スポーツニュース

2022年8月14日

【東大野球】春季リーグ総括前編 バットを振らずに生み出すチャンス

 

 春のリーグ戦で0 10 2分で 49 季連続リーグ最下位に終わった硬式野球部。しかし、早稲田大学を相手に史上初となる2戦連続の引き分けに持ち込んでみせるなど、一筋の光が差し込んだ場面も少なくはなかった。来季こそ悲願の最下位脱出を達成するために、欠けているラストピースは何か。今回は攻撃面に焦点を当てて探ってみる。(執筆・清水央太郎

 

主砲の穴は埋まったのか、どう埋めたのか

 

 3番サードの定位置を不動のものにしていた前主将の大音周平と、4番に君臨し続けた井上慶秀現・三菱自動車岡崎)。昨年の東大打線をコンタクトと長打の両面で支えた2人の主砲だ。開幕前、チーム最大の懸念はこの2人の穴をどう埋めるかだった。しかし、今季の成績上では、その心配は杞憂(きゆう)に終わったと言っていい。肝心の1試合当たりの得点数は昨季から増加。さらに昨年、年間を通して0本に終わった本塁打も、今年は春だけですでに2本飛び出した(表1)

 

(表1)東大攻撃陣の主なデータ

図表は全て東京六大学連盟のデータを基に東京大学新聞社が作成

 
 しかし、奇妙な点も一つ。得点数は増加したものの、打率は大きく下がっているのだ。打率は安打数を打数で割った数値なので、当然得点との相関は高い。こうなると、主砲2人の安打によって得点を重ねていた昨季とは異なり、何か得点数を増加させた他の要因があったと考えるのが自然だろう。
 

バット、脚に次ぐ第三の武器「眼」

 

 そこで注目したいのが「四死球数」と「三振数」だ。(図1)を見てみると、昨季に比べ四死球数は1試合当たり約1個増加し、三振数は1試合当たり3個減少していることが分かる。実は大学野球において、四死球の価値は他のカテゴリーに比べてかなり高い。大学野球では、これまで多くの選手が慣れ親しんできた金属バットよりも飛びにくい木製バットを使わなければならない。そのため、バットの芯で捉えてヒットを打たなくても塁を埋めることのできる四死球を足がかりに、得点の機会をうかがっていくことは意外にも大切だ。四球の増加と三振の減少を同時に達成するためには「ボール球を正確に見極める能力」つまり選球眼が必要になってくる。今季東大に起こった現象は決して偶然ではなく、選球眼の向上を目指し続けた必然の産物と言える。

 

 

(図1)1試合当たりの四死球数と三振数の推移

 

期待値以上の得点を叩き出すスパイス「盗塁」

 

 また、出塁によりつくった足がかりをチャンスに変えていく手法も東大は持っている。それが盗塁だ。今季の東大の総盗塁数は 17。盗塁数が劇的に増加し始めた昨春よりは少ないが、依然としてリーグ2位(1位の明治大学は 20 盗塁)の水準となっている。今季は盗塁王を獲得した宮﨑湧(育・4年)を中心に、9選手が盗塁成功を記録した。しかも盗塁はそもそも出塁しなければ企図できないため、出塁数が他の5大学に比べて圧倒的に少ない東大がこの盗塁数を記録していることは異常と言っても過言ではない。どの打順からでも走れる打線の存在は得点能力をもう一段階ブーストしているのだ。

 

(図2)盗塁数の推移

 

 

東大ニュースタイルの象徴 宮﨑湧

 

今季キャリアハイの成績を残した宮﨑湧

 

 今季東大が新たに見せてきた傾向を象徴する選手こそ、宮﨑湧だ。1年秋から神宮に登場した宮﨑は今季、打率や安打数でキャリアハイを達成し、盗塁王のタイトルを獲得。MVP 投票でも上位に食い込んでみせるなど、印象深い活躍を見せた。打線の中枢を担ってきた宮﨑だが、3年秋までは早いカウントから積極的に打ちに行く傾向があった。そのため入学以来昨季終了時点で 21 安打を積み上げつつも、四死球数が少なく三振がかさみがちだった(表2)。それが今季の成績では四死球数が8、三振数が 10 と選球眼が大きく改善されていることが分かる。この宮﨑とその後を打つ阿久津怜生(経・4年)がチャンスをつくる場面は多かった。

 

(表2)宮﨑の2年秋以降のシーズン成績

 

来季に向けて 勝利へのラストピースは

 

 ここまでは今季の東大が、選球眼の改善と走塁意識の磨き上げによって主砲の穴をカバーしたことを明らかにしてきた。では、来季東大が勝利を収めるために必要なことは何か。二つ挙げるとすれば「チャンスでの安打」と「中軸を担える選手の育成」だ。先ほど、大学野球における四球の価値の高さについて触れた。ところが、その四球の価値は状況によって大きく変化してしまう。例えば無死走者無しの場面において、四球と単打は共に一塁を埋められるため、その価値は同じだ。しかし、2死二塁の場面では、四球では二塁走者は進めず一塁が埋まるだけなのに対し、単打では二塁走者を最低でも三塁、あわよくばホームに返すことができる。このように、四球と盗塁はチャンスを広げることこそできるが、そのチャンスを生かすには「安打」がどうしても必要になってくる。そのため「ここぞ」という場面での安打で得点を奪っていくことが、さらなる攻撃面での進化には不可欠だ。

 

 では、どうすればいいのか。ここで必要となるのが「中軸を担える選手」である。3番大音、4番井上、5番松岡泰希(育・4年)のクリーンアップが完全に固定化されていた昨季と異なり、今季の東大は4番の梅林浩大(育・3年)以外の打順をほぼ毎試合のように入れ替えることになってしまった。記事の冒頭では、あくまで「数値上」は大音と井上の穴を埋められたと指摘したが、中軸を任せられる選手の存在は「数値には表し切れない」部分でチームに大きなプラスとなっている。チャンスを確実に得点につなげること、長打で好機を生み出すこと、各打者の打席で求められる働きの固定化などだ。今季終盤には、サードに定着した浦田晃佑(経・4年)、センターの座を不動のものにした別府洸太朗(育・3年)が、攻守にわたる活躍で中軸争いに一歩リードしたように見えた。チャンスはつくり出せている以上、あとはそれを効率よく得点に生かせる打線をどのように構築していくかが来季への鍵となる。これが達成された日には、東大の勝利を望めるはずだ。

 

来季こそ勝利を掴めるか

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit
koushi-thumb-300xauto-242

   
           
                             
TOPに戻る