学術ニュース

2019年5月2日

患部に薬届けるナノマシン開発

 片岡一則特任教授(未来ビジョン研究センター)と宮田完二郎准教授(工学系研究科)らは、がんなどの治療薬である核酸医薬を、代謝されてしまう前に疾患組織に届けるナノマシンの開発に成功した。膵臓がんや脳腫瘍などの難治がんへの新たな核酸医薬治療につながると期待される。成果は24日付の薬科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に掲載された。

 

 核酸医薬は、塩基配列に応じて特定の遺伝子の発現を調節可能。がんやアルツハイマー病などの、遺伝子変異に由来する難病に対する新しい治療薬として期待されている。しかし体内ではすぐに代謝されるため患部への到達効率が低く、十分な治療効果が得られない。核酸医薬の代謝を防ぎつつ運搬する物質も開発されているが、大き過ぎて患部に至るまでの間にある血管壁を通過できないなど、課題が残されていた。

 

 今回開発されたナノマシンは、血流中で核酸医薬と結合しつつ、他の体内物質との吸着を抑えることで、核酸医薬が代謝されるのを防ぐ。既存の拡散医薬運搬物質の約5分の1に小型化することにも成功し、血管壁などを通過できるようになった。

 

 自然発生の膵臓がんを持ったマウスや脳腫瘍を移植されたマウスを用いた実証実験では、核酸医薬が患部に集積する様子が確認され(図1)、延命効果も認められた。特に脳腫瘍マウスでは、全個体が生存した(図2)。今後は片岡特任教授らが設立したベンチャー企業で、実用化のための取り組みが引き続き進められる。

 

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