硬式野球部(東京六大学野球)は10月4日、慶大との1回戦を戦い、3-6で勝利した。先発投手・松本慎之介(理Ⅱ・2年)が5回1/3を2失点と好投し、打撃陣も捕手・明石健(農・3年)の3安打4打点を筆頭に慶大投手陣から6点を奪った。(取材・撮影 吉野祥生、吉田直記)
慶大 100001001|3
東大 00050001X|6
慶大と激突 序盤は1点を追う展開に
これまで第1週に早大、第2週に明大と戦って0勝4敗と未だ勝利がない東大。空き週を挟んで第4週の対戦相手は慶大だ。カードで先に2勝した大学に勝ち点が与えられるリーグ戦では、カード初戦が重要な意味を持つ。慶大もここまで1勝4敗1分、勝ち点0と苦しんでいるため、東大対慶大の1回戦は互いに譲れない試合になった。
1回表、慶大の攻撃。小雨が降りしきる中で東大の先発・松本慎之介がマウンドに上がった。慶大はその松本の立ち上がりを攻め立てる。1番・今津慶介が中前打で出塁すると、2番・吉野太陽には送りバントを決められ1死二塁と得点圏に走者を進められてしまう。2死三塁となり、迎えるは4番・常松広太郎。長打も警戒される常松の打球はサード前へのボテボテの当たりとなった。降り続く雨も影響したのかこれが難しい打球となり、三塁手・青貝尚柾(育・4年)の懸命な一塁送球は常松の気迫のヘッドスライディングに少しだけ遅れた。記録は内野安打となり、三塁走者が本塁に生還して東大は1点を先制されてしまう。

3回裏、東大の攻撃。これまで三者凡退が続いていた東大に初めてのヒットが生まれる。この回の先頭打者は、早大戦で死球を受けて骨折した正捕手・杉浦海大(法・4年)の代わりにマスクをかぶった7番・明石。明大戦で二度も二盗を刺すなど守備面で貢献していた捕手・明石は、慶大の先発・渡辺和大からライトへのクリーンヒットを放ち攻撃面でも存在感を見せる。

4回表も東大の先発・松本は慶大に追加点を許さない。慶大の4番、5番から連続三振を奪うと、続く6番・林純司からも三振を奪う。しかし三振の際に捕手・明石がボールを見失い、その間にバッターは振り逃げで1塁へ。三者連続三振を奪いながらも2死一塁となる珍しい状況だったが、松本は後続をしっかり抑え、1-0のまま打線の援護を待つ。

4回に東大打線が爆発 ビッグイニングに
4回裏、東大の怒涛の反撃が始まる。先頭の2番・樋口航介(理Ⅰ・2年)が左前安打で出塁すると3番・中山太陽(経・4年)も右前安打を放ち、無死一、三塁の好機に。そして4番・大原海輝(文・4年)の打席では初球に一塁走者・中山が二盗を成功。慶大の投手・渡辺和大は左投手で一塁走者は盗塁しにくいとされるが、東大の積極果敢な作戦が見事にはまった。内野応援席から大声援がグラウンドに響き渡り、東大に流れが傾いていく。たまらず慶大の堀井監督はタイムを取り、自らマウンドに向かって選手たちを落ち着かせようとするが、一度傾いた流れを取り戻すことはできない。この状況で4番・大原は冷静に四球を選び、無死満塁とさらにチャンスを広げた。続く5番・荒井慶斗(文Ⅲ・2年)は三振に倒れたが、6番・青貝が死球をもらい、押し出しで待望の1点をもぎとった。

これで1-1の同点となり、なおも1死満塁。打席には先ほどチーム初安打を放った7番・明石が立つ。慶大の左腕・渡辺和の投じる140km/h超の速球にもいち早く対応してみせた明石はこの打席でも非凡な打撃センスを発揮し、鋭く打ち返した打球はライトの頭上を抜ける走者一掃の適時二塁打となった。これで東大は一挙に3点を追加して1-4となり、外野から本塁への送球間に明石は三塁へと進塁し、1死三塁とチャンスを続けた。

続く打席は、これまで好投を続けている8番・松本。左打ちの松本が引っ張った打球はファースト強襲の強いゴロとなり、捕球によって体勢が崩れた一塁手は本塁に送球できず。この一塁ゴロの間に三塁走者の明石は本塁へと生還し、東大は貴重な1点を追加して1-5と慶大を突き放した。
なお、この回で慶大の先発・渡辺和は降板。4回5失点でマウンドを降りた。春季リーグ戦では東大打線を9回1安打で完封しノーヒットノーラン寸前まで追い込んだ投手・渡辺和をここまで攻略できたのは、選手の成長はもちろんのこと、東大野球部の頭脳として知られるアナリストの緻密な分析力があってのことだろう。

6回に1死満塁の大ピンチを迎えるも1失点で切り抜ける
6回表、慶大の攻撃。先頭の常松に対して東大は一二塁間を広く空ける代わりに三遊間を締めるシフトを敷き、引っ張り傾向のある右打者・常松にプレッシャーを与える。投手・松本も気迫のこもった投球で常松から三振を奪った。しかし松本慎はこの時点で球数が100球に迫っており、続く八木陽にストレートの四球を与えたところで降板し、佐伯豪栄(工・3年)にマウンドを託した。雨天の中、安定した投球をして試合を作った松本慎に東大応援席から大きな拍手が送られた。

1死一塁でマウンドを託された佐伯だが、6番・林純司にライト線へ二塁打を打たれると、7番・竹田一遥には四球を与え、1死満塁にしてしまう。続く8番・吉開鉄朗には一度もストライクを取ることができず押し出しの四球となり、慶大に1点を返されスコアは2-5に。ここで東大は佐伯から江口直希(工・3年)に投手交代。1死満塁とプレッシャーのかかる場面に急遽登板した江口だったが、代打・小山春をファーストフライ、1番・今津慶介をショートゴロに打ち取る見事なピッチングを見せ、この大ピンチをしのいだ。江口は7回も無失点に抑えて、勝利の糸を手繰り寄せた。

8回からエース・渡辺向輝が登板 東大は総力戦の態勢へ
8回表のマウンドにはエース・渡辺向輝(農・4年)が上がり、東大応援席からどよめきが起こる。東大の勝利への強い意志がうかがえる継投だ。渡辺向はエースらしい落ち着いた投球でこの回を抑え、いよいよ東大の勝利が現実味を帯びてくる。

8回裏、東大の攻撃。途中出場で4番に入った伊藤滉一郎(工・3年)が右翼線への二塁打を放ち1死二塁になると、5番・榎本吉伸(文・4年)のファーストゴロの間に2死三塁に。6番・青貝はバントの構えを見せるなど揺さぶりをかけて四球を選び、2死一、三塁とチャンスを広げる。この状況で打席に入るのはこれまで2安打と活躍している7番・明石。打席中に一塁走者・青貝が二盗を決めて2死二、三塁とさらに期待が高まる中、明石はレフトの前に落ちるヒットを放った。この当たりで本塁に突入した二塁走者はタッチアウトとなったものの、東大はダメ押しの1点を追加し、2-6というスコアで最終回へ。

1年ぶりのリーグ戦勝利 喜びを分かち合う
9回表、慶大の攻撃。マウンドには8回に続きエース・渡辺向が立つ。4点リードの状況だったが、先頭の2番・渡辺憩にはレフトスタンドへのソロホームランを浴び、点差は3点に。慶大の底力を感じさせる一発だったが、続く3番はセカンドゴロに打ち取り、1死走者無しで迎えるは4番・常松。この頃には勝利の瞬間を間近で見ようと、多くの観客がバックネット裏や内野席前方に集まっていた。ナイター照明に照らされた雨のグラウンドや最終局面を迎えた試合展開も相まって、場内は幻想的な熱気に包まれる。4番・常松の打球は二塁ベース付近への弱いライナーとなり、センター前に抜けるかと思われたが、ショート・樋口がこれをダイビングキャッチ。ここ一番でのファインプレーに観客席は大きく沸いた。

「あと一人」の状況で、エース・渡辺向の投じる一球ごとに応援席から熱い声援が飛ぶ。そしてついに渡辺向が最後のバッターをセカンドゴロに打ち取ると、東大に約1年ぶりとなるリーグ戦勝利がもたらされた。グラウンドでは選手たちが抱き合って喜びを分かち合い、久しぶりの白星に笑顔が広がった。東大が東京六大学野球リーグ戦で勝利するのは24年10月13日の法大戦以来、約1年ぶりで、連敗を17で止めた。また、カードの1回戦で勝利するのは、22年9月17日の慶大戦以来の約3年ぶりである。先発した松本は5回1/3を投げて4安打5奪三振2失点の好投で勝利投手となり、これが東京六大学リーグ戦における自身初勝利となった。

