永田拓洋さん(経・3年)と糸山典隆さん(経・3年)が夏休みに挑んだのは、東京から青森までの約680kmを自転車で駆け抜ける壮大な旅であった。それは単なる体力勝負の旅ではなく、予測不能なトラブルや、心折れそうになる「坂」の連続であった。なぜ彼らはこの無謀とも思える挑戦に挑み、どのようにやり遂げたのか。そして、その経験から得た「人生の学び」とは。二人の学生が語る、挑戦の舞台裏と、そこから見出した新たな価値観に迫る。(取材・種子田空里)
企画の始まり:挑戦を成功に導くための思考
この旅は、単なる思い付きではない。そこには、東大生らしいチャレンジ精神と、ビジネス的な発想が強く関わっていた。
彼らが自転車旅を選んだのは、「運動系の趣味を作りたい」という個人的な動機と、「スポンサーシップを獲得して旅行に出かける」という、誰もが思い付かない挑戦を実行することで、「やればできることがある」という認知の限界を広げたいという考えがあったからだ。永田さんは、休学して起業しようとした経験から、「計画するだけでなく、それを実行に移すこと」に挑戦の意義を見い出していた。
また、旅の目的地を青森にしたのは、「祭りといえば荒々しいねぶた」という憧れと、それを「体験する、見るだけじゃなく参加する」という情熱を満たすためであった。
2人は事前にルートを徹底的に検討し、海外の新興企業なども含めて、ユニークな視点でスポンサー探しにも奔走した。まるで一つのプロジェクトを立ち上げるように、この自転車旅は始まったのである。
そして、2人は旅の最中にも、その成功に導くための思考を発揮した。旅の終盤、ゴールにたどり着いた瞬間に自転車がパンクするというアクシデントに見舞われたことから、機材への信頼と準備の重要性を痛感し、「良い自転車だったから、最後の最後まで行けた」と語った。また、初日はペース配分に失敗したものの、翌日からは「時速20km」が快適な走行の目安になると気付き、旅の進行を最適化していった。この学びのプロセスこそ、彼らを次のステップへと導く力となった。
挑戦の舞台裏:困難と学び
挑戦の初日から、困難は容赦なく襲いかかった。最も過酷だったのは、初日の200km区間だ。栃木から青森への道程、特に栃木の最後の方の旧奥州街道は、精神的にも体力的にも限界を迎えさせた。「粘着質な舗装」と表現された、自転車のタイヤが吸い付くような路面。さらに、道中ではクマの恐怖とも隣り合わせだった。精神的にも体力的にも限界を迎え、心が折れそうになる瞬間が何度もあったという。
しかし、彼らはそこで諦めなかった。それまで「きつかったら降りる」という考え方だったのが、長い坂道を15分間走り続けたことで、意識が根本から変わった。「登り切る」という成功体験が、彼らの自信を確固たるものにしたのだ。また、予期せぬトラブルも最高の学びとなった。フロントバッグの破損や津波警報など、さまざまなアクシデントを乗り越える中で、互いのポジティブさや相性を再認識し、困難を乗り越える力を2人で育んでいった。
達成感:やり切ったからこそ見える景色
約680kmの道程を走り抜けた先には、苦労を吹き飛ばすほどの達成感が待っていた。その道のりは、人との出会いや、現地の味覚によって彩られた。福島県の道の駅では試食が無限に提供され、旅の「ストーリーがつないだ」と語るほど地元の人々との印象的な交流を経験した。
道中、福島駅のずんだシェイクや仙台の牛タンといった名物グルメ、そして何より、クライマックスであるねぶた祭りで地元の人々と肩を組んで踊った時間は、旅の疲れを忘れさせてくれる最高の瞬間であった。さらに盛岡駅では、現地のさんさ踊りのコンテストで選ばれる親善大使であるミスさんさにアナウンスしてもらうという、旅の「ストーリー」を象徴するような出来事もあった。ゴールにたどり着いた瞬間にパンクしたタイヤは、彼らが文字通り「最後の最後まで」力を出し切ったことを物語っていた。
この旅で最も大きな収穫は達成感だけではない。「坂は人生と同じ」と彼らは語る。きつい時こそ妥協せず、ペダルをこぎ続けた先に、全く新しい景色が広がっていた。この経験を通じて得た「やり切る力」は、彼らが今後どのような道に進もうとも、必ずや支えとなるだろう。
東大生へのメッセージ:挑戦を「成功体験」に変える方法
この旅を終えた2人は、後輩たちに力強くメッセージを送る。「言ったからには実行し切る」「やり切る力で見える景色が違う」。漠然とした不安を抱え、最初の一歩を踏み出せないでいる学生たちに対し、まずは具体的な行動を起こすことの重要性を説く。
「大学生の活力で実行に移し続けたい」という彼らの言葉は、この旅がゴールではなく、新たな挑戦の始まりであることを示している。彼らが自転車旅で培った企画力、実行力、そして困難を乗り越える力は、東大生が社会で活躍するための重要なヒントとなるだろう。










