報道特集

2022年9月2日

【#進振りの未来】学生✖️教員の座談会で進学選択を考える @工学部都市工学科

 

 進学選択を改めて問い直す本企画「進振りの未来」。後編である今回は、一つの学科の中に二つのコースを持つ、工学部都市工学科を一例として取り上げ、学生・教員4人で進学選択について座談会を実施した。(取材・松崎文香)

 

【#進振りの未来 前編はこちら】

【#進振りの未来】必要な成績が低い進学先にはいきづらい?〜東大生にアンケート

 

参加者

 

 

写真左から

・春日郁朗(かすが・いくろう)准教授(東京大学先端科学技術研究センター) 05年東大大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。東大大学院工学系研究科准教授などを経て、22年より現職。環境系の授業を担当。

 

・渡邊莞爾(わたなべ・かんじ)さん 理Iから工学部都市工学科都市環境工学コース(環境系)に進学。3年生。

 

・柘植直子(つげ・なおこ)さん 理Ⅰから工学部都市工学科都市計画コース(計画系)に進学。3年生。

 

・村山顕人(むらやま・あきと)准教授(東京大学大学院工学系研究科) 04年東大大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。名古屋大学准教授などを経て、14年より現職。計画系の授業を担当。

 

進学選択制度、どう思う?

 

──進学先や専門はどのように選びましたか

 

柘植 「人間とその周りの環境との関係に興味がある」という軸はあったのですが、そのアプローチ方法で迷いました。言語、経済、文化、法律か……。最終的には触れることができる「もの」と人間の関係を学びたいと思い、都市工学科の都市計画コースに決めました。学問的な関心の他にも、理Ⅰから文転するとなると進学選択に必要な成績の面で不安が残るという理由も少しありました。

 

渡邊 元々環境問題に興味があり、環境を扱う進学先を調べるうちに都市工学科の都市環境工学コースを知りました。環境問題に限らず上下水道や水環境も扱っていることを知って、仮に将来環境問題が解決したとしても役立つことを学べると思い、第1志望として選択・進学しました。

 

村山 私も理Ⅰ出身で入学前は、工学部の航空宇宙工学科に行きたいと思っていました。しかし、いざ東大に入ると数学や物理が苦手になり……。また大学生になって運転免許を持ち、日本各地を旅行する中で、幼少期に住んでいたアメリカと比べ日本の都市は都市計画的な観点で貧弱だと感じるようになりました。地球温暖化などの環境問題が注目され始めたことも後押しし、もっと身の回りの都市環境について考えたいという気持ちから、都市工学科で都市計画を学ぶことに決めました。

 

春日 高校生の時から環境問題に興味はあったのですが、取り組むには何を学べば良いのかが分からず、ひとまず進振り(当時・進学振分け)がある東大に進学しました。駒場時代に授業を受ける中で、あまり悩まずに都市工学科に進学することを決めました。

 

 

──東大の進学選択制度についてどう思いますか

 

柘植 高校時代に専門を決めきれなかったので、進学選択制度に引かれて東大に進学しました。進学選択制度は評価していますが、それは私が駒場で2年間モラトリアムをやらせてもらった後、自分の行きたいところに進学できたからかなとも思います。入学以前からやりたいことがずっとあって、前期教養課程で向いていないことをやらなければならない、という人にはつらい制度だと感じられるかもしれません。私自身も、進学したい都市計画分野ではあまり必要のない数学や化学の成績が、進学選択における自身の点数に少なからず影響を与えることには少し疑問がありました。

 

渡邊 第1希望に進学できたからかもしれませんが、進学選択を肯定的に捉えています。私のように高校時代にやりたい分野が決まっていない人にとっては良い制度ですよね。一方でやりたいことが決まっている人にとっては、専門を深く学ぶのが2年生後半からになるのはデメリットだと思います。大学院に進学することを前提にカリキュラムを組んでいるように感じますね。

 

村山 私も肯定的です。制度がなければ今の専門を選んでいないでしょうし、入学後に幅広く学び、専門を冷静に考える機会があったのは私にとっては良かったと思います。もちろん前期教養課程の中で苦手な授業もありましたが、できないことを知れた点も含め、良い経験でした。教員としては、専門教育の期間が少ないので、焦っていろいろなことを詰め込もうとしてしまいがちではあります。ただ、大学院に進学する人が多いことを踏まえると、それほど無理はないカリキュラムなのかなと思います。学部卒で就職する学生には、もう少し都市計画を勉強してから社会で活躍してほしい、と少し残念に思う気持ちがありますね……。

 

春日 大学に入った後に、自分が取り組みたい課題や興味を改めて探したり、見直す機会を提供しているという点で良い制度だと思います。やはり学生時代は、自分の人生の中で自分のやりたいことに集中して時間を使える貴重な時期です。専門教育が遅くなるなどのデメリットはあっても、受験を終えて大学に入学してからじっくり何をやりたいのか考えることは重要だと思います。問題は、学生がやりたいことを見つけられるよう、大学や教員が発信できているかですね。

 

村山 あとは、都市計画を学びたいという熱意はすごくあるのに、なんらかの理由で成績が足りず進学できないという学生を見ると、救ってあげられたら良いのにと思いますね。海外大だと入試の段階で小論文や面接で選抜しているところもありますが、学生からすると一部の学生がそうした基準で進学できるとなったら不公平に感じるのかな。

 

渡邊 大学入試でも学校推薦型選抜が認められていますし、不公平には感じませんね。

 

村山 ただ導入するには教員側の負担も増えますね……。学科の定員も多くないので、どれくらいの人数を推薦で取るのかという問題も出てきます。

 

前期教養課程時代の「成績」と進学選択

 

──後期課程進学後に前期教養課程時代の成績を意識することはありますか

 

柘植 都市工学科の中ではないですね。ただ、他学部で進学に必要な成績がすごく高いところに所属する友人と話すとき、意識してしまうことはあります。

 

渡邊 進学後は全くないですね。進学に必要な成績に高い低いがあることは事実ですが、だからといって意識することはないです。

 

村山 教員としても、自分の学科やコースに来るのに必要な成績はそれほど気になりません。東日本大震災後に防災やインフラに注目が集まったように、学問分野にも流行り(はやり)はあります。

 

春日 私も進学後に前期教養課程の成績を気にすることはほとんどありません。どれだけのモチベーションをもって専門に取り組めるか、ということが進学後は大事ですね。

 

 

──「意欲的な学生は高い成績が必要な進学先に進む」という意見が一部で聞かれます。こうした意見があるとした場合、どのように思いますか

 

春日 意欲的な学生がある進学先を選び、結果的にその進学先で必要な成績が高くなっているのであれば健全なことだと思います。もし、点数が高いからという理由だけで選んでいる学生がいるのであれば、もったいないですね。専門を決める上では、自分が取り組みたいと思える社会の課題がうっすらとでもあるかが一番大切だと思います。点数が高いから行く・低いから行かないという選択の仕方は違うと思います。

 

村山 全く同じ意見です。私が学生の時代にも点数で選ぶ人はいましたが、やはり何をやりたいのかを考えてほしいです。成績や将来の選択肢を広げるためといった理由で進学すると、進学先のタフな課題に挫折してしまう場合もあると思います。

 

春日 ただ、やりたいことを自分で見つけることができる学生ばかりではないので、もう少し教員側が社会と学問分野の関係性をかみ砕いて伝えた方が良いのではと思うことがあります。また「全員やりたいことを見つけて進学しろ」と一律に押し付けるのも違う気がします。真逆のことを言うようですが、点数で決めた進学先で何かを見つけることもあるでしょうし。

 

渡邊 何かで社会に貢献したいという気持ちはあるものの、何をすれば良いのか分からないから成績の高い人気な進学先を選ぶ、というのもあるのかもしれませんね。

 

村山 人気≒今社会で求められている分野、だったりしますよね。

 

春日 そもそも、点数を気にする学生がいるとしたら、なぜなのでしょうね。

 

柘植 点数が低い学科にいる人からは、その分野を勉強したくて進学した学生と点数が低いから仕方なく進んだ学生で、モチベーションに差があって大変だという話は聞きます。

 

村山 モチベーションに差があるのは点数が低い学科だけではないかもしれませんよ。あとは、社会に出たあとは個人間でモチベーションに差がある環境でも、チームとしてまとまって課題解決に取り組むことが求められるので、学生のうちからそうした環境でもうまく周囲と付き合うことを学ぶと良いと思います。

 

──最後に東大の学生に伝えたいことはありますか

 

村山 後期課程生に対しては、他の進学先と比較しても仕方がないのではと思います。第1志望の進学先ではなかったとしても、多少なりとも興味があって選んだ分野だと思うので行った先で頑張れば、それで良いのではないでしょうか。実際に社会で仕事をする際は、成績はもちろん、出身大学・出身学科による序列などはありません。それぞれの専門性を生かして、異なる分野が補い合いながら課題を解決することが重要です。本音を言えば「点数は気にするな」ですね(笑)。受験生にも同じことを言いたいですが。

 

春日 進学選択は人生の一つの決断であることに変わりはありませんが、進学先が決まった後もまだ方向性を変える機会はたくさんあるので、あまり思い詰める必要もないと思います。現在の人気の有無や進学選択に必要な成績が学科選択の全てではないことは共感してもらえると思います。であれば、少しでも自分の琴線に触れる学問を前期教養課程で見つけて、それを基に進学先を選んでほしいです。進学選択は、学科を通じて社会を見ることができる機会だと思います。自分は何を学び、社会のどのような部分にコミットするのかを考える時間というか。将来、社会にどのような立場で参加するのかという視点に立って進学先を考えられると良いですね。

 

村山 進学選択は、その入り口というかね。

 

春日 そうそう。ある学問分野が社会と実際にどういう関わりを持っているかは、学生の想像とはかなり違うと思いますよ。

 

村山 自分たちの分野が社会の中でどういう役割を果たしているかは、教員としてガイダンスでも強調します。なので、前期教養課程の学生はまず興味のある進学先のガイダンスに参加し、教員を捕まえて話を聞いたり研究室を訪問したりして、進学先を探ってほしいです。

 

 

【#進振りの未来 前編はこちら】

【#進振りの未来】必要な成績が低い進学先にはいきづらい?〜東大生にアンケート

 

【記事修正】2022年9月2日午後5時34分 名前の読み仮名を修正しました。

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