がいるけど、すごくもったいない。仮になめた態度で受かったとしても、それはその程度の企業ということ。本気を出せばもっといい企業に入れるかもしれないのに。

 漫画作りと同じで、一番避けなければならないのは「自分が何者かが相手に伝わらないこと」。長所とか短所とか、それを判断するのは企業です。自分の考える欠点がバレることを恐れるあまり、「そもそも、よく分からない」という評価を受けるくらいであれば、思い切って100%ありのままの自分を表現することに注力した方がいいかと思います。きっと、実はそっちの方が難しいということに気付くかと。

 

千代田修平(ちよだ・しゅうへい)さん

17年文学部卒。大学入学時から劇団「シアターマーキュリー」の活動に携わり、引退後に劇団「ナラズモノ」を設立。現在は小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」編集部で活躍している。

 

2019年3月13日16:40【記事修正】4枚目と6枚目の写真を差し替えました。

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