文化

2023年8月14日

【東大CINEMA】『君たちはどう生きるか』 宮﨑駿監督、10年ぶり新作映画

 

※本記事では、映画「君たちはどう生きるか」の内容に触れています。

 

 スタジオジブリが制作したアニメーション映画『君たちはどう生きるか』が7月14日に公開された。『風立ちぬ』以来となる、10年ぶりの宮﨑駿監督の長編映画だ。映画のタイトルは吉野源三郎の著書の題名からとったものではあるが、内容は監督の完全なオリジナルである。タイトルと鳥の描かれたポスターを除き、映画に関する情報が一切公開されなかったことも特徴の一つだ。記者は期待に胸を膨らませて劇場へ足を運んだ。

 

君たちはどう生きるか
(C)2023 Studio Ghibli

 

 時代は太平洋戦争のさなか。主人公の少年、牧眞人(まきまひと)が火事で母親を亡くすところから始まるが、場面はすぐに数年後へ移る。眞人は、眞人の母の妹夏子と再婚した父と田舎へ疎開する。眞人は自身の弟か妹となる赤ちゃんを妊娠している新しい母を「夏子おばさん」と呼び複雑な気持ちを抱いている。眞人は炎の中で自分を呼ぶ母の像を何度も思い浮かべ、母の死を受け止めきれていない。新居の広い屋敷には雇い人のばあやが7人いたり、屋敷の庭に大きな塔が建っていたりと、神秘的でジブリらしさ満載な世界が画面いっぱいに広がる。1匹のアオサギが眞人につきまとい「生きた母が君を待っている」と誘惑する。宣伝ポスターと同じアオサギだ。新しい環境での少年の成長を巡る物語が展開され、不可思議なアオサギや塔の実体も明かされるだろうと思い見入っていた。

 

 しかし映画はそんなに単純には進まなかった。序盤で行方不明になった夏子を探しに眞人は塔へ入る。夏子を探しにさらに進むと、そこはインコの支配する世界だった。黄緑やオレンジなど色こそ鮮やかだが、どのインコも全く同じ無表情で無機質な声を持っている上に、人間を食べる。食べられそうになった眞人は少女ヒミに救われる。黒い髪を二つ結びにして赤いエプロンを着たこの可愛らしい少女は、『となりのトトロ』のメイや『魔女の宅急便』のキキなど、ジブリ作品に度々登場する好奇心あふれる少女像を連想させる。ヒミは眞人の母の少女時代の姿だと明らかになり、2人は夏子を救いに行くがインコに捕まってしまう。継母夏子の捜索から眞人が実母ヒミを助け出す救出劇へと物語が転換する。

 

 眞人にはもう一つ重要な出会いが待ち受けていた。異世界を作った存在で、管理者でもある「大叔父」だ。この異世界は13個の積み木を組み立てることで秩序を保っていると語り、眞人に新しく積み木を積んでこの世界を守る仕事を継いで欲しいと頼む。だが眞人はその願いを断る。これを機に大叔父の築いた世界が崩れる。地面が割れ水があふれ、世界が無になっていく。インコらも鞄や調理用具を持って互いを支えながら必死に避難し、その姿には人間味が感じられた。眞人、夏子、そしてヒミは無事外の世界につながる扉にたどり着き、それぞれがやって来た現実世界に戻る。眞人と夏子を見つけた眞人の父は2人に駆け寄り、3人は抱きしめ合う。時が経ち、異世界での記憶を忘れた眞人が父、夏子、そして成長した弟と共に東京へ戻る場面で、作品は終わる。

 

 次から次へ物語が展開されるものの伏線が回収されず、また何よりも主人公の感情が一切読めない本作。これは「少年が新しい環境を受け入れる」物語なのか? それとも「若者が新しい世界をつくるのだ」というメッセージを伝えたかったのだろうか。あるいは分かりやすいストーリーを求めずに作品に散りばめられたジブリらしさを楽しんだり芸術作品として見たりするべきだったのかもしれない。無数の解釈が思い浮かんだ。劇場の隣の人もきっと無数の解釈を思い浮かべただろう。明瞭な物語を見出せないからこそ本作をどう捉えるのか、画面越しに何を見るのかは、鑑賞者一人一人にかかっている。あなたは本作に何を見いだすのか、ぜひ自分自身で確かめてみてほしい。【仁】

 

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