文化

2023年2月3日

東大の秘境? トンカチの音が鳴り響く槌音広場の歴史に迫る

 

 キャンパスプラザB棟の隣、駒場Ⅰキャンパスのはずれにある槌音広場オープンクラフト(槌音広場)。資材が雑然と積み上げられたこの独特な空間を初めて目にした人は驚きを感じるだろう。立て看板や大道具の制作のために用意された場所で、新歓やイベントの時期には多くの利用者がみられる。一方、その知名度自体はあまり高くなく、その歴史を知る人は一層少ないだろう。教養学部学生支援課(学生支援課)と、槌音広場の管理を行う槌音広場オープンクラフト委員会に取材。いつから、どうして槌音広場ができたのかに迫った。(取材・佐藤健)

 

キャンパス環境の改善のために 槌音広場はいつからできた?

 

 東京大学新聞の過去の紙面では、2009年12月15日付で完成から間もない槌音広場を特集している。記事によると、当時の学生団体らと学生支援課による話し合いの結果、槌音広場の建設が決まったことを報じている。詳細な経緯について学生支援課に聞いた。

 

 槌音広場ができる以前、学内における立て看板制作作業(たたき)のスペースは明確に定められていなかった。立て看板制作はキャンパス各所で行われており、キャンパス環境の悪化を招いていた。当時の記事にも、キャンパス内を走る車のタイヤに釘が刺さることがあったというコメントが掲載されている。その状況を憂えた駒場祭委員会や学友会などの有志の学生団体が、08年10月頃から話し合いを開始。学生諸団体のプレハブが設置されているキャンパスプラザB棟東側のスペースをたたき場として活用することを計画し、各学生団体の了解を得て学部側への要望を行った。学部側で検討した結果、キャンパスの美化と廃棄される資材などの減少につながることから、たたき場を整備する方針が決定したという。09年2月にはキャンパスプラザB棟東側「たたき場」整備計画が策定され、同年3月に教養学部生による「槌音広場オープンクラフト委員会規約」も制定。コンクリートの舗装や、プレハブの建設が行われ、09年9月には槌音広場オープンクラフトが完成した。

 

2009年12月15日の東京大学新聞。完成直後の槌音広場の写真を掲載している

 槌音広場の開設当初から運営の主体を担っているのが槌音広場オープンクラフト委員会。しかし、槌音広場オープンクラフト委員会が直接的に管理することは少ない。使用団体の利用後の原状復帰などを原則とし、学生のマナーが守られることにより成り立っている場だ。

 

 学生の手によって運営や使用が行われる槌音広場だが、学部とはどのような関わりがあるのだろうか。学生支援課によると、槌音広場で一般ごみが放置されたり、槌音広場のエリアを超えて作業道具などが放置されたりするなどの不適切な運用がされている場合、槌音広場オープンクラフト委員会への改善を申し入れているという。また、槌音広場オープンクラフト委員会からの要望で、年に数回、学部が経費を負担して使用済みの廃材などの処分を回収業者に依頼している。他の学生自治団体と同様に、槌音広場オープンクラフト委員会でも学部と協議したい事項があれば、学生委員会や学生支援課が関わり協議を行うこともあるという。

 

今の槌音広場は 学生たちが作りあげた創作の場

 

 現在は、午前9時から午後9時30分まで年中利用が可能な槌音広場。実際に槌音広場を訪れてみると利用者が数人、ベニヤ板にペンキを塗ったり、木材を切断したりと作業を行う様子が見られた。開設当初の写真でみられる整然とした様子とは異なり、槌音広場入ってすぐには木材がずらりと積み上げられ、地面にはベニヤ板や使用途中の木材が置かれている。かなり雑然とした印象だ。大道具に使うのか、椅子や棚のようなものも放置されている。きれいに整えられたキャンパスとは対照的な異質な雰囲気が漂う。

 

槌音広場には資材が乱雑に広がる

 

 現在の利用について槌音広場オープンクラフト委員会に聞いた。槌音広場の利用法として最も多くみられるのは、劇団サークルによる舞台用大道具の制作だ。その他、駒場祭委員会、五月祭常任委員会などがステージや装飾の制作のため、繁忙期に利用するほか、駒場祭直前と新歓時期にはさまざまな団体が立て看板などの装飾品を作るために利用している。新歓時期の3月末から4月が利用のピークとなる。利用者のマナーにより成り立っている側面の大きい槌音広場だが、利用者が多数来る期間には、マナーの守れていない利用があった際に槌音広場オープンクラフト委員会が直接注意をすることもあるという。さらに、年に2回ほど、劇団など利用頻度の高い団体が主導し、槌音広場の片付けを行うなどしているそうだ。学生たちの自主的な利用の場として管理されながら現在のどこか異様な空間が作られていったことがうかがえる。

 

東京大学新聞社の過去の立て看板。記者も新歓期に立て看板の制作をした。オリエンテーション委員会から配られる立て看板ハンドブックには槌音広場の利用方法も記されている

 

 「さまざまな団体の利用者が、ものづくりをするという目的のために槌音広場に集まるので、時にはコミュニケーションもあったり、他団体のものづくりを見ることができたりするというのは魅力の一つではないかと思います。ぱっと見雑然としていますが、キャンパスの端にあるこの広場で普段の勉強などを忘れてものづくりに取り組むのは楽しいものです。ぜひご利用ください」と槌音広場オープンクラフト委員会のコメント。さまざまな団体が同居し、学生たちの間で作られていったどこか異質な雰囲気が漂う槌音広場。利用の機会があれば、歴史に思いをはせながら、キャンパスの一画にあるとは思えない異質な雰囲気を楽しんでみてはいかがだろうか。

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