COLUMN 2019年9月2日

「学歴社会」は本当か 採用に用いられる学歴フィルターとは

 企業説明会の申し込み画面が、東大生は「空席あり」なのに他の大学生は「満席」と表示される、「東大生はエントリーシート(ES)が通りやすい」という否定できないうわさ……。その背景には、企業が採用活動時に用いる「学歴フィルター」が存在する。学生を出身大学によって機械的に評価しているかのような企業の採用活動に、複雑な思いを抱く人も多いだろう。なぜ学歴フィルターは必要なのか、最新の就活事情とともに就職コンサルタントの福島直樹さんに話を聞いた。合わせて、学歴に頼らない選考を実現する可能性を秘めた新技術についても紹介する。

(取材・武沙佑美)

 

競争率を抑えるため

 

━━企業の採用活動において、学歴フィルターは実際どの程度機能しているのでしょうか 

 「うちは学歴フィルターを使っている」と明言する企業はありませんが、HR総研が実施した「2018年新卒採用動向調査」では、特定の大学層の学生を重点的に採用したいと回答した企業が全体の39%に上ります(図1。 

 

(図1)2017年3月21日から29日にかけて、企業の人事責任者・担当者にウェブアンケートを実施。有効回答数184社(うち社員数1001人以上:14%、301〜1000人:34%、300人以下:52%)HR総研の2018年新卒採用動向調査結果報告を基に東京大学新聞社が作成

 

━━なぜ企業は就活生の学歴を気にするのでしょうか

 

 主な理由は、業務の効率化です。00年代に入り就活情報サイトが普及し、学生がインターネットで多数の企業に一括エントリーできるようになりました。企業によっては100倍超の競争倍率となるほど競争率が高まったため、企業側は学生の選別を簡略化するために学歴フィルターを用いるようになりました。

 

━━フィルターをかけなくても済むよう、応募者の数を制限することはできないのでしょうか

 

 採用は企業の自由な経済活動ですので、そのやり方に制限をかけるのは難しいでしょう。高倍率にならない別の仕組みが必要です。例えばエイベックスという企業では、専門のプログラムに参加して応募資格を得る「志採用」を行っています。このように1社応募するだけで大きな労力が必要となれば、応募者の数は減るでしょう。ただ、第1志望の大手人気企業に時間を割くために中小企業を受けない人が増える可能性や、学業に支障を来す恐れもあります。

 

━━機械的な学歴フィルターは「人材を取りこぼす」ことにつながります。企業側はそのリスクにどう対処しているのでしょうか

 

 どこの人事も「ESで落としたけれど正しい判断だったのか」と考えることはあるようです。学歴と入社後の活躍を分析している企業もありますが、必ず相関があるわけではないと聞きます。

 

 ですが10万人もエントリーする中で、全員を面接することはできない。そこでESを手書き指定したり、性格と能力を検査する試験(SPI)のスコア提出を義務付けるなど、エントリーに手間がかかるようにして熱意ある学生を抽出します。説明会の申し込みで「お断り」の対象となった学生が、諦めずに参加したいと問い合わせ承諾された例もあります。結局企業にとって重要なのは、取りこぼし対策と経済的合理性のバランスなのです。

 

━━誰でも何社でも応募できる現在の状況を、どう評価しますか

 

 悪いことばかりではないと思います。実は60年代から90年代まで、企業は、大っぴらに「うちは◯◯大学の学生しか採用しません」と宣言する推薦依頼大学制度や指定校制度を多用していました。しかし四年制大学進学率が上昇し、将来の安定を期待して大学に進学する若者およびその保護者が増えたこともあり、学歴差別を批判する世論が形成されてきました。

 

 そのような風潮の中で就活情報サイトの誕生により「誰でもどんな企業でも受け入れられる環境」になったのです。指定校制度では応募すらできなかった学生が大手企業に就職する事例も見られるようになりました。

 

本気度合いを見る

 

━━SPIなどで性格や能力を検査し適性を測る審査は、有効なのでしょうか

 

 能力検査に関してはウェブ上で受験することも多く、友人同士で協力して回答したり、解答例が出回っていたりします。その点で、個人の能力を測る指標としては弱いかもしれません。それでも企業が受験を応募条件に含める理由は、志望している学生の本気度合いを見極めたいからです。選考過程でもう一度筆記試験を実施し、学生の本当の能力を確認する企業もあります。

 

━━性格検査はどうでしょうか

 

 10年ほど前から一部の企業は、社員の性格と入社後のパフォーマンスの関係性を分析し始めました。蓄積された分析結果を基に学生にも性格検査を実施して、企業に適した人材を見極めようとしているではないでしょうか。

 

━━学生側の学歴フィルターに対する意識の現れとして、出身大学により学生の就活に対する態度が異なっていると感じたことはありますか

 

 東大生は就活で有利とされているためか動きがゆったりしているというのはあるかもしれませんね。東大生がプレエントリーをするとすぐOB・OGと会う誘いが来るなど優遇されるケースもあります。ですが面接などで企業に合わないと判断されれば、学歴に関係なくすぐに排除されてしまうのも事実です。

 

━━東大生は就職先で「使えない」という風説を耳にすることがあります。この実態をどのように見ますか

 

 東大生に対する社会の期待値は高いので、仕事ができないと目立つようです。それについては、期待に応えられるように鍛錬するしかありません。

 

 そのコツとして、受け身でない姿勢が大切です。「やり方を教えてくれない上司が悪い」のではなく、「自分で学ぶこと」を学ぶべき。新しい知を生み出す場である大学でメタ認知能力を鍛え、職場でも評価される人になってほしいです。

 

発想力や課題解決力を可視化 

 

 個人が持つ創造力や発想力、課題解決力を客観的に計測する技術が今、大手を含む数々の企業の注目を集めている。VISITS Technologiesが開発した「CI技術(コンセンサスインテリジェンス技術)」だ(図2。この技術を用いた商品の一つに、一般受験が可能な設計をした「デザイン思考テスト」がある。工学部出身で同社社長の松本勝さんは「このテストの一般化が進むことで従来の採用制度を塗り替える可能性もある」と意気込む。

(図2)CI技術はアイデアの価値を可視化する、VISITS Technologies独自の特許技術だ(図はVISITS Technologies提供)

 

 CI技術では、まず各利用者がアイデアのアウトプットを行い、互いに各案の創造力の高さを評価する。次に、創造力の評価のデータから参加者の「目利き力」を推定し、目利き力を加味して評価の比重を変動させ互いの案への評価を計算し直す。特殊なアルゴリズムでこれを実施することで、単なる多数決ではない重み付けを加味した相互評価により創造力の高い発案者を特定できる。デザイン思考テストでは、この仕組みを受験者同士で実施し、創造力の高い受験者を割り出す。

 

 企業はデザイン思考テストを用いて学歴やESでは見落としかねない才能を持つ人材を拾い上げようとしている。松本さんは「デザイン思考テストに興味を示す企業は、主体的に考える人材を集めることで日本的なトップダウン型の組織を脱却し、『下からの改革』を促す風潮を作ろうとしています」と分析する。

 

 就活する学生が気になるのは、デザイン思考テストの対策法だろう。「実はクリエーティブな思考をするための思考の枠組みというものが存在する」と松本さんは明かす。「思考法を繰り返し実践して練習を積み重ねれば、発想力や課題解決力を身に付けテストでスコアを伸ばすことが可能です」。創造力や発想力は一部の天才が持つ先天的な能力ではなく、努力さえすれば習得できるものなのだ。

 

 だが松本さんは就活生に対し、選考の心配をする前に考えてほしいことがあると言う。「就活生の中には『安定した企業』を志向する風潮があるようですが、社会情勢が激しく変わる現代において、確実に将来が安心な企業など存在しません」。自らの将来の安定を保証するのは企業ではなく、自分自身。「課題解決力と発想力を身に付け、自ら道を切り開けるようになることが大切です」

 

福島 直樹(ふくしま・なおき)さん 就職コンサルタント。大手広告会社勤務を経て、93年より現職。就職に関する講演や学生の就職支援を行う他、企業の採用で戦略立案、選考なども担当する。著書『学歴フィルター』(小学館)他多数。
松本 勝(まつもと・まさる)さん 01年工学系研究科修士課程修了。ゴールドマン・サックス社などを経て、14年に現VISITS Technologiesを設立。元文部科学省事業委員。


この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:東大「不正はなかった」 早野名誉教授らの論文不正疑惑の調査結果公表
ニュース:10〜2月は仮店舗営業 本郷生協書籍部 第2食堂建物耐震改修で
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推薦の素顔:河村若奈さん(文Ⅰ・1年→法)
ひとこまの世界:ネコカフェでホッと一息
著者に聞く:常松祐介さん『古いのに新しい!リノベーション名建築の旅』
火ようミュージアム:クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime
キャンパスガイ:遠藤一樹さん(文Ⅱ・2年)

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