インタビュー

2014年11月15日

映画”ショート・ターム” 対談で明かされるクレットン監督の思い

11月7日、本郷キャンパス福武ラーニングシアターにてデスティン・クレットン監督の新作映画「ショート・ターム」の特別試写会が開催されました。

本日公開の「ショート・ターム」は、ティーンエイジャーをケアする短期保護施設”ショート・ターム”を舞台にした映画。ここで働くケアマネージャーや新人スタッフ、子供たちをめぐるドラマが、丁寧に描かれています。

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サウス・バイ・サウスウェスト映画祭2013でのワールドプレミア以降、世界中で36もの映画賞を受賞し、50の映画賞にノミネートされた本作は、実名レビュー評価サイトRotten Tomatoes(ロッテン・トマト)で満足度99%、2013年No.1の実績を記録し、名実共に史上最高の評価を得ているヒューマン・ドラマ映画の真骨頂と謳われます。
監督・脚本を務めたデスティン・クレットンは、その才能をオスカー女優ジェニファー・ローレンスに注目され、次回作はローレンスが主演、プロデューサーを務める”The Glass Castle(ガラスの城の子どもたち)”を監督すると報じられ、一気に注目が高まっています。

試写会には約90人の学生が参加

上映後のトークセッションには監督が登壇し、映画や児童養護施設について、児童福祉団体に携わる梶愛さんと対談。学生からのQ&Aにも丁寧に応えてくれました。

司会は東京大学新聞オンライン編集長の須田英太郎が務めました。
トークセッションの特別レポートをお送りします。なお、映画をご覧になっていない方への配慮として、ネタバレや話の核心部分に関わる発言は変更等させていただいております。ご了承ください。

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クレットン監督(左)と梶愛さん(右)

■児童養護施設での経験と映画「ショート・ターム」

司会:監督は以前、児童養護施設で働いていた経験をお持ちですね。その経験は、どういう風にこの作品作りに影響しましたか。

監督:大学を卒業してから最初に就いたのが児童養護施設のスタッフだったんだ。その頃の僕は、映画に登場する新人ソーシャルワーカーのネイト(ラミ・マレック)にかなり近かったと思うよ。大学ではコミュニケーションについて学んでいたけれど、心理学はよく知らなかったから、右も左も分からない状態でその世界に入っていった。すでに心に傷を持っている子供達と触れ合うことで、自分がさらに彼らを傷つけてしまうのではないかという恐怖はいつもあった。
けれど、2年間働いてみて、その経験は自分にとって最高のものとなったし、自分のこと、世界のことを知るきっかけにもなったよ。

梶さん:私も大学卒業後に児童養護施設で働き始めました。アメリカのグループホームと日本の児童養護施設は少し異なるとは思いますが…そこで保護されるのは、アメリカではほとんど青年ですが、日本では2歳の子供から、ということもあるので、違うところもたくさんあるとは思います。
私も新人職員だったとき、子供達の前でどう言葉を選んだらいいのか、プロの大人としてどういうスタンスでいればいいのか、悩んだ経験があります。

司会:ネイトが、冒頭のシーンで子供達のことを「可哀相」と発言してしまい、マーカス(キース・スタンフィード)に反発されるシーンがありましたが、そういった経験はありますか。

監督:特によく覚えているのは、仲良くできていると思っていた子供と普通に話していたら、僕が言った何かが彼の心に引っかかったらしくて、いきなり自分の部屋まで走って行って、プラスチックの椅子を持ってきて僕に向かって投げたんだ。それで、僕の隣にあった窓ガラスは割れてしまったよ。その時の緊張は忘れられない。

梶さん:もともと傷つきやすかったり、トラウマを抱えていたりするフォスターケアの子供達は、突発的に行動しやすいと言われています。

■「タコのニーナ」の物語が伝えてくれること

司会:作中、マーカスが歌うラップは、監督が作ったのでしょうか。韻を踏んでいて、とてもクールですね。

監督:マーカスを演じたキースは、とても才能のあるヒップホップ・アーティストなんだ。
だから、歌詞のラフな構想を彼に渡したら、彼があんなにクールなラップにしてくれた。

司会:キースは、スヌープ・ドッグというラッパーについての映画で主演を務めることが決まっていますね。

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© 2013 Short Term Holdings, LLC. All rights reserved.

グレイス(左:ブリー・ラーソン)とマーカス(右:キース・スタンフィールド)

梶さん:作中に出てくる「タコのニーナ」の物語が、子供の複雑な気持ちをよく伝えていて1番印象に残りました。

日本では、「虐待した親が悪である」という認識が強いのではないでしょうか。でもそれって、虐待に至ってしまう大人の視点を丸切り欠いてしまっていますよね。
諸外国だと、お母さんらが匿名で相談できるコールセンターがあるのですが、日本では虐待を通告した人を匿名にできるだけで、親側が相談しやすいとは言えない状況だと思います。タコのニーナの物語は、子供を施設に保護すれば万事オーケー、という認識を改めてくれる力を持っています。

保護されたことで家族の絆が切れる不安や、親へのアンビバレントな感情があるということが、タコのエピソードでうまく表されていると思います。

監督:ありがとう。

■キャスティングについて

司会:色々なキャラクターが出て来ましたが、俳優選びでの苦労やこだわりはありましたか。

監督:キャスティングが大変な作品でした。特に、若い俳優を決めるのはとても難しかった。というのも、若い時というのはつい自分のことばかりを考えてしまう傾向にあるからね。
けれど、今回出演してくれた俳優たちは、自分と全く違う境遇にいる子供達のことも思いやれる心を持っていたよ。虐待を受けたことのある俳優はいなかったけれど、それにも関わらず人の痛みを感じられる俳優たちが演じたからこそ、この映画は現実味のある作品に仕上がったんだと思う。

司会:自閉症のような行動を取るサミー(アレックス・キャロウェイ)の演技は、とても心に刺さるものがありました。

監督:サミーを演じたアレックスは、リアルではサミーと正反対の少年なんだ。もしもここにいたら、ジョークを言って笑わせたり、踊り出したりしているんじゃないかな。アレックスがサミーのキャラクターを理解しようと本当に努力しているのが伝わってきたよ。撮影現場で他のキャストとジョークを飛ばし合っていても、僕が「アクション」と言うと、すぐにサミーになりきって、殻の中に閉じこもることができるんだ。「ショート・ターム」が初めての映画出演にも関わらず、アレックスは本当に才能のある少年だったよ。

梶さん:映画を見ている時は、俳優たちが演技していることを忘れてしまうくらいでした。特にサミーは、本当に自閉症の少年が演じているのではないかと感じる程でしたから。

■日米のフォスターケアの違い

司会:「ショート・ターム」で出てくる児童養護施設は、日本の児童養護施設とどのような違いがあるでしょうか。

梶さん:「ショート・ターム」というタイトルに、日米の違いが凝縮されていますね。グループホームや里親制度は、アメリカではあくまで「一時的な場所(=ショート・ターム)」であるという意識が共有されています。働くスタッフも、里親も、裁判官もその意識を持っています。
日本は、施設に入ったらいつ出るかが分からない。一定年令に達するまで何年もいるかもしれないし、すぐに出てしまうかもしれない。日米のシステムや意識の違いが、如実に分かるタイトルですね。

司会:同じ「フォスターケア」でも、里親制度やグループホーム等様々な制度がありますよね。

監督:アメリカのフォスターケアのシステムについて説明しよう。アメリカでは、グループホームと呼ばれる「ショート・ターム」に出てくるような施設があるんだ。そこでは24時間人の目がある状態で過ごすことになる。そこにいる子供達は、心にとても深い傷を負っているからね。そしてそこである程度まで回復したら、フォスターファミリーという、作中ではメイソン(ジョン・ギャラガー・ジュニア)の両親のような人たちなんだけど、に引き取られるんだ。
フォスターファミリーは、いい人もいれば悪い人もいる。今回は、メイソンの両親のようないい例を取り上げることで、この制度のいい面を表現したかったんだ。

傷ついた子供を救う制度に、1つ大きな問題があるんだ。そこで働いている人たちに対する社会の目がまだまだ不十分だってことだよ。なぜかというと、そういった施設で働いているスタッフは本当にすごい人たちなんだ。たしかに、ハイスペックな人とか、革新的な技術を求める人が選ぶ仕事ではないかもしれない。最新の何かを発明するとかいった目を引く仕事ではないからこそ、そこを向く社会の目がまだ出来ていないよね。
僕から言わせれば、こういう仕事を選んで、児童養護施設で働くスタッフは、本当のヒーローだよ。子供と一緒に問題を解決していくという意味ではアーティストにもなれる。この映画がきっかけで社会の見方が少しでも変わるといいなと願っているんだ。

■「リアル」な映像はこう作られる

司会:それでは、Q&Aに移ります。ご質問のある方、挙手をお願いします。

学生O:映画を見ていて、全体のバランスが気になりました。どのようにこの児童養護施設を描くのだろうかと注目していたのですが、半分はドキュメンタリーのように、もう半分はよりドラマティックに描かれているように感じました。例えば、カメラがドキュメンタリー風に施設の中を動いて撮影していたり、一方で、主人公の2人のような、ドラマティックな場面があったりして…。
もっとドキュメンタリーよりに、または1人の個人に焦点を当てて彼女・彼のドラマをより深く描く書くこともできたと思うんです。今回の作品の中で、2つの両方のバランスをどのようにして決めたのか、教えていただけますか。

監督:「ショート・ターム」をドキュメンタリーにしようと思ったつもりはないよ。たしかに、手持ちのカメラを使ったし、照明もドキュメンタリー風になっていた。でもこれは、演技をする俳優たちに自由を与えたかったから、こういう手法を取った。大きなカメラが構えているせいで演技が抑えられるのを避け、よりリアルに演じてもらいたかったんだ。映画そのものは、完全にフィクションとして作られたものだよ。オープニングシーンを見ると分かると思うんだけど、ドキュメンタリーにしては偶然がうまく重なりすぎだよね。ドキュメンタリーとして観客をだますつもりはないよ。

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■様々なバックグラウンドを持つケアワーカー

学生K:監督は、「児童養護施設で働く人はヒーローだ」と仰っていましたね。僕もその意見に賛成です。お2人にお伺いしたいのですが、最初から児童養護施設に働こうとする人って、あまり僕の周りにはいないので、どうしてそういう場所で働こうと思ったのか、教えてください。作中に出て来たスタッフのグレイスとメイソンは、もともと家庭に困難があったけれどそれを乗り越えて育った人たちですよね。家庭環境に難がある人のほうが、児童養護施設で働くには向いているのでしょうか?

梶さん:私の母校では、教育困難校だったということもあるのですが、先生自身がソーシャルワーカー的な仕事をしてくれていたんです。給食費を払えない家庭の様子を見に行ったり、親のメンタルケア的なことをしたり…。そういう環境だったので、困難な環境にある子どもに携わりたいと考えた時に浮かんだ仕事が教師でした。それで、大学では教育格差について学びました。ですが、私は子どもの貧困や暴力の問題に近い現場に、との思いで、児童養護施設に務めることにしました。それが私の経緯ですが、多くの人に当てはまるかと言われるとそうではないかと思います。

民間で働いていて、問題を抱えている子供たちを救いたいと考えて転職する人もいますし、社会福祉士の免許を持っている人や、短大を出たばかりの保育士の方などもいるんですね。
ですから、それぞれだと思います。

困難を経験したことのある人のほうがソーシャルワーカーに向いているかどうかについては、向いている人もいるし、そうでない人もいます。ただ、施設を出た子供たちが将来大きくなった時に、自分たちがいたような施設で働きたいと希望するケースは割と多いです。

1番身近な人でもあるし、興味のあることで力になりたいというのは自然なことなのかな、と思います。

■”働く場所”としての児童養護施設

監督:児童養護施設に入った時、僕は「一時的」な仕事という意識で働き始めたんだ。悲しいことに、アメリカではこれが通常なんだよ。多くの人が4~6ヶ月くらいでそういった施設を去っていく。1年も働けば、もうベテランさ。僕は結果的に2年間働いたから、「随分長く働いたね」と言われた。

でもこれって、とても悲しいことじゃないかな。心に傷を抱えた子供達は、人生において自分の周りからどんどん人がいなくなっていくという経験をしなければならないんだよ。そばにいる人は、ずっと継続的に一緒にいてあげられる人の方がいいと思う。でも、実際問題こういった仕事は給料があまり良くないし、次の仕事のステップになるわけでもない。そこが、難しいポイントでもあるし社会で考えなければいけないことでもある。

梶さん:その問題に関してですが、東京都のそういった施設での平均の勤続年数は4年なんです。ですから1~2年働いたら中堅ですね。かなり過酷な労働もありますし、泊まり勤務もあります。そこは問題ですね。
さらに、日本では保護される子供がほとんどグループホームに行って、一部が里親に出されます。アメリカではその割合が逆だと思ってもらえれば分かりやすいかと。

里親さんの4割くらいは、自分の生物学的に血の繋がった子供を持っていますが、半分以上はいない方ですね。ですから、推測ですが、多くの方が不妊の経験を持っているのかもしれません。研修では、児童養護のためだという目的は何度も確認されますが、養子にすることを長期の目的に里親になる人もいます。

■「もし今ケアワーカーとして働き続けていても、きっと幸せだったと思う」

学生M:僕は児童養護施設に行って子供達と遊んだり勉強を教えたりという経験を中学生の頃からしていたので、「ショート・ターム」を興味深く鑑賞しました。素晴らしい映画でした。質問なのですが、この映画を作るに至った詳しい経緯を聞かせてもらえますか。また、僕は将来児童養護に関して厚生労働省で働きたいと考えているので、行政のシステムなどについて、思うことがあればぜひ参考にさせてください。

監督:僕はずっと映画制作者になりたかった。養護施設で働いた経験は、心の満たされる、重要なものになったよ。僕が児童養護施設をやめたのは映画学校に合格して、そこに行くことになったからなんだ。それから映画の勉強をした。もしも映画学校に行かないで、ずっとその施設で働いていたとしてもきっと幸せな生活を送っていたと思うよ。ただ、人生は何が起こるか分からないからね。違う方法ではあるけれど、こういう形で子供達の問題を伝えられたことについては良かったと考えているよ。

■虐待予防・インケア・アフターケアの連携

司会:行政のシステム等については梶さんお願いします。

梶さん:個人的な思いになりますが、虐待の予防とインケア(里親・施設にいる時)、アフターケア(施設を出たあと)の3つの対策がうまく調和していないな、という考えがあります。アメリカでは一貫した理念があって、Safety(安全) Permanency(安住) Well-Being(より良く生きる)という3つです。それで、保護する子どもの数もどんどん減らしていっているんです。家庭に適切に戻れるようにと。賛否はあると思いますが、とても明確です。
日本では、インケアとその後のアフターケアの連携が取れていないし、現場にいても理念が伝わってこない。そういうところがもどかしいです。自立していく子ども達に想いを伝えられない。そこを変えてもらえたら、嬉しいです。

司会:ありがとうございました。

―――――

トーク・イベントの後には、監督から、作中に出てくるイラスト入りトートバックと「タコのニーナ」の絵本が参加者2人に送られるなど、盛り上がる試写会となりました。
また、会場からは11月23日が誕生日の監督のために、作中に登場する”カップケーキ”がロウソク付きで登場するサプライズもあり、デスティン・クレットンも大喜び。

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参加した学生からは
「映画だけでなく、日米のフォスターケアの違いについて知ることが出来てよかった」
「『ショート・ターム』は本当にいい映画だった。また試写会をやってほしい」
という感想が聞かれました。

デスティン・クレットン監督の映画「ショート・ターム」は、11月15日より新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開予定。www.shorterm12jp.com

(文責・後藤美波)

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