2025年は終戦から80年の節目。戦争の当時を語る人々は減り、「当時」は遠い存在となりつつある。
1944年7月から46年4月の間、全国の学生新聞は『大学新聞』に一本化され、本紙の前身『帝国大学新聞』の編集部が編集を主に担っていた。『帝国大学新聞』は当局による検閲を受けつつも、出征中の大学生や大学教授が署名付きで記事を寄稿するなど、戦時の様子を現代にまでつぶさに伝える。
今回は、1945年7月1日発行の『大学新聞』より「社説 沖縄の悲報に接して訴う」を転載する。記事を通して「当時」について考えるきっかけにしてほしい。(改行及び旧字体の変換を含む)
社説 沖縄の悲報に接して訴う
長恨千載に尽きず我等一億国民全て悲憤の情をとどめ得ないのである。今沖縄の悲報に接して再び我等の胸に燃え上がるは唯々報仇の一念である。痛恨の情を抑え眼を閉じて過去三箇月に亘る沖縄の戦線を想う秋浮ぶはあの限りなき闘魂以て醜敵めがけ体当りした若き神々の姿であり阿修羅の如く斬り込み行く地上部隊の将兵の姿であり、又沖縄同胞の逞しき協力の姿である。それは誠に神の姿であり我に血を以て尊い教訓と限りない勇猛心を振起せしむるものがある。
今や本土決戦は文字通り皇国護持の堅き信念と力強き実践を要請している。我々はこの際今一度今次大東亜戦の必然性とその性格を反省し現在の厳しい現実を直視すべきである。そこに宣戦の大詔を奉戴して世界維新の大道を顕現せんとする我が大和民族に課せられた重責と光栄ある使命を痛感すると共に今日こそ大目的達成の絶好の機なるを想うのである。阿南陸相は本土決戦に対する必勝の態勢を確言した。もとより我々は皇軍に絶対の信頼を捧げると共に国民は生産の職域において国民義勇隊となり時に戦闘隊となって唯一筋に醜夷撃滅に邁進するのみである。この際頼るのは自己の信念と力である。甘い妥協や他力本願的な考えに陥るとすれば既に敵の謀略に陥ったものといわねばならない。近くは独逸の例を、さらに伊太利の悲劇を見よ、国民自から招いた悲惨な運命を彼等は何に向って救いを求め得るか。今次の大東亜戦は寸毫の妥協や悲鳴は許されぬのだ。もとより沖縄の今日の状態は我に今後一段の苦悩を与える事は誰人も否定し得ぬ処ではあるがこの苦しみは明るい光明を持った苦しみなる事は誰人もまた知る処である。云い古された言葉であるが我の苦しき時こそ敵もまた苦しんでいるのである。まして長い航程を必要とする敵の補給難は沖縄の相つぐ我特攻によって戦史に未だ見ざる底の多数の船舶を喪失し敵も悲鳴を挙げる程の人的出血を強要した今日愈顕著なるものがあるにおいてをやである。
我々は現に泰然自若平常心を以て生産に敢闘する国民の姿に接して誰か国内体制磐石たりの感を抱かざるものがあろうか。学徒はその国民の中核であり国内生産、防衛の支柱たる事は今更喋々するまでもない。諸君は今や悲憤と復仇の一念に燃えて只管生産に防衛に敢闘している。今は諸君に何をなすべきかという問いは無用である。なすべき事は余りにも明である。今はその生産面に若き学魂を一層振起せしめ冷静に而も底に激しい熱情を込めて全身全霊を捧げて敢闘する事のみである。諸君の戦いは今をおいてないのである。而して沖縄の悲報を機に今後敵は思想謀略に拍車する事であろう然し諸君は絶対必勝の信念のもと思想戦の尖兵として敵の思想謀略の打破を身を以て顕示せよ、其事は決して喬奇な態度を必要としない、飽くまで国民の規範たるべく必勝生産に更に日常生活に最も良き学徒たるの本領を発揮する事によって自ら国民に必勝の規範たり得るのである。もし国民の中に逃避的或は現実回避せんとする傾向が一部でも惹起することあらんかその時は将に敵の思想謀略の機なのである。もとより我が国民は絶対かかる思想謀略にかかる杞憂はないが敵は沖縄以降笑止にもかかる思想謀略に乗り出す事は必至である、かかる場合その撃滅に学徒はまた重大な使命を担っているのである、学徒諸君は国民の中堅である、最も優れたる資質を持ち学徒の矜持と自信を有する限り国民の全ゆる面における規範たらねばならぬのである。
思想謀略については今更述べるまでもない、前に述べた如くこの大東亜戦は民族の興亡を賭けた国体護持の決戦でありそこには、断じて勝ち抜くの一事あるのみである。この勝ち抜く途を学徒は身を以て邁進し以てその規範たらねばならぬのである。我々は沖縄に善戦勇奮した学徒出身兵の赫々たる武勲を聞くにつけ絶対的に若人の憂国の至情に期待するものであり学徒出身将校が率先部下と共に敵陣へ斬込み行く姿を想う時、今日生産に敢闘する学徒諸君は又遠からず殉忠の至誠に燃え立って醜夷を撃滅するであろう事を思って祖国の重大関頭に立った今日諸君に課せられた使命は益々重大なるを痛感するのである。
学徒諸君、諸君はこの重責を更に猛省し皇国護持の絶対信念のもと学徒たるの本領を発揮せねばならぬ。「戦時教育令」の趣旨に則り学徒諸君は今こそ悲憤の生産突撃を敢行せよ、学徒の本領を発揮する時こそ今を措いてはないのである。