髙木亙助教(大気海洋研究所)らの研究グループは、サメ・エイ類が、約3億年の長い間維持された脊椎動物最古の性染色体を持ち、X染色体の本数が性決定に重要な役割を持つ可能性を明らかにした。成果は日本時間7月23日付で国際科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences USA (PNAS)』に掲載された。
性染色体は、脊椎動物の性決定に関わる仕組みの一つで、保持する染色体によって性が決定される。例えばヒトの性染色体にはX染色体とそれより小さなY染色体が存在し、Y染色体を持つと男性の身体が形成される。哺乳類や鳥類の性染色体はX,Y染色体のサイズが大きく異なる一方、多くの魚類ではサイズに差が見られないことから、性染色体は世代を経るにつれて徐々に小さくなる仮説が提唱されていたが、脊椎動物全体での性染色体の進化については未解明な部分が多かった。
今回の研究では、性決定の仕組みがほとんど調べられていなかった、サメやエイなどの軟骨魚類と呼ばれるグループに着目。最新のゲノム配列情報取得技術を用いて、イヌザメとトラザメの全ゲノム配列を作成した。近年公開されている他のサメ・エイ類の性染色体と比較した結果、サメ・エイ類のX染色体が共通の遺伝子のセットを持っていることが明らかになり、約3億年前に存在した共通祖先から変わらない、脊椎動物で最古の起源を持つ性染色体を持つことが示唆された。
また、イヌザメのY染色体の配列を調べたところ、Y染色体が持つ遺伝子数はX染色体に比べて極端に少ないことが分かった。さらにイヌザメの卵を採取し、オスとメスの違いが生じる時期の胚で働く遺伝子を調べたところ、Y染色体の遺伝子はほとんど使われていないことが判明。一方で、サメやエイ類では、X染色体の本数はメスで2本、オスで1本と異なるほか、他の脊椎動物で性を決定する遺伝子が見つからなかったことなどから、独自の仕組みによって性が決定される可能性が示唆された。
今回の研究によって、サメ・エイ類が脊椎動物で最古の性染色体を持ち、独自の性決定メカニズムを持つ可能性が明らかになった。今後は、脊椎動物全体の性決定のメカニズムの多様化や進化の道筋の解明が期待される。
論文情報
Niwa, T., Uno, Y., Ohishi, Y., Kadota, M., Aburatani, N., Kiyatake, I., … & Kuraku, S. (2025). Sharks and rays have the oldest vertebrate sex chromosome with unique sex determination mechanisms. Proceedings of the National Academy of SciencesUSA, 122(30), e2513676122.
DOI : 10.1073/pnas.2513676122