文化

2022年4月1日

【東大CINEMA】『エイプリールフールズ』 「嘘」が魅せる奇跡の一日

 

 4月1日はエイプリルフール。普段は許されない嘘もこの日だけはなんとなく許される。そんな不思議な力を持った一日に起こる、ハチャメチャで感動的な事件を描いたのが本作『エイプリルフールズ』だ。

 

 序盤は様々な場所の何気ない日常が映される。物語が動くのは拳銃を持った女(戸田恵梨香)がレストランに押し入るところからだ。彼女はある男(松坂桃李)目掛けて拳銃を撃ち放つ。逃げ惑う客。砕け散るシャンデリア。緊張感が高まっていく。同日、別の場所ではある少女(浜辺美波)がヤクザと思われる男(寺島進)に誘拐されている。シリアスな場面になりそうだが、ヤクザの男が少女におなかがすいていないか、などと聞く姿がおかしい。

 

 同じ頃、自身を宇宙人だと思い込んでいる少年(浦上晟周)は宇宙に帰るため、集合住宅の屋上で宇宙人と交信しようとする。それを自殺と勘違いし、引き留めようと集結した同級生らも、時間とともに減っていく。デマの広がりと人間の野次馬根性に関する現代の問題について考えさせられる場面だ。

 再び場面はレストランに切り替わり、男のある「嘘」が明かされる。嘘を知った人々は拳銃を持った女を支持し始める。こうした嘘を取り巻く人々の反応は本作の見どころの一つではないだろうか。さらに役者の演技も光る。例えばフロアスタッフ(ユースケ・サンタマリア)の大声を出す時の、独特の面白おかしい表情だ。

 

 物語は徐々に、今まで関係のないと思われていたそれぞれの出来事が関わり合っていることが明らかになっていく。偶然の出会いが運命を動かしている様は、人と人が関わり合って生きていることを感じさせる。そしてそれぞれの場面が感動の最後を迎える。

 

 今作の脚本は『リーガル・ハイ』や『コンフィデンスマンJP』シリーズの脚本も手掛ける古沢良太。終盤、それぞれの登場人物同士のつながりが見えてくる時に、さまざまな伏線が回収されていく。独特な空気感の会話でクスリと笑わせる脚本はあっぱれと言わざるを得ない。衝撃的な結末にも感嘆させられる。

 

 嘘はいけないと言われてきた人々が嘘に救われる。弱い人間が生きていくための嘘。勇気の出ない人間が自分を奮い立たせるための嘘。愛する人の最期を笑顔で迎えるための嘘。さまざまな「嘘」を介して人間を見ることで、その人の本性が見えてくるのではないだろうか。本作はコメディーだが、そうした人間の姿に注目することで面白さは倍増する。こんな特別な日が待ち受けているのか、とエイプリルフールが楽しみになる、そんな映画だ。【黒】

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