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2021年1月26日

【加齢現象などの改善に道筋】東大医科学研究所、老化細胞を選択的に除去する阻害剤を同定

 城村由和助教や中西真教授(共に東大医科学研究所)らは、老化細胞を選択的に除去する「GLS1阻害剤」が、さまざまな臓器・組織の加齢現象・老年病・生活習慣病を改善させることを証明した。成果は1月15日付の米科学誌『サイエンス』に掲載された。

 

 細胞は多様なストレスを受けることで、不可逆的な増殖停止を示す老化細胞へと誘導される。老化細胞は加齢に伴い生体内に蓄積するものの、除去すれば加齢現象などが改善される。しかし、生体内の老化細胞は多様性を有しており、広範な老化細胞を標的とした老化細胞除去薬は未開発だった。

 

 研究グループは、新たに考案した効率的な方法で老化細胞を作製し、老化細胞の生存に必須な遺伝子群を探索。グルタミンからグルタミン酸を産生する酵素であるGLS1が、有力な候補遺伝子として同定された。老化細胞におけるGLS1の発現変化を解析したところ、細胞の種類や老化誘導要因に関わらず、GLS1と同じ機能を有するKGAの発現が増加していた。ヒトの皮膚でも、KGAの発現と年齢に正の相関があった。正常な細胞と老化細胞の生存に対するGLS1阻害剤の影響を検討したところ、老化細胞を選択的に死滅させることが確認された。

 

 ラット腎臓では細胞内pHが低下することでKGAの発現が上昇する、という先行研究を踏まえ、細胞内pHの調節を担う細胞内小器官「リソソーム」の動態についても解析。結果、老化細胞のさまざまな遺伝子の過剰発現によってタンパク質凝集体が形成されたことで、リソソーム膜に損傷が生じ、細胞内pHが低下した。さらに、老化細胞においてGLS1を阻害すると、細胞内pHが大きく低下し細胞死が誘導された。一方、細胞培養液のpHを弱塩基性にしたり、GLS1の副産物だと考えられていた塩基性のアンモニアを過剰添加したりすると、GLS1阻害による細胞死が抑制された。老化細胞は細胞内pHの低下に伴い、GLS1の量を増やして過剰なアンモニアを生成することで恒常性を保ち、生存を維持できることが示唆される。

 

 加齢現象に対するGLS1阻害剤の有効性を検証するために、老齢マウスにGLS1阻害剤を投与した。結果、さまざまな臓器・組織で老化細胞の除去が確認でき、加齢に伴う諸症状が改善し得ることや、老化に伴う筋量低下などの進行が抑制されることが分かった。さらに、さまざまな加齢関連疾患のモデルに当たるマウスへGLS1阻害剤を投与すると、肥満性糖尿病や動脈硬化などの症状も緩和された。

 

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