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2021年7月22日

総長賞受賞者インタビュー①「バーチャル東大」所壮琉さん、中川雅人さん、西澤優人さん・前編

 学業、課外活動等で顕著な業績を挙げた学生を表彰する「東京大学総長賞」。その功績の裏には受賞者のどのような努力や思いがあったのか。今回は、オンライン開催となった高校生のためのオープンキャンパスに向けて、本郷キャンパスをバーチャル空間で再現した「バーチャル東大」を制作・公開し、令和2年度の総長大賞を受賞した所壮琉さん(工・3年)、中川雅人さん(工・4年)、西澤優人さん(工・4年)にインタビューした。前編では、VR制作を始めたきっかけや「バーチャル東大」の制作・公開について聞いた。(取材・伊藤凜花)

 

左から中川さん、所さん、西澤さん(写真は所さん提供)

 

virtualは「仮想」ではなく「本質」

 

──VR制作を始めたきっかけを教えてください

 

所さん(以下、所) 1年生の時にサークルの新歓でたまたま、VR制作やVRの普及活動を行うサークル「UT-virtual」を見つけ、楽しそうだなと思い入会しました。それまでは常識程度にしかVRを知りませんでしたが、気の合う仲間と出会いサークル活動を続ける中でソフトウエアなどにも興味を持つようになりました。

 

中川さん(以下、中川) 私も本格的にVR制作を始めたのは大学に入ってからです。サークルオリエンテーションのとき、UT-virtualのブースでオキュラスタッチという両手で握って操作するコントローラーを使ったVR体験をしました。そのときの自分の手がVRの中に入り込んだような感覚が強く印象に残り、入会を決意しました。

 

 VRは仮想現実と訳されますが、VRを学んでいく中でvirtualは「仮の」という意味ではなく「実質」という意味で、表現する現実世界のものの本質を取り出す、という意味であることがわかりました。このvirtualという概念に強く引かれ、VRにのめりこんでいきました。

 

西澤さん(以下、西澤) 自分が作ったもので人を喜ばせることが好きで、何かを作るサークルを探していたときに、中川と同じようにサークルオリエンテーションでVR体験をして手などを想像以上に思い通りに動かせることに衝撃を受けました。自分でVRを作れるようになりたいと思い、入会しました。

 

──VR制作技術はどのように学びましたか

 

中川 ゲームを作るのに必要なゲームエンジンの扱いなどはサークルでの制作のときに先輩に教えてもらいました。基本が分かり、やりたいことが明確になってからは、それに必要なことで先輩が詳しくないことはインターネットなどで調べ、自分で学んでいます。

 

 UT-virtualには新入生に対し先輩がついて指導をしてくれるメンター制度もあり、何を勉強すればいいかは先輩が相談に乗ってくれます。

 

中川 VRは近年、ハードウェアの価格が下がったり規格が統一されたりして一般の個人でも扱いやすくなっています。技術面も、技術者がブログに上げていたり、メーカーが資料を公開していたりして、ネット上に材料が豊富にあります。

 

 VR業界はオープンソースの文化が根付いていて、だからこそ専門学校に行かなくても趣味としてここまで勉強することができました。とても良い文化だと思います。

 

──機材などの環境についてはいかがですか

 

 VRの制作にはある程度高性能なコンピュータが必要です。私は最初はサークルのものを使っていましたが、1年生の秋ごろにバイトをして貯めたお金でデスクトップパソコンとゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)を買いました。

 

中川 私も1年生の秋ごろに自分のコンピュータを買いました。高性能パソコンは、VR制作だけでなく、大学の勉強で行うシミュレーションなどにも便利でおすすめです。どのくらいの値段・スペックのものを選ぶと良いかは先輩などに相談すると良いと思います。

 

密なコミュニケーションで快調に制作

 

制作途中のバーチャル東大(写真は所さん提供)

 

──「バーチャル東大」制作に至った経緯を教えてください

 

 一番最初は、令和元年度の卒業式が縮小開催になったことを受けて有志で開催されたLT大会(卒業生が大学でどんな勉強をし、これからどんなことをするか発表するイベント)の会場として、1人で安田講堂前を作ったのがきっかけです。それを見たUT-virtualの顧問である稲見昌彦先生(東大先端科学技術研究センター)から依頼されてオープンハウス(研究室公開)用に作った「バーチャル先端研」が東大本部の目に留まり、オープンキャンパスの企画として「バーチャル東大」を制作・公開することが決まりました。

 

 作業量が多かったので、UT-virtualの同期で、優秀で仲の良かった中川と西澤に声を掛け、一緒に制作することになりました。

 

──話を聞いたときはどのように思いましたか

 

 嬉しかったです。対面でのオープンキャンパスができない中でVRを解決手段の一つと思ってもらえたのが嬉しく、クオリティーの高いものを作ろうと思いました。

 

西澤 オープンキャンパスという一大イベントの企画に携わるということで驚きましたが、楽しそうだと思いすぐに了承しました。オープンキャンパスは私も高校生のときに参加して影響を受けたので、高校生に東大のすごさを見せられたらいいなと思いました。

 

中川 これまでの学園祭などでの制作と比べて規模が大きく見る人の数も多いので、わくわくしました。

 

──「バーチャル東大」はどのように制作したのですか

 

 3人でエリアを分担して作りました。研究室を借りてオフラインでみんなで作業することもありましたが、オンラインで作業することもあったので、作業を記録・共有して、誰がいつ何をしたかお互いが常に把握できるようにしていました。わからない部分を教え合ったり進捗を確認し合ったりして、オンラインでもオフラインと変わらないコミュニケーションをとっており、スムーズな作業に繋がりました。

 

 夏休み中に週30~40時間作業し、約1カ月半で完成しました。大学が開いている時間に合わせて作業していたので、深夜作業などもなく、余裕を持って作業できました。

 

西澤 私は設計を担当したのですが、来た人が実際にキャンパスを自分の足で歩いたような体験をできるようにすることを心がけました。自分が初めてキャンパスを訪れたときにその広さに感動したことを思い出して、全てのエリアをつなげて歩いて行き来できるようにしたり、制作した部分以外もマップに表示したりして、広さを感じてもらえるような工夫をしました。

 

──制作に当たり大変だったことはありましたか

 

 建物をモデリングするのに現地に観察しに行き写真をたくさん撮って取材するのですが、暑くて本当に大変でした。

 

西澤 私はモデリングの経験があまり無かったので難しかったです。特に曲線部分など、どの角度から見てもそれらしく見えるように調整するのが難しく、所に教えてもらいながら取り組みました。「バーチャル東大」の制作を通して新たに勉強したことも多かったです。

 

──実際に公開していかがでしたか

 

 延べ14475人と思っていたよりもたくさんの人に来てもらうことができ、とても嬉しかったです。

 

中川 VR空間内に動画が設置してあるのですが、公開してすぐ、アクセス過多でサーバを止められてしまい動画が再生されないというハプニングがありました。焦った反面、それほどアクセスがあったことに驚きました。

 

 Twitterなどを通してたくさん反響があり、「再現性が高い」といった質を評価するコメントも多数あったのが嬉しかったです。

 

西澤 設計の際に、現実のキャンパスと全く同じにするのではなく、方向を示すアイコンを空間に浮かせたり、クリックすると各エリアに飛べるマップを設置したりなどVRならではの表現を工夫しました。そのようなこだわりに気付いて褒めてくださったコメントもあり、とても嬉しかったです。

 

 オープンキャンパスは高校生に向けたものでしたが、本郷キャンパスを訪れたことのある学生や教員、本郷キャンパスに来たことのない1年生などからも反響がありました。オンラインだったからこそ、想定していなかった人にも見てもらえたことを実感しました。

 

──総長大賞を受賞したときはどのように感じましたか

 

 受賞を知らせるメールが来たときは、まさか受賞できるとは思っていなかったのでとてもびっくりしました。

 

西澤 私はTwitterなどで知人から連絡が来てじわじわ受賞したことを知りましたが、とても驚きました。自分たちでやっていたので、どの程度評価されることなのかわかっていませんでしたが、このような評価をもらえることだったのだと認識し、頑張って良かったなと思いました。

 

中川 私たちがやったことは技術的にはそれほどすごいことではなく、先生方や職員の方、オープンキャンパス実行委員の方など、制作以外の部分で働いてくださった方々あっての受賞だと強く思いました。

 

 本当にその通りで、ありがたい気持ちでいっぱいです。多くの方に助けていただいた分、きちんと成果が出て本当に良かったです。

 

バーチャル東大。2020年度の高校生のためのオープンキャンパスでは、赤門エリア・正門エリア・安田講堂エリア・図書館エリアに加え、安田講堂内部も公開された(写真は所さん提供)

 

「バーチャル東大」はこちらからいつでも散策できます

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