インタビュー

2020年11月18日

【東大×博報堂の特任教授に聞く】「考える力」は今後どう求められるか 

宮澤 正憲(みやざわ まさのり)特任教授(東京大学教養学部附属教養教育高度化機構) 90年東大文学部卒。01年米ノースウェスタン大学でMBA取得。11年より現職。博報堂ブランド・イノベーションデザイン代表を兼務。

 

 博報堂ブランド・イノベーションデザイン代表を務める宮澤正憲特任教授(東大教養学部附属教養教育高度化機構)。東大卒業後は、ブランドデザインの最前線で働く一方、ブランドデザインの手法を体験できる授業「ブランドデザインスタジオ」も立ち上げた。宮澤特任教授に、現在の仕事や駒場祭の思い出などについて話を聞いた。(取材・森永志歩)

 

良い面を伸ばすのがセオリー

 

  ブランドデザインとはどのような仕事ですか

 

 基本的には企業や行政から「ブランドを作りたい」などの相談を受けて、アイデアやビジネスを考える仕事です。この仕事はさまざまな視点から物事を見る必要があるので、僕一人だけではできません。多くの人の知恵を借りながら、魅力的なブランドや商品を作ります。

 

  ブランドデザインのどのような点に魅力を感じますか

 

 クライアントは企業から行政までさまざまで、多様な人の仕事に関わることができます。仕事内容も、論理的に進めていくものもあればデザインなどの美的感覚が求められるものもあり、幅広いです。飽き性の僕にとっては、常に新しい刺激があって飽きないことが、この仕事の最大の魅力ですね。

 

  では苦労する点は

 

 苦労はあまりない気がします。ブランドデザインは個性を作る仕事でもあるため、悪い面はあまり気にせずに良い面を伸ばすのが鉄則です。つらいときも「何かいいことがあるのではないか」と、ポジティブに考える癖がついていますね。一種の職業病かもしれません。

 

  広告業界は多忙な印象がありますが、忙しさは特に苦にならないのですか

 

 確かに、ブランドデザインの世界は決まったゴールがないので、企画のアイデアが次々見つかり、最高の出来を追求すると自然と時間がかかってしまいます。しかし、僕自身は全く苦ではないです。例えると、文化祭前の感じ。文化祭前は徹夜で準備する人がいますが、嫌で徹夜しているわけじゃない。マインドとしては趣味に熱中するのとあまり変わりませんね。

 

  昨今のコロナ禍で、仕事はどのような影響を受けていますか

 

 リモートワークが増えましたが、働き方が変化しただけで仕事の中身は本質的には変わっていません。

 

 移動時間の削減や大人数の会議の効率化など、リモートワークには利点もあると思います。しかし、ちょっとした立ち話やアイデア出しの作業は、この方法だとやりづらいです。オンラインで試行錯誤はしていますが、対面時の再現率は6〜7割という感じですね。

 

大学時代に「無駄力」身に付けて

 

  「文化祭前の感じ」という例えを出していましたが、駒場祭での思い出はありますか

 

 大学2年のときにスキーのサークルを立ち上げ、模擬店を駒場祭で出しました。模擬店はサークルの結束を強めるイベントとして良かったと思います。このサークルは今でも活動中で、駒場祭でも毎年模擬店を出しているので、駒場祭に行った際は顔を出して現役のメンバーと話しています。その意味で、駒場祭の模擬店は文化の継続を実感する場でもあります。

 

 また、当時は文Ⅲのクラスが駒場祭で劇をやる文化があり「文Ⅲ劇場」と呼ばれていました。文Ⅲ9組仏語クラス(当時)だった僕も駒場寮(現在は廃寮)の中にあった駒場小劇場でアングラ劇をしました。今ではなくなったみたいで残念ですが、「文Ⅲ劇場」は東大生になったことを実感した出来事の一つです。

 

  後期課程では、文学部に進学し、心理学を専攻しました

 

 心理学は現在の仕事に生きていますね。ブランドデザインとは対象をいかに魅力的と思わせるかの作業であり、究極的には心理学だからです。実際、心理学で使う調査、実験手法のうち、マーケティングに応用されているものは多いです。仕事の中で「これ学生時代にやった実験だ」となることもしばしば。仕事を始めてから心理学の重要性を再認識して、再び心理学を独学で勉強しました。

 

  2011年から東大の特任教授を務めていますが、なぜ東大で授業をすることになったのでしょうか

 

 21KOMCEEが建造されたとき、何か新しいタイプの授業をしたいという東大側の意向で声を掛けてもらいました。ブランドの作り方やイノベーションの手法についての授業を実施したところ評判が良く、現在で20回目を迎えています。現役会社員の特任教授は多くないと思うので、ビジネスの現場をなるべく伝えたいと思っています。

 

  授業の雰囲気は

 

 文理、学年を問わず参加でき、外部から社会人や芸大生も呼んでいます。「正解のない問いに、共に挑む。」をテーマに、グループディスカッションを重ねてブランドデザインの過程をなるべく再現しています。

 

  17年には『東大教養学部「考える力」の教室』という形で授業内容を書籍化しました

 

 「考える力」がどの時代でも大事なのは確かですが、今後は「考える」タイプが変化していくと思います。専門知識の暗記や正解を素早く求めることはAIなどの方が上手なので、人間でしかできないゼロからの思考や共創力の重要性が高まっていくでしょう。

 

  東大生にメッセージをお願いします

 

 大半のことは社会に出てからできるので、「将来を見据えてこれをすべき」と焦り、目的に向かってだけのために大学生活を過ごすのはもったいないと思います。何が良い経験になるかは分かりません。活躍している東大生には、能力以外にも、一見無駄なことを多く経験している「無駄力」の高い人が多い気がします。大学時代に「無駄力」を身に付けることで、東大生はより価値が出るのではないでしょうか。

 

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