文化

2025年8月25日

圧倒的疾走感 戦闘機すら超えて 『F1® /エフワン』

映画『F1®/エフワン』 2025/6/27公開 ワーナー・ブラザーズ映画 ©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESEVRED.

 

 映画館で上映前の予告を見ていた時、ひときわ印象に残るタイトルがあった。セリフ少なに、ドライバーのアップと走行音が流れ、映画のロゴが映し出されるだけ。今年6月27日に劇場公開された『F1』のそれだ。

 

 映画の冒頭は24時間耐久レース「デイトナ」から始まる。このレースでチームを優勝に導く天才ドライバーのソニー(ブラッド・ピット)は、かつてF1優勝候補と目されたものの、大会中の大けがで第一線から退き、10年後にレーサーとして復帰した後は特定のチームに所属せず転々としていた。そんな中で最下位に沈む弱小チーム「エイペックス」の代表であり、元チームメイトでもある旧友のルーベン(ハビエル・バルデム)の誘いを受ける。チーム「エイペックス」存続の条件である優勝のため、ソニーが20年ぶりにF1現役復帰を果たしたところから物語は動き出す。復帰できたのはいいものの自分勝手で社会性が疑われるソニーの振る舞いや30年間のブランクから来る感覚のズレに他のチームメンバーはあきれ果てる。特に新人ドライバーのジョシュア(ダムソン・イドリス)とは、彼の対抗心もあってたびたび衝突し、チーム全体の習熟度の低さも相まって最初のレースは大敗に終わってしまう。しかし、そのような逆境の中で自分の間違いを認めたソニーは周りを見て、たとえソニー自身のためにならないとしてもチームにとって最善の行動をとるようになる。そんな彼の自己犠牲を見たチームメイトは次第にソニーを素直に認めるようになり、ソニーもチームメイトを信頼するようになっていく。ドライバー2人の復活や成長も重なって「エイペックス」はチームとして成長し、チームはどんどんスコアを伸ばす。そしてさまざまな思いと策略が交錯する中で、「エイペックス」は多くの試練を乗り越えF1優勝に向けてまい進していく。

 

映画『F1®/エフワン』 2025/6/27公開 ワーナー・ブラザーズ映画 ©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESEVRED.

 

 だが、この映画一番の見どころはストーリーではない。宣伝でも銘打たれているように、「体験」の部分だ。本物のF1レーサーが制作者の1人に名を連ねる本作は、レースシーンのあまりの迫力に自分が車に乗っているかと錯覚する。最新技術による徹底した「現実」の追求の中で、ピットにいる整備班のスピード感、没入感を高めるレーサー視点の映像、エンジン音や車が空気を切る音、その全てがレース会場に観客をいざなってくれる。

 

 さらに、「体験」はレース中だけにとどまらない。サインを求めるファン、華やかな開会式、レース前に観客に手を振るレーサー、観戦中の観客の応援、大会中に打ち上がる花火など、きっと「F1」を構成しているのであろう全てが、無駄な間隔の一切をそぎ落とした編集によってダイレクトに観客の意識に届き、さらにシーンに合ったハイテンションな音楽も相まって、観客自身が「F1」を体験しているのではないかと思わせてくる。レースシーンもさることながら、この「熱狂」の表現がこの映画を支えている。

 

 そして、これらの解像度の高い「体験」は、物語への没入感も押し上げている。序盤は、レスでソニーとジョシュアが争い、さらにマシンの不調で整備場のピットに入ることが多く、その他のシーンでもチームワークが取れないなど非常にぐだぐだな展開が続く。だが、最後のアブダビでのレースでは、チームが一丸となってレーサーたちを助け、ソニーとジョシュアも高度なチームワークを見せ、ハイスピードで展開するレースに緊張すると同時にこれまでたまっていたストレスが一気に発散されていくような気分になれるのだ。

 

 制作陣が共通する映画作品として『トップガンマーヴェリック』と比較すると、『トップガン~』は旧作との連動を意識した時間的奥行きのあるドラマが展開されていたのに対し、「F1」は物語が疾走感のあるアクションと一体化したかのような感覚で鑑賞することができた。

 

 本作はまさに『F1』を体験できる映画だ。近年は技術の発達でCGや視覚効果をふんだんに使った映画が増えているが、だからこそひたすらにリアリティーを出すことを徹底した「体験映画」が人気になるのかもしれない。【神】

 

映画『F1®/エフワン』 2025/6/27公開 ワーナー・ブラザーズ映画 ©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESEVRED.

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