インタビュー

2014年9月10日

「『東大卒』はオポチュニティコストが高過ぎる」 スター・マイカ 水永政志 社長

学生時代にベンチャーを立ち上げた後、三井物産、留学、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、ゴールドマン・サックス証券を経て、起業。現在は、スター・マイカ株式会社の代表取締役社長を務める水永政志さんに、これまでの多岐にわたる仕事、そして「最近の東大生」の印象について、話を聞きました。

IMG_9810.JPG(TODAI Foundersで講演する水永政志さん)

−−−水永さんは、学生時代にベンチャーを立ち上げ、その後、三井物産、留学、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、ゴールドマン・サックス証券を経て、起業されました。そのキャリアというのは、思い描いたものだったのですか?

今の大学生が、15年後にどうなっているかを考えてみてください。およそ地平線の彼方、アンドロメダくらいの所の話でしょう。まったく見えない。「こうなりたい、ああなりたい」と言っても、それは全く嘘でしかないよね。あっちの方向に走りたいとは思っても、地平線の彼方に何があるかは分からない。

私も全く同じで、起業するということは全く想像していなかった。「三井物産に入ったのだから、社長を目指して頑張ろう」くらいに思っていました。

−−−転機になったのはいつでしょうか?

一度目の転機は、留学をした時です。留学をするまでは、外資に行く選択肢は持っていませんでした。いつクビになるかわからないリスクに怯えるよりも、ある程度平和に生きていきたいじゃないですか(笑)。

ただ留学をした時に、海外から見て日本の大企業にいることに必然性がないことを理解することができました。これが最初のeye openerです。その後、思い切って外資のBCGに入りました。

二度目の転機は、その後に転職したゴールドマン・サックスで、プライベートバンキングの業務に携わったことです。簡単に言うと、「当たった」のですよね。お金が儲かったというのも「当たった」のですが、それよりも非常に多くの経営者たちと直接話す機会を得たことが大きかったです。これは、他の仕事ではなかなか経験できない。2回目のeye openerでした。

「なるほど、起業して成功するというのはこういうことか」という実像を、数多くみることができました。自分でも起業というチャレンジをしようと思ったきっかけです。これがちょうど、30代前半の時のことです。

−−−ただ、最初の起業は「失敗」だったと。

失敗した一回目の起業では、独立系REITの第1号を作ろうとしたのですね。作った会社は今でも上場しているので、コンセプトはよかったと思っています。

当時の自分への反省を込めて言えば、根性が足りなかった。事業ってうまく行く時と行かない時があります。ダメだからうまく行かない事業ならば、諦めないといけない。一方で、ダメではないけれど、タイミング的に我慢しなければいけない事業もある。本当は後者だった状況で、「これはダメなのかもしれない」と思って諦めてしまったのですね。判断力がなかったとも言えるし、根性が足りなかったとも言えるかもしれません。

−−−そこから、今の中古マンション事業を始められたのですね。

新築マンション事業は、人口減少時代に縮小せざるをえないビジネスですが、中古マンション事業は成長産業なのですね。中古マンションの数は増え続け、その分、取引件数も増加する。最近では、メディアでも「空き家問題」として、家が余りはじめていることが問題視されています。

ベンチャーだから何でもどさくさ紛れて儲ければいいというのは間違いです。世の中の大きなトレンドに合致する必要があります。成長しているマーケット、追い風に乗っかる仕組みを考えるべきだと思います。

−−−起業を考えている東大生は増えてはいますが、最近の東大生の就職状況を見ても、絶対数としてはまだ大企業に行く人が多いのが現状です。

自分もそうでしたが、ある程度の安定、そしてビジネスを学ぶと言う点で、大企業に行くのも間違っていないと思います。大きな会社がどういう仕組で動いているかを学ぶ機会は、将来起業する際にも役立つと思います。

ただ、ある程度以上長く大企業にいると、もう出られないと思います。10年くらいして、年収が1000万円を超えていいポジションを得てしまうと、多少激務でも、そこから出るにはもったいない気がしてしまう。

−−−TODAI Foundersでも東大生と交流されたと思いますが、今の東大生にどういった印象をお持ちですか?

本質は変わっていないですね。

「東大を出た」という事実は、今も昔も、ある一定のボトムラインを約束することになります。そこそこの企業に入り、そこそこの地位になって、50くらいまで働くことはほぼ約束されますよね。

そのボトムラインが、まあまあの水準にまで達してしまっているのが問題です。その道を選ばないことのオポチュニティコストが高すぎるのです。「大企業で50過ぎまで働ける」ことと、「フリーランスや自由人として働く」ことを比べた時、後者を選ぶことで失われる機会が大きくなりすぎている。

−−−水永さんが就活された時は、やはり「大企業への就職」がメインルートでしたか?

「大企業志向」は今よりもひどかったと思いますよ。「就活ランキングの上から順に受けていく」スタンスの人がほとんどでした。ほとんど何も考えていなかった気がします。

−−−今だと、外資企業の人気も高まっています。

今だと、バリバリ働きたい学生の中では、外資系企業が最初にあって、次に日本の大企業という感じじゃないですか。ヒエラルキーが変わったのは面白いですよね。

さらに面白いのは、最近の東大生は、どちらかと言うと外資金融より外資コンサルを志望する傾向が強いみたいですね。おそらく、「頭良いと思い込みたいバイアス」が働いているのでしょう。

東大入試の時に、入試の点数が良かったことは間違いないですよ。その時は周りよりも点数が高くて合格したのだから。でも、その過去の栄光に一生すがろうというのが浅はかですよね。東大生の多くは、「頭の良さ」しかすがる所がないから、「自分は地頭が良い」と思い込みたい。コンサルに行けば、まだ「地頭の良さで競えるんじゃないか」と思いたいのでしょう。

−−−絶対数としては少ないながらも、ベンチャー志向を持った学生も増えています。

ベンチャー志向は否定しないけれど、旬が過ぎたベンチャーに行く人が多いですよね。どうせ行くなら、東大生の中で一番目に入社するくらいの所に行かないと。でも、そういった会社は、東大生がひとりもいないので、東大の中ではかっこよくないイメージがあるのかもしれない。そういった本能を捨てるべきですね。

みんな、東大生がたくさん落ちた企業に入れることを喜んでいるじゃないですか。「同級生の○○くんは落ちたけど、私は入れた」と。落ちた人がたくさんいる、つまり受けている人がたくさんいる時点で、その選択は別に正しくないことに気づくべきですね。

−−−個々人が決める問題ではありますが、今後の東大生のキャリアについて、何かアドバイスはありますか?

さっきも言いましたが、東大生は、最悪これくらいは行けるというボトムラインが高いから、大企業に行ってしまう。本当は、そこまで有名企業じゃなかったとしても、ちゃんとした能力があれば同じくらい稼ぐことはできるのに、それでもなお、大企業に行こうとする。

おそらく、自分に自信がないからだと思います。「東大まで出たのに、全然稼げないんじゃないか」という恐怖感が勝ってしまっている。

アメリカでも、有名大から大企業に行く学生はもちろんいますが、割合として日本ほど多くはない。

−−−そうした違いはどこから生じているのでしょうか?

やはり教育でしょう。日本では、紙の上の試験しかないから、それ以外の方法で評価される方法を知らない人が多すぎる。だから、自分に自信が持てない。

−−−今後、そうした流れは変わるのでしょうか?

「日本だけ特殊」という状況は、将来的には変わっていくと思います。

今であれば、東大卒起業家は大勢いますよね。私の時は、リクルートを創業した江副さんひとりみたいな状況でした(笑)。いま、50前後で、起業している東大出身者は本当に少ない。

この前、三井物産の同期の同窓会がありました。180人ほどいた同期のうち、49歳になって何人が残っていたと思いますか?約8割です。

−−−そんなに多いのですね!

まあ三井物産が特殊な環境というのはあると思いますけれどもね。銀行等であれば、かなりが辞めている年代でしょうから。

でも、今はだいぶ変わっていると思いますよ。少なくとも、これから入社する会社にずっといると思っている学生はかなり減っているはずです。私が就職した時とは、180度変わったと思います。

仮に、東大を出て大企業に入ったとしても、それだけで部長になれることはどこにも保証されていない。にもかかわらず、「『東大を出たら優遇される』と思い込みたいバイアス」が働いているので、みんなポジショントークで話してしまう。それは幻想だということに気付くべきです。

−−−最後に、東大生へのメッセージをお願いします。

  1. リスクを過剰評価するな
  2. 東大を出たことのオポチュニティコストを過大評価するな
  3. 烏合の衆についていくな

この3つに集約されますね。

でも、正しくリスクを把握しようと思ったら、しっかり「勉強」しないとダメですよ。「意識の高い学生」止まりではなく、「勉強」して行動に移していってほしい。

それと、先輩はどんどん頼って利用したほうがいい。卒業生に優秀な人が多いのは事実なのだから、「こういう人になりたい」と思った人に、どんどんアプローチしていくべきでしょう。

(取材・文 オンライン編集部 荒川拓)

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