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2021年6月3日

子育てと学び・研究を両立させるには 東大の学内保育園の役割

 

 2016年、「保育園落ちた日本死ね!!!」という言葉がユーキャン新語・流行語大賞を受賞するなど、待機児童問題が大きな注目を浴びた。あれから5年、現在の日本の保育園事情はどうなっているのか。東大のキャンパス内には自治体保育園を利用できない学生・教職員向けに、保育園が設置されている。学内保育園設立の主体となった東大男女共同参画室と、実際の利用者へのインタビューを基に、その実態を探る。(取材・松崎文香)

 

激しい「保活」の戦い 大学の取り組みは

 

 親が子供を日中施設に預ける際、主な選択肢には認可保育園、幼稚園、認定こども園などが挙げられる。これらの他に企業や大学といった事業所内に設置された保育施設や、「東京都保育認証保育所」などの自治体独自の施設、その他の認可外保育施設を利用することもできる。幼稚園が教育を目的とする施設であるのに対し、保育園は仕事や介護などで保護者が保育することができない子どもを、保護者に代わって預かり保育するための施設だ。そのため、入園に際しては保護者の就労状況などが問われる。

 

 自治体ごとに細かな条件は異なるが、本郷キャンパスのある文京区では、父母の労働状況などを点数換算した「基本指数」と、小さなきょうだいがいるかなど、その他の要因について点数換算した「調整指数」の和で「選考指数」が決まる。「選考指数」は一般に「保育の点数」などと呼ばれ、定員を越える入園希望者がいた場合はこの「点数」が高い順に入園が決まる。週5日以上(月20日以上)にわたり、日中8時間以上の勤務を常態としていれば「点数」は10点。一方で学生は同じ時間就学していても「点数」は8点となり、就労している場合よりも選考において不利になってしまう。入園希望者が多い時には、両親ともに就労していたとしても選考に落ちるケースが多々ある。

 

 子どもが入園できる保育園を探す活動、通称「保活」は、認可保育園の定員が少ない自治体では困難を極める。認可外の保育園やベビーシッターに預けながら働いた経験があると加点につながるケースがあるため、その実績を作ることが「点数」を稼ぐための「保活の裏ワザ」として、インターネット上で紹介されるほどだ。落選した保護者は子育てと仕事・介護などとの板挟みになることが多く、16年には子どもを保育園に入園させることができなかった母親が「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルのブログをつづり、大きな反響を呼んだ。このように、保護者が保育園に入園を希望しているのに入れない子どもが多数存在することは「待機児童問題」と呼ばれ、解決の必要性が叫ばれてきた。

 

 そこで、自治体の保育園への入園が許可されなかった子どもの保護者が働き、あるいは学び続けるためのセーフティーネットとして、独自に保育施設を設置している大学が複数存在する。16年に文部科学省が全国の大学・短期大学・高等専門学校(計1167校)を対象に行ったアンケート調査では、回答のあった1079校のうち「保育所(施設)を設置」と答えたのは全体の12.5%だった。一方で、国立大学86校のみに絞れば「保育所(施設) を設置」と回答した割合は 53.5%に上る。東大もそのうちの一つだ。

 

 本郷、駒場、白金、柏の4キャンパスに学内保育園が設置されており、東大の構成員であれば部局によらず利用を申請できる。所属する構成員の人数が多い本郷キャンパスでは、自治体の保育園で特に倍率が高くなる傾向にある0歳から2歳の子どもを、駒場・白金・柏の学内保育園では5歳以下の子どもを、各保育園30人まで受け入れている。また、これら四つの全学対象保育園の他に、医学部附属病院などに保護者の所属する部局を限定した「東大病院いちょう保育園」や、株式会社ポピンズ設置の、東大関係者を対象とした企業主導型事業所内保育所である「ポピンズナーサリースクール東大本郷さくら」も設置されている。

 

 これらの学内保育園と東大の子育て支援について、その主体である東大男女共同参画室に話を聞いた。

 

 

学内保育園は働くためのセーフティーネット

 

──学内保育園を設立することになった経緯は

 

 東大男女共同参画室は06年4月に発足しました。その頃、特に本郷キャンパスのある文京区の認可保育所の待機児童が非常に多く、教育・研究活動や学業に復帰したいという教職員や学生にとっての大きな壁となっていました。一般の保育所では年度の途中に入園することは難しく、早く復帰したくても翌4月まで待たなければならないという課題もありました。そうした状況の中、学内の「保育園を設置してほしい」という声を受け、07年に医学部附属病院の職員を対象とした東大病院いちょう保育園を開園、翌08年には全学対象の四つの保育園(東大本郷けやき保育園、東大白金ひまわり保育園、東大駒場むくのき保育園、東大柏どんぐり保育園 ) を開園しました。また、18年には本郷キャンパス内にポピンズナーサリースクール東大本郷さくら(企業主導型事業所内保育所)を新設しました。

 

──学内保育園の運営はどのように行われていますか

 

 男女共同参画室と連携・協力しながら、保育園運営委員会が入園選考などの意思決定を行っています。保育園運営委員会の指導・監査のもと、各保育園に設置されている運営小委員会が入園申請書類のチェックや施設の管理など、日常的な事務業務を行っています。保育園の運営にかかるコストは大学の運営費で賄われています。

 

──学内保育園に入園を希望しても入れない「待機児童」はいますか

 

 学内保育園を設立した当初は認可保育所の待機児童があまりにも多く、学内保育園でも希望しているのに入園できないお子さんがいました。しかし、認可保育所の増加や学内保育園の増設などで対応した結果、現在は学内の待機児童は解消されました。もちろん学内に設置された保育園であるため、スペースにも限りがあり、大学構成員全体のお子さんを受け入れることはできません。そのため、利用希望者に入園前・入園後も継続して認可保育所への申請を行っていただくことで、年度途中でも可能な限り利用希望者を受け入れられるようにしています。さらに、自治体の保育所の入園優先度が低い学生や、外国から来たばかりの留学生・教職員などを積極的に受け入れることで、本学構成員が子育てをする上でのセーフティーネットとしての役割も果たそうとしています。また、日本語に慣れていないお子さんが過ごしやすいように、英語対応可能な保育士を配置するという工夫も行っています。

 

──新型コロナウイルス感染症の影響は

 

 学内保育園は、東大の学内の活動制限指針ごとにどのように対応するかをあらかじめ定めており、昨年の4月、5月は活動制限指針の引き上げに伴い一時閉鎖していましたが、保育園内の衛生管理を徹底して6月以降は一貫して開園しています。保護者参観などのイベントの中止に関しては、保護者から残念だという声もあったので、今後対応を考えていきたいと思っています。

 

 昨年度は留学生の減少などの影響を受け、学内保育園の利用者が例年より少なくなっている一方で、ベビーシッターサービスの割引券の利用希望者は例年より増えました。こちらに対しては割引券の発行枚数を昨年度の4倍に増やして対応し、必要な人全員に行き渡るようにしました。

 

──学内保育園の他にどのような子育て支援を行っていますか

 

 育児や介護、妊娠・出産のために研究時間を確保することが難しい教員のために、研究のサポート要員を雇用する費用の支援を行っています。また、ベビーシッターサービス利用時の割引券発行も行っています。こちらは内閣府の委託を受けた公益社団法人全国保育サービス協会が実施している「ベビーシッター派遣事業」を利用し、東大が行っている事業です。また、現在は、一時保育を利用しやすくするといった学内保育園の充実や、男性に子育てへの意識を高めてもらうための意識開発セミナーを開催することなどを検討しています。他にも学内から要望があれば支援を拡充していくつもりです。

 

学内保育園 利用者の声

 

 大学院の博士課程在学中に学生結婚し、3年目の終わりに子どもが生まれました。妻は出産後しばらく産休・育休を取得していましたが、現在は国家公務員、いわゆる官僚として、私は東大の教員として、1歳9カ月の子どもを育てながらそれぞれフルタイムで働いています。

 

 妻の産休・育休が終わった後も、区の保育園への申請が通らない状態でした。認可外の保育施設を利用すると月10万円ほどの支出になりますし、両親も遠方に在住しているので頼ることはできませんでした。去年の3月に大学院を修了し、東大に就職することになったため、東大の本郷けやき保育園を利用することにしました。

 

 私が住んでいる区は0歳児の待機児童が多く、両親がフルタイム勤務だとしても0歳から自治体の保育園に預けるのは狭き門となっています。一方、子どもが1歳になってから預けようとすると、子供の生まれ月によっては1年以上の育児休暇が必要になり、キャリアパスに響きます。学内保育園を利用できなかったら、両親のどちらかにしわ寄せが来ていたと思いますね。

 

 昨年の4、5月は新型コロナウイルス感染症の影響で学内保育園は閉鎖していました。私は東大に着任した直後でしたが、子どもが起きている間は全く仕事ができず、保護者が働き続けるために保育園がいかに重要なのかを再認識しました。「両親とも家にいるのだから子育てできるはず」という世間の風潮もつらかったです。6月頃から学内保育園が再開し、給食が出ないなどの制限はあったものの、やっと仕事に取り組めるようになりました。授業や研究はオンライン化されていましたが、子どもを本郷の保育園に預けるためにキャンパスへ毎日通うようになりました。現在も同じ生活を続けています。

 

 学内保育園自体には大変満足していますが、制度には多少利用のしづらさを感じています。自治体の保育園に申請し却下されなければ学内保育園を利用できないため、前年度に学内保育園を利用していたとしても次の年はどうなるか分かりません。保育園が変われば自分も子どもも生活スタイルを変えなければならないので、現在は「自治体の保育園に受かってしまったらどうしよう」という不安があります。現在私は、午後6時30分ごろには迎えに行く必要があるのですが、もう少し長い時間仕事に充てたいというのが本音です。研究と学生指導で長時間労働傾向な自分と、官僚という多忙な仕事の妻で子育てをする大変さを感じています。

 

森田 直人(もりた・なおと)助教(東京大学大学院工学系研究科)

【記事訂正】2021年6月6日11時26分 学内保育園には延長保育がなく→現在私は(学内保育園 利用者の声)

編注:2021年6月現在、学内の4つの保育園には21時までの延長保育がある。

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