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2021年9月3日

東大、総長との対話イベント開催 1・2年生は約70人が参加

 東大は8月27日、学部生を対象に藤井輝夫総長との対話イベントをオンラインで実施した。学部1・2年生対象の回では、前期課程やコロナ禍で延期されたイベント、課外活動などに関するものを中心に30余りの質問が寄せられ、うち総長は9問に回答した。

 

 学部1・2年生対象の回には約90人が参加を申し込み、そのうち約70人が参加した。大学側は藤井総長の他に大久保達也理事・副学長(総務、教育、施設、情報担当)、森山工総合文化研究科・教養学部長が参加。司会は武田洋幸広報戦略本部長が務めた。

 

 イベントで、藤井総長は冒頭の自己紹介の後現在検討している施策のビジョンを紹介。「対話と共感」「多様性と包摂性」「世界の誰もが来たくなる大学」を基本方針とする「UTokyo COMPASS」が発表された。

 

 質問に答える場面では、まず事前アンケートで多く寄せられた「今後の講義のあり方」「課外活動」「対話とは何か」についての質問に回答した後、リアルタイムで寄せられる質問に答えていった。コロナ禍における授業形態や課外活動などについて事前アンケートより踏み込んだ質問に回答した一方、対面の機会が制限された2年生に対する金銭的補償の有無などについての質問には触れられなかった。前期教養課程や駒場キャンパスに関連した質問には森山総合文化研究科・教養学部長が代わりに答える場面もあった。

 

 質疑応答後、藤井総長は学生の視点や経験に基づいた意見を知ることができたと感想を述べ、対話で寄せられた質問を大学側で共有すると約束した。併せて武田広報戦略本部長から、今後総長に対して意見や質問等がある場合は、所属する部局の総務部に送ることで本部広報課を通じて総長に届けられることが説明された。

 

 同日には学部3年生以上対象の対話イベントも開催された。大学院生向けの同イベントは9月6日に実施される。

 

主な質問・回答の要旨

 

【事前アンケートで多く寄せられた質問】

 

・今後の講義のあり方について

藤井総長(以下藤井) 2年生には、1年生の頃から困難に挑んだ努力をたたえたい。ポストコロナに向け議論を進めている。後期課程に進学する2年生には、交流の場をつくるよう各部局にお願いをしている。

 

・コロナ禍での課外活動のあり方は

藤井 活動制限レベルBを維持しており、申請を出して認められたものは活動できるようになっている。

 

・対話とは何か

藤井 向かい合って話すだけではなく、分からないものを知ろうとする実践を表す。問いを立て、他者とお互いにその問いを共有することで、信頼が育まれる。

 

【リアルタイムで寄せられた質問】

 

・駒場Iキャンパスの門について、正門と裏門の他に北門も解放できないか

森山工総合文化研究科・教養学部長(以下森山) 門の開放に当たっては利便性以上に安全性が重要。コロナ禍で駒場は元々正門限定で解放していたが、限定措置として裏門も解放している。加えて北門も開放となると動線確保や管理にコストがかかる。今のところ安全重視でいきたい。

 

・五月祭や入学式典の延期に際して「社会的責任」を理由としていたが、学生は(こうした延期の決定に関わる)新型コロナウイルス対策タスクフォースに参加できない。学生の声を聞かずに決定を行うタスクフォースは非民主的と思うが、民主化についてどう考えているか

藤井 学生の声を聞ける場をつくっていくが、危機管理は大学執行部の責任だ。平常時であれば学生の意見を聞いて進めていきたいが、短期間に感染者が爆増した状況下では十分な対話の時間が取れなかった。

 

・2年生の対面授業は徐々に増えているが、特に文系学生についてはほぼ対面授業の機会がない。この点を認識しているか。全体的に対面授業を増やしているという実績だけが強調されて、個別の学生への配慮がなされていないように見受けられるので、文系学生への配慮をして欲しい。受講者が数人の授業がオンライン指定されていて、不合理だ

藤井 個別の状況が把握できていない中、貴重な話だ。きめ細やかな対応をしていく。Aセメスターでは対面を増やせるよう学部と話していく。

森山 今の2年生は極めて厳しい状況下で最初の1年を過ごした。コロナの流行下で2年目となる本年度は対面授業数を増やせた一方、2年生は学年進行の関係上履修こま数が減ったので、結果対面授業を履修する機会が減ってしまった。Aセメスターは全体的に開講数が少なくなり、キャンパスに来る学生の数が減るので対面授業を増やせる。ガイドラインにのっとりつつも、教員の裁量による個別対応ができる形にするよう働きかける。

 

・授業は対面のものがあるのに課外活動は制限が多い。どちらもリスクがあるのならば授業もオンライン化が必要では

藤井 対面で効果が大きい授業は対面で実施したい。対面授業を安全に行うために課外活動に制限を設けている。

 

・多様性確保のために具体的な方策は

藤井 ジェンダー、国籍、年齢、障がいの有無などさまざまなバックグラウンドの学生が集まることで、広い視点から物を見ることができるようになる。さまざまな人に集まってほしいし、皆さんにもさまざまな人に会ってほしい。

 

・入学者歓迎式典における垂れ幕掲出について、当事者とは対話はあったのか。また大学側から情報発信がされていない理由は

藤井 入学者歓迎式典は元々2年生に会って苦労をねぎらい、改めて歓迎の意を示したいという目的で実施された。発信力の強い一人の学生との対話の場ではなかった。

 

・東大の教養教育は「教養ある一般人」の養成を意図しているように見えるが、東大は本来日本の中で研究活動をリードするべき立場なのでは。その観点から見るとより早期から専門科目を学習すべきで、前期教養課程はむしろマイナスなのでは

藤井 学生には興味のある学問分野を掘り下げてほしいが、研究者になるにしても、研究者以外の進路に進むにしても知識をいかに使って対話していくかが重要となる。机上の学びだけでなく外の世界で東大のネットワークを生かして実践的な経験をしてほしい。そこで学びが足りないと感じたら、改めて東大でそれを補う学びをしてほしい。

 

【参加者の声】

 

 対話をうたう総長が、どのように対話を図るのかという点が前から気になっていた。大学にはさまざまな役割や責任があると思うが、その内学生の期待に応えることにはどのような重要性があると認識しているか聞いてみようと思っていた。参加してみて、あまり対話になっていないと感じた。対話はお互いの意見をぶつけ合いつつ議論を深めることだと思うが、今回は質疑が一往復ずつしかなかった。何度も言葉のキャッチボールを交わすべきだったと思う。他の学生が途中から議論に加わることもあればよかった。(文Ⅲ・2年)

 

 冒頭で総長から(キャッチコピーとして掲げている)「対話」という概念について改めて説明があったが、総長や大学側にとっては、(学生の声を取り入れることだけというわけではなく)学生に対し声を取り入れられなかった理由を説明して理解してもらおうとすることも「対話」の一環である、という含意を読み取ることもできる内容だった。一方で、一定数の学生が求めている「対話」はおそらく自分たちの声を東大運営に取り入れてもらうことを指すので、双方の認識や求めていることにズレがあるのではないかと思った。(文Ⅲ・2年)

 

 文系の授業はほとんどがオンラインで、深い仲の友達はおろか、学生同士の満足な交流もできずに悩んでいたところ、今回の企画の知らせを見た。総長に現状を理解してもらい、大学の授業方針を改善してもらえればと思って参加した。こちらから質問する機会もあり、要望を正確に伝えられたという点では成果があったと思う。一方、大学側からは「お約束はできない」という発言も繰り返されたので少し不信感も残った。今回のイベントがいわゆる「懐柔」に終わらず、大学側が改善をなしていくのか、今後慎重に見守りたいと思う。(文I・2年)

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