インタビュー

2015年11月15日

テレビキャスター、草野仁さんインタビュー 努力重ね、謙虚に学べ

テレビキャスターとして第一線で活躍する草野仁さんは東大の卒業生。文学部で社会学を専攻し、一つの「良」を除き、残りは全て「優」という輝かしい成績を収めて首席で卒業した。草野さんはどんな東大生だったのか話を聞いた。(取材・福岡龍一郎 撮影・横井一隆)  

 

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自由な大学生活

 

 ――どのような経緯で、東大受験を志したのですか

  高校時代は、運動をするのが大好きな学生でした。中学生の時には、100メートル走で長崎県1位。高校でも陸上部の練習に打ち込む毎日です。将来は全日本クラスの選手になりたいな、とぼんやり考えていました。   そんな私にある日突然、父が言うのです。「お前は精神的にもろいから運動で大成はせんだろう。それにスポーツマンとしての人生は短い。腰を据えて、しっかり勉強しろ!」。そして勝手に退部届を出してしまった(笑)。今にして思えば、父は私の将来を真剣に案じてくれたのだと分かりますが、当時の私としては、たまったものじゃありませんね。   兄2人がどちらも東大生でしたから、一応私も東大を目指すことになりました。しかし、いかんせん勉強に身が入らない。結局そのまま不合格です。当時、合格発表は駒場キャンパスのバレーコートで行われました。不合格者の涙が他人に見られてはかわいそうだという配慮のためでしょうか、番号は決まって辺りの暗い夜に発表されます。私の番号がない、と分かった時は自然と悔し涙があふれ出てきました。もっと勉強がしたい、と浪人を決意し、1年間勉強に励みました。

 

――無事、文Ⅲに合格します。当時の大学はどんな様子でしたか

  上京したころは、日米安保条約改定に絡む闘争の影響で、政治的雰囲気が色濃く、学生運動が盛んでした。自分で言うのも変ですが、九州の田舎で育った私はピュアだった(笑)。学生運動に参加する人は、世界を良くしようと本気で努力していると思っていました。友達に誘われ、会合にも行ってみました。するとどうでしょう、隣に座っていた学生たちがいきなり殴り合いの乱闘を始めるのです。何も知らない私は無鉄砲にも「どうしたんですか!」と慌てて仲介に入ります。いや、実にピュアですね(笑)。後から聞いた話では、勢力争いをする派閥間で起きた、いざこざだったらしい。そのようにして徐々に学生運動の実態を知るにつれ、私は幻滅しました。なんだ、彼らのやっていることは世界を良くすることとは全然違うじゃないか、と。結局、学生運動には参加せず黙々と勉学に励むことにしました。

――常に最前列中央で授業に出ていた話は有名です

授業はとにかく全て出席するよう努めました。先生の話を聞くことが苦ではなかった。周りの友人は「あの先生の話は退屈だ」とよく愚痴をこぼしていましたけど。今でもそういう話はするんでしょう(笑)。 大学の先生は学生より知見の深い方ばかりですから、少しでも彼らから学び取ろうとすると、自然と知識が頭に定着していきました。だから試験前はノートを見返す程度で、試験対策用の勉強はしなくて良かった。余った時間は上智大学にいたガールフレンドと映画やコンサートを観に行きました。我ながら、優雅な大学生だったんですね(笑)。  

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周囲の期待で成長

 

  ――来る11月21~23日に駒場祭が開催されます

当時の駒場祭は今よりもずっと政治色が強かった。「平和観念の死滅を救え」などが当時の公式テーマでした。駒場祭の思い出か、うーん、あまり覚えていないんですよ。社会学に熱中していた本郷での学生生活の方がよく覚えている。今振り返ると、授業の勉強や遊び以外に、自分が興味のあることをもっと自由に掘り下げればよかったな、と思います。今から大学生に戻れるなら、昔の政治家の人物研究をしてみたいですね。

 

  ――現在は人気番組「日立 世界ふしぎ発見!」で司会を務めています

「日立 世界ふしぎ発見!」での私の大きな役割は二つです。一つ目は番組内でクイズのヒントを出すこと。簡単なヒントばかりでは面白くありません。解答者の中の誰か一人だけがヒントの意図をくみ取り、正解にたどりつけるような際どいヒントがいい。大抵、レギュラー解答者の野々村真くんは「こんなの分かんないよ」とぶうぶう不平を言っていますが(笑)。二つ目はゲストの皆さんから内容豊かなトークを引き出すことです。これがなかなか難しい。私も可能な限りその日の番組のテーマを予習し、幅広い話題に対応できるよう努めています。

 

――他人と上手にコミュニケーションをとる秘訣とは

折に触れて自分の話し方、伝え方を再考してみることです。どう伝えるのが一番効果的だろうか、何で彼の話は分かりやすいんだろう。気になったら、一度立ち止まりよく考えてみる。この積み重ねが大切です。家族や友人と話をする時、少し注意をしてみてください。毎日の意識が変わるだけで、話し方はずいぶん上達するものですよ。

 

――東大卒という経歴は現在の仕事にどんな影響を及ぼしていますか

やはり周囲のスタッフ、視聴者の方から無言の期待を受けることはあります。難しい仕事でもきちんとこなすだろう、と。時としてそれは大きなプレッシャーにもなる。そんな時は努力を重ね、期待に応え続けることが一番だと考えています。周囲の期待は私の成長を促す起爆剤になるのだから、ありがたいことです。 東大生の皆さんに伝えたいことは「謙虚であれ」ということ。60年前に父に言われた「東大生ということを自ら口にするな」という戒めは今でも胸に残っています。威張ることなく、そして自分を卑下することもなく、目の前の相手と真摯(しんし)に向き合う姿勢を忘れないでください。  

 


  草野仁(くさのひとし)さん(テレビキャスター) 67年文学部卒。同年、NHK入局。ロサンゼルスオリンピック総合司会をはじめスポーツアナウンサーとして活躍。85年フリーのキャスター。現在は「日立 世界ふしぎ発見!」(TBS)などを司会。   この記事は、2015年11月10日号(駒場祭特集号)からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。   2618_12_11pop

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