学術

2021年9月24日

【研究室散歩】@社会戦略工学 茂木源人教授 持続可能エネルギーシステム構築を目指して 

 

既存の枠にとらわれない研究の在り方

 

 「持続可能なエネルギーシステムの構築」を軸に、環境破壊やエネルギー・資源の浪費、南北格差など複雑かつ地球規模の問題の解決に取り組むのが茂木源人教授(東大大学院工学系研究科)だ。

 

 茂木研究室のユニークな点は世界規模のエネルギーシステムの構築からブロックチェーン、ヘルスケア、スポーツビジネスに至るまで幅広い分野を扱っていること。そこには現在茂木教授が運営に携わる「太陽光を機軸とした持続可能グローバルエネルギーシステム(GS+I)」「MbSC2030」「ブロックチェーンイノベーション」という三つの寄付講座(図)が関係している。

 

 

 研究室では、多変量解析や統計解析、データサイエンスなどを用いて、エネルギー・資源分野に加えて、これらの寄付講座のプロジェクトの一端に関わることができる。このことが、学生が幅広い分野から取り組みたいテーマを選択することを可能としている。「モチベーションにつながるので、研究テーマは自分で決めることを重視しています。この研究室にはいろいろな引き出しがあるので、どこかしらには学生の興味に引っかかるものがあるんじゃないのと楽観的に思っています(笑)」。最近では、コロナ禍前後の欧州主要サッカーリーグの全試合のトラッキングデータを用いて、観客の有無による選手のパフォーマンス変化の定量評価に取り組んだ学生や、VRを用いた看板広告の価値評価に取り組んだ学生もいたという。

 

集光型太陽光発電装置(CPV)

 

軸はエネルギー、そして幅広く

 

世界最大の銅生産量を持つ、チリのEscondida

 

 茂木教授は、東大工学部資源開発工学科(当時)出身。エネルギー・資源分野の中でも、金属鉱山、石油・天然ガス、地熱などの資源開発を専門としていた。卒業後、民間企業を経て東大に戻り、以後はアカデミアの道を歩んでいる。

 

 主にエネルギー・資源開発に関する研究をしていたが、転機となったのがミネラルエコノミクス(資源経済)の研究に手を広げたこと。経済学やプロジェクト評価、金融工学、ブロックチェーンなども扱うようになり、世界が広がったと茂木教授は語る。「大学の魅力は目先の利益にとらわれなくて良いこと。長期的な視点で社会の利益になることを考えられます」

 

 ブロックチェーンはエネルギー・資源分野と関係がないようにも思える。しかし現在、ブロックチェーンにおけるマイニング(注:コンピューターの計算能力を用いて与えられた問題を解き、仮想通貨の取引記録をブロックチェーンに記入すること)に膨大なエネルギーが必要となっていることが大きな問題に。「エネルギーが関わると守備範囲です。というのと実際に(鉱山で)マイニングやっていたしという親父ギャグもあります(笑)」

 

 ブロックチェーンはエネルギーをそのまま価値に変換できるという革新的な特長がある。「例えば、宇宙で効率の良い太陽光発電をしても、発電した電力を地上に送るには技術的課題があります。しかし、そのエネルギーを用いて生成した『データ』は送ることができます。つまり、価値を簡単に送ることができるというのもブロックチェーンの素晴らしいところです」

 

神社方式!? 卒業生の幸せをひたすら願う

 

留学生を対象とした日本文化体験ツアー

 

 茂木研究室の研究費は、ほぼ全て寄付によって賄われている。しかし、企業から寄付を受けるためには、それなりの価値を提供する必要がある。ある意味で国の科学研究費補助金を獲得するよりもシビアだが、卒業生がいろいろな話を持ち寄ってくれることも多いという。「卒業生のおかげです。神社方式と言ってますが、卒業生の幸せをひたすら祈ってお布施を頂いているという境地に達しました(笑)」

 

 研究室運営では多様性を重視することを心掛けている。「個人的な好みで学生を採ると偏るので、あえて口を出さないようにしています。研究室に来るべくして来る人を選ぶ。神様が教えてくれる感じです」。多様性ある研究室のメリットとして、自己評価がしやすくなることを挙げる。人間には相対評価しかできないため、比べる軸の次元が多いほど客観的に自己評価ができる。このことは本人にとっても幸せなことだという。

 

 研究室の雰囲気は良いと語る。「特に、誠実な学生が多いような印象を受けます」。卒業生は投資銀行などの金融業界やコンサルティングファーム、ベンチャー企業に行く人が多いという。「ファーストキャリアは金融やコンサルでも、最終的にはみんな自分がやりたいことを見つけて起業するんでしょう、という目で見ています」

 

感動を忘れるな!

 

 キャリアで迷う東大生は多い。大学院の講義では「マネーがない超近代社会はどのように機能するか」というレポートを毎年課している。お金という制約条件がなければ本当にやりたいことが見えてくるのではないか、と語る。「本当にやりたいことを見つけてから現実に当てはめてキャリアパスを考える方が学生にとって良いのではないかと考えています」

 

 東大生には「とにかく感動しろ」と話す。いろいろなことを見たり経験したりする中で、表面を浅く見るのではなくしっかり経験することを重視する。「20代の経験がその後の人生を決めます。年をとるにつれて感性は硬化してしまう。時間が濃いと感じるのは感動したから。いかにフレッシュな気持ちで常に感動できるかがとても大事です」(友清雄太)

 

茂木源人(もぎ・げんと)教授(東京大学大学院工学系研究科)
82年、東大工学部資源開発工学科(当時)卒。工学博士。日本鉱業(現・ENEOS)、東大大学院工学系研究科助教授(当時)などを経て2019年より現職。

 

【記事修正】2021年9月25日午後1時7分 記事タイトルを修正しました。

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