教養

2022年7月31日

【研究室散歩】@韓国朝鮮政治研究 木宮正史教授 研究の原点に民主化運動

 

 

 韓国・朝鮮半島の政治や国際関係を研究する木宮正史教授(東大大学院総合文化研究科)。現在の研究分野に進んだ経緯や軍事独裁体制下の韓国に留学した際の体験、研究の意義、韓国研究を志望する学生へのメッセージなどを聞いた。(取材・桑原秀彰)

 

 

木宮 正史(きみや・ただし)教授
(東京大学大学院総合文化研究科)
93 年東大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。高麗大学大学院政治外交学科博士課程修了。政治学博士。東大大学院総合文化研究科助教授(当時)などを経て、10 年より現職。

 

研究の原点に民主化運動

 

──学生時代の学問上の関心や、力を入れて学んだ分野について教えてください

 

 2年の夏学期のときに、法学部で国際政治学を教えていた坂本義和先生が、駒場で開講していたゼミに参加したのが、研究者の道へ進むターニングポイントだったと思いますね。ゼミは、カール・マンハイムの『イデオロギーとユートピア』などを読み込み、最後には「我々にとって政治におけるユートピアとは何か」をテーマに各自が発表するといったものでした。そこで坂本先生の影響を受け、国際政治学をやろうと思うようになりました。

 

 坂本先生は当時でいえば「第三世界」、今でいうところの発展途上国に注目していました。国際政治でよく連想された、米ソ冷戦などの大国間関係ではなく、いわば「周辺」から国際政治を見てみたいと思ったんですね。

 

カール・マンハイム『イデオロギーとユートピア』高橋徹・徳永恂訳、中央公論新社

 

──国際政治の中でも韓国・朝鮮を研究対象にしています

 

 今では想像し難いですが、私が学生だった1980年前後、韓国はまだ軍事独裁政権でした。政治学の仮説の一つに、経済が発展すれば、政治も民主化に向かうというものがあるのですが、韓国はその例外だったわけです。NICs(NIEsの旧称)などと呼ばれるほど韓国経済は発展していった一方で、未だ軍事独裁を維持しているという、いわゆる「開発独裁」体制の分析に関心を持つようになりました。

 

 ただその体制は韓国一国の問題というよりは、韓国が国際的な冷戦体制や世界的な資本主義体制に置かれているという側面が大きいのではないか、ということに目を向けました。韓国が国際的な力学の中でいかに対応するかを見ることによって、冷戦体制や資本主義体制を捉え直そうしたのです。

 

──韓国の高麗大学大学院で博士号を取得しています

 

 当時、坂本先生のお弟子さんの先生がいた関係で高麗大学大学院に留学しました。当時は独裁体制ではありながらも、優れた研究が多く出始めたことに引かれたという事情もありました。

 

 大学の中では毎日のようにデモがあり、キャンパス中に催涙ガスが垂れ込めるような有様でした。このような状況の中で学んだのは「政治が人間の力で変わる」ということでした。当時日本は自民党の一党優位体制の下にあり、政治は変わらないものだと感じていたのですが、韓国では違いました。

 

 機動隊が出てきて催涙弾を浴びせられる中、学生や市民がデモに参加することで、韓国の政治が日々変わっていくんですね。それが最終的には87年の「民主化宣言」による大統領直接選挙制の導入などに至るわけです。その現場を肌で感じていたというのは、韓国政治研究を続ける原動力になっていますね。

 

──著書『ナショナリズムから見た韓国・北朝鮮近現代史』(講談社)では、韓国朝鮮が「国際政治の縮図」であり、一国史がそのまま「東アジア国際関係史」を意味するとしています

 

 民主化を経て外交史料の公開が進んだことによって、韓国の外交史料を使えるようになり、韓国の視点から朝鮮半島を取り巻く国際関係を実証的に研究することが可能となったことが一つにはあります。それにより、従来の大国中心的な冷戦解釈とは異なる、「周辺」から見た冷戦史や東アジア国際関係史に注目していきました。韓国・朝鮮半島から見れば、日本の植民地支配を脱した直後に、米国とソ連・中国との対立関係に強く巻き込まれていくわけです。

 

 

木宮正史『ナショナリズムから見た韓国・北朝鮮近現
代史』、講談社、税込み2420 円

 

──研究の今後の展望について教えてください

 

 北朝鮮を含めた朝鮮半島の政治研究を通して、政治学全体への何らかの貢献ができないかと思い、現在執筆を行っています。それが終わった後は、50年代から今日までの現代史を通して、朝鮮半島に視座を置きつつ、東アジア国際関係史全体を実証的に捉え直す仕事をしたいと思っています。

 

──韓国研究を志す学生にメッセージをお願いします

 

 日本にとって韓国や朝鮮半島は依然として重要ですが、最近、その認識が薄れているように感じています。日本と韓国が同じような国力で、似たような水準を持つという状況において、両国の比較は今後より一層有望な分野だろうというふうに思います。

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