学術ニュース

2025年7月14日

新戦略の未来を読む品種改良

 岩田洋佳教授(東大大学院農学生命科学研究科)、津坂宜宏研究員(株式会社ツムラ)、白澤健太室長(かずさDNA研究所)らによる研究チームは、アカジソの将来世代のゲノムを確率的に予測することで効率的に高性能な個体を作り出す新しい改良方法を開発した。成果は6月20日付で科学誌『Theoretical and Applied Genetics』で発表された。

 

 長年、植物の改良は育種家の経験に基づいて行われてきた。しかし専門の育種家が少ないため改良が進んでいない植物種も多い。今回の研究の対象である薬用植物アカジソも専門家が存在しないため、従来の方法では十分な改良が難しい。また、単に個別の薬効成分を多く含む個体同士を交配させても子孫にその形質が伝わるとは限らない。

 

 今回の研究ではゲノム情報をもとに個体を選抜し交配を行う手法で、アカジソの二つの成分「ペリルアルデヒド」と「ロスマリン酸」の含有量を同時に強化することを目指した。研究チームは二つの戦略で育種を試みた。戦略1では現在世代の遺伝子に着目し、2成分の含有量に関わる優秀な遺伝子を持つ個体をそれぞれ選抜し、交配した。一方戦略2では将来世代の遺伝子に着目した。交配後に生まれると予測される子孫の遺伝子型をシミュレーションし、両成分を共に多く含む可能性の高い交配組み合わせを選択した。その結果戦略2において改良の程度が8〜18%高くなり、将来世代の能力に着目して交配を行うことが有効な手法であることが明らかになった(図)

戦略1のイメージ
現在世代に着目する従来の方法(上)と、将来世代に着目する新しい方法(下)のイメージ
戦略2のイメージ

 

 この手法はアカジソ以外の植物種にも応用可能だ。この研究によって、これまで改良が進まなかったために十分に利用されていなかった植物の利用が進み、植物を食用だけでなく、医療やエネルギー産生など多岐にわたる分野に用いる動きが促進されることが期待される。

 

論文情報

Kinoshita, S., Sakurai, K., Hamazaki, K. et al. Optimization of crossing strategy based on the usefulness criterion in interpopulation crosses considering different marker effects among populations. Theor Appl Genet 138, 155 (2025). https://doi.org/10.1007/s00122-025-04935-7

koushi-thumb-300xauto-242

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit


           
                             
TOPに戻る