東北や北陸で暮らした記者が魅力的な郷土料理を紹介する。厳しい冬の寒さで知られる東北地方では、季節に寄り添った自然の恵みが大切にされてきた。一方、北陸新幹線の延伸で注目を集める福井にも歴史や風土に育まれた味が息付く。芋煮やきりたんぽ鍋といった東北の郷土料理から、へしこやおろしそばといった福井ならではの料理・食品まで、各地の豊かな食文化と人々の営みをたどる。(執筆・吉田直記、小原優輝)
芋煮が持つ精神的な役割 食を通したコミュニティの醸成
秋の訪れを告げる風物詩として、東北地方には芋煮の文化が根付いている。子どもの頃には町内会で、大人になってからはサークルや仲の良いグループで河原や公園に集まり、大きな鍋で芋煮を楽しむ。ちなみに「芋」というのは里芋のことだ。仙台の場合は豚肉と野菜を加えたみそ味、山形の場合は牛肉と野菜を加えたしょうゆ味の鍋料理とされることが多いが、地域によって味付けや具材の種類は多様である。料理としての芋煮のイメージは、仙台出身の記者としては「里芋が入った豚汁」がかまみなり近いと思う。山形市馬見がヶさき崎では巨大な鍋で作られる芋煮をショベルカーでかき混ぜて調理をする豪快なイベントが存在する。視覚的にもインパクトが大きくメディアで報道されることも多い。もちろん、この芋煮だけでなく、肉や海鮮類を焼いて食べるなど総合的に食を楽しむ催しでもある。
東北では芋煮という言葉には、単に料理の名前だけでなく人々の交流という意味も含まれている。料理としての芋煮とは区別して、秋に人々が集まって大きな鍋で芋煮を楽しむ行事を「芋煮会」と呼ぶこともあるが、あまり厳密には区別されていない。強いていうなら、「芋煮会」は町内会や企業による本格的なイベントで、「芋煮」は親しい人やサークル内で行われる小規模なイベントだと感じている。秋になるとスーパーマーケットやコンビニにも芋煮用のまきが売られていたり鍋が貸し出されていたりと、芋煮は人々の生活に自然に溶け込んでいる。以前「9時から開始」の芋煮に誘われて朝9時に行ったところ誰もおらず、実は夜の9時のことだったという笑い話を聞いたことがある。町内会や企業だと日中の開催だが、大学生のサークルなどでは夜から開始して深夜まで楽しむこともあるのだ。
「芋煮」とバーベキューでは、少しニュアンスが異なるように感じている。今年の夏、大学の同じクラスの人たちと東京でバーベキューをした。有名な会場だったためかテレビの取材まで来ており、にぎやかな雰囲気の中で楽しい時間を過ごすことができた。一方で、芋煮は若者が派手に騒ぐような場ではない。人間の素朴な心の交流が生まれる場なのだ。これには季節も関係していると思う。東北の秋は短い。大江千里の曲「秋唄」が表すような、過ぎ去った夏と哀愁漂う秋の風景。日に日に寒さが増してきて、精神的にも何となく物寂しい季節。そんな折にちょうど芋煮の時期になる。秋晴れの日にみんなで食材を持って河原に集まり、火おこしから始める。具材を調理して食べたり河原で遊んだりして過ごしているうちに日は沈んでいく。誰もがなんとなく名残惜しいので、そのままたき火を囲んでたわいもない話をしていく。炎の暖かさやゆらめきの中で、普段はあまり接点のない人から深い話が聞けたりもする。追加で買ってきた食材を焼いて分け合いながら、体を寄せて冷えた体をたき火で温める。否が応でも訪れる長い冬があるからこそ、この秋に行われる芋煮では不思議な一体感が生まれるのだ。
東京に来て芋煮の話をすると、この雰囲気がなかなか伝わらないことに気付いた。芋煮とは単なる料理名ではなく、秋に行われる交流行事を指す言葉だということは説明できても、バーベキューとの違いまで伝えるのが難しい。秋の夜に焚き火を囲んで暖かい芋煮を食べるときの、あの一体感、仲間意識の芽生えは、言葉では伝えられないのかもしれない。
おいしい料理がいっぱい地域に根差した食の多様性
はらこ飯(宮城県)
宮城県の秋の郷土料理に「はらこ飯」がある。炊き込みご飯の上に、サケの切り身と鮮やかなイクラをたっぷりとのせた料理だ。「はらこ」とは宮城県ではイクラを意味する言葉で、サケのお腹にいる子(腹子)が語源といわれている。特にイクラが食材として高価なので、頻繁に食卓に並ぶ家庭料理というより、秋のごちそうという感覚に近い。白米ではなく炊き込みご飯であることも特徴で、伝統的にはさけの煮汁で手間をかけて炊き上げる。記者は小さい頃から鶏とその子どもである卵を使った料理が親子丼で、サケとその子どもであるイクラを使った料理が「はらこ飯」だと対比させて覚えていた。どちらもおいしく、彩りに三つ葉を添えるといった点でも共通している。ちなみに、この記事を執筆するまで全国的な料理だと思っていたため、宮城県のご当地料理だと知って驚いた。地元では秋になるとスーパーにはらこ飯が並ぶほど、大切な秋の味覚として愛されている。

きりたんぽ鍋(秋田県)
秋田県の郷土料理に「きりたんぽ鍋」という大変おいしい鍋料理がある。「きりたんぽ」とは、炊いた米をつぶして串に刺し、焼いて固めたものだ。形状がガマ(ミスクサ)の穂に似ており、短い穂たんぽを意味する「短穂」に由来するといわれている。味は焼きおにぎりに近い。きりたんぽ鍋は、鶏ガラスープに鶏肉、ごぼう、舞茸、長ネギ、セリに加えて、このきりたんぽを入れる。店で購入したパックのきりたんぽは固いので、電子レンジで温めてから切ると良い。また、きりたんぽは入れてすぐだと味が染みていないが、長時間煮込むとふやけて煮崩れしてしまうので注意しよう。セリは根っこもおいしいので丁寧に洗って土を落としてから鍋に入れる。火が通りやすいので最後に入れて、香りとしゃきしゃき感を残すのがベストだ。スープを吸ってふんわりと柔らかくなったきりたんぽは、香ばしく焼かれた米の風味に鶏の旨味が加わった豊かな味わいで、まさに冬の鍋料理を代表する一品だ。

ずんだ餅(宮城県)
全国的な知名度を誇るであろう宮城県の郷土料理に、ずんだ餅がある。これは餅そのものではなく、枝豆を粗くすりつぶして作られるずんだあんに特徴がある料理だ。鮮やかな緑色をしたずんだあんは目を引き、口にすると枝豆の食感や風味を楽しむことができる。日常的に食べるというよりは、来客用のお菓子として出したり、県外からの人をもてなす際に提供したりすることが多い。「ずんだ」の語源には諸説あり、豆を打つ音「ずんだ(豆ん打)」に由来するともいわれているが、はっきりとは分かっていない。宮城県の餅屋には定番のみたらし団子などと並んで、このずんだ餅が売られている。また、ずんだシェイクやずんだプリンなど、餅に限らずさまざまな食品へと展開している。仙台駅の新幹線乗り場で販売されているずんだシェイクは人気商品で、いつも列ができている。最近は料理の枠組みを越え、東北地方の食をモチーフにした「ずんだもん」というマスコットキャラクターの題材にもなった。
じゃじゃ麺(岩手県)
岩手県では「じゃじゃ麺」が有名だ。うどんのような白く平たい麺の上に、黒みがかった肉みそやきゅうり、ねぎ、生姜などが添えられたシンプルな汁なし麺である。浅く平たいお皿で提供され、素朴ながらも何度も食べたくなるおいしさだ。じゃじゃ麺の由来は中国の家庭料理ジャージャー「炸醤麺」という説もある。麺自体に味は付いていないので、上に載った肉みそを麺と混ぜ合わせてから食べる。少しだけかき混ぜるのではなく、完全に麺と絡み合うまでしっかりかき混ぜるのがポイントだ。乗っている肉みその量もそのように調整されている。そして、じゃじゃ麺には最後に「チータンタン」という締めの食べ方がある。麺が少し残ったところで卓上にある生卵を割って入れ、店員さんに渡す。そうすると温かいスープを入れて返してくれる。お皿に残った肉みそや具材の旨味に卵スープが加わり、また来たくなるような味わいだ。機会があればぜひ一度味わってみてほしい。















