教養

2021年7月27日

【漫画×論評 TODAI COMINTARY】野田サトル・『ゴールデンカムイ』

 今や日本が世界に誇る文化となった漫画。編集部員自らがぜひ読んでほしいとおすすめする漫画作品(Comics)を、独自の視点を交え、論評(Commentary)という形(Comintary)でお届けする本企画。今回は、『ゴールデンカムイ』(野田サトル)を取り上げます。

 

集英社、税込み594円 ©野田サトル/集英社

 

 金塊を探し当て、一挙に億万長者になる。誰もが思い描いたことのある夢ではないだろうか。徳川家康・豊臣秀吉の埋蔵金やGHQの隠し資産など金塊のうわさは枚挙にいとまがない。そしてこの作品では、新たな金塊探求が描かれる。それが「アイヌ」である。

 

 舞台は日露戦争後の北海道。戦争を生き抜き、不死身と呼ばれた杉元佐一は偶然、ある死刑囚が隠し持っている金塊の存在を知る。元々金塊を持っていたアイヌ民族の人々を殺し、奪い取ったものだ。そして、同じ刑務所にいる他の死刑囚に金塊のありかを示す暗号の入れ墨を彫り、それらの死刑囚を脱獄させたという。そんな話を聞いた杉元は、ある理由から大金を求めていたため、その金塊と暗号の入れ墨が入った脱獄囚らを探すことにする。しかし、杉本が金塊を手にするのを阻む刺客が続々と登場して……。

 

 これだけでは、ありきたりの金塊探索ストーリーになってしまう。本作はさらに、杉元と共に金塊を探すことになるアイヌ民族の少女、アシㇼパが登場する。アシㇼパの紹介するアイヌの伝統的な狩猟の方法や自然の利用法により、幾度となく杉元が助けられる。そのアイヌの文化が垣間見えるのが、本作の見所の一つである食事シーンだ。馬の肉を使った桜鍋や鹿の背中の肉の焼き肉など、あまり食べたことがないながらも、いかにも良い香りのする食材の数々は食欲をそそる。さらに、鹿の脳や巨大魚の目玉など、北海道の野趣あふれる食材に舌鼓を打つ杉元たちの姿がコミカルに描かれている。

 

 記者が本作を知ったのは、以前旅行で訪れた北海道・白老。アイヌ文化の伝承を目的とした施設「ウポポイ」に見学に行った帰り、駅前のお土産の中にあった『ゴールデンカムイ』グッズを見たことだった。ウポポイを訪れた直後だったこともあり、アイヌ文化に対する好奇心がかなり高かったので、北海道からの帰り道で早速本作を読み始めた。実際、アイヌの文化をよく取材して描かれた本作を読んだことで、アイヌ文化をより立体的に知ることができた。アイヌに伝わる考え方や神の捉え方がアシㇼパの生き方として体現されている様子を見ると、そうした伝統や考え方が単なる説明文以上に実感のあるものに感じられる。

 

 杉元やアシㇼパは刺客をはねのけ、金塊を見つけることができるのか。さらに旅が進むとアシㇼパと金塊を奪った死刑囚にある関係があることがわかり、どうなるのか全く目が離せない。加えてアシㇼパの紹介する食事も紙面から匂いがするほどおいしそうで、おなかがすく。アイヌの文化を学べる上に、バトルロワイヤルものとしても最高の一作だ。【黒】

 

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