INTERVIEW / OBOG 2019年1月20日

「一歩先の自分を考える」 東大生が卒業生と熱く議論 東大ドリームネット交流会レポート

 2018年12月8日(土)、本郷キャンパスに現役東大生約300人と卒業生約120人が集まり、熱い議論が交わされた。東大(キャリアサポート室、卒業生室)、卒業生団体の東京大学三四郎会、学生団体の東大ドリームネットが共同で企画・運営する「知の創造的摩擦プロジェクト」の一環として開催された「交流会」だ。

 

 本イベントは年に2回開催される名物企画で、27回目となる今回のテーマは「一歩先の自分を考える」。「今日という日が、自分のやりたいことに正面から向き合い今後の大学生活で一歩踏み出すきっかけになってくださることをメンバー一同願っております」という東大ドリームネットからの言葉が添えられている。

 

 交流会開催に当たって、東京大学三四郎会会長の望月宣武さん、および副会長の野中亮宏さんに、自身のキャリアや現役東大生への思いを語ってもらった。

 

 

自由な経験が生き方を広げる

 

━━どのようなモチベーションで学部や就職の選択をされたのでしょうか

 

野中さん:文Ⅱに入学し、進学振分け(進学選択)の時点ではビジネス界で生きていくのだろうと漠然と思い、仕事の選択の幅が広がりそうな経済学部を選びました。ただ、設立したての東大ドリームネットをはじめ、さまざまな学生団体で組織運営をしていく中で、「強い組織とは何なのか」を考えるようになりました。優秀な代表がいるだけでは組織は成り立たないだろうと思いましたし、東大のスポーツ愛好会や国際系団体AIESECのような組織はなぜ長く続いているのか興味があったんです。そこで経営戦略のゼミに入り、「企業の持続的競争優位」の観点でトヨタやソニーがなぜ強いのかという研究をしていました。そして、東大ドリームネットで出会った卒業生の所属の中で、特に面白い人が多かったと感じたのは「リクルート」でした。事業内容にも意義を感じられたし、ここで修行したいなと思える場だったので入社を決めて、そのまま卒業論文のテーマを「リクルートの経営戦略」にしてしまいました(笑)。

 

 

望月さん:文Ⅰへ入学する前は、そのうち司法試験を受けて弁護士になるのだろうと考えていました。しかし実際に入学してみると飲み会、部活のヨット部、NPOでの活動などいろいろなことに目がいき、授業そっちのけで楽しんでいました。法学部へ進学した後も大学にはほとんど行かず、司法試験の勉強は先送りに。6年かけて卒業しても本気になれず、その後1年間フリーター生活を経てついに腰を据えて勉強する気になりました。合格したのはその2年半後。正直「そんなので定職に就けるのか!」という驚きもあるでしょう。しかし大学時代の自由な時間と経験によって、ある意味生き方の幅が広がった気もします。余談ですが、僕たちの時代の法学部は留年するのが当たり前で、勉強以上に好きなことをやるためのモラトリアムとして1、2年活用する人が多かったんです。

 

 

後にも生きる「人とのつながり」

 

━━在学当時、周りの同年代の方々はどのように過ごされていたのでしょうか。また彼らとのつながりは社会に出た後にどれほど大切なものなのでしょうか

 

野中さん:学生団体の活動や部活に従事している人が多かったのですが、一部の同級生は公認会計士や弁護士、国家公務員などの資格を取るために塾通いをしていました。はじめは彼らの意識の高さに驚きましたが、よくよく話を聞いてみるとその多くは「食いっぱぐれないために取りあえず資格を取る」といった夢も未来像も乏しいもので、違和感を覚えました。「国を背負いたい」という強い思いで官僚を志望していた同級生などは素直に尊敬していますし、幼少期から弁護士に憧れて一人前の弁護士として社会に貢献したいと考えていたようであれば納得できます。でもそうではなく、ただ「競争の中で勝ち抜くための特別なカードがほしい」という思いでレールに乗って塾通いするのは何か違う、と感じました。何より、そういうことをしている当の本人たちが全然楽しそうに見えなかったんです。今でも付き合いがある人物は、当時から強い思いを持って活動していた同級生ばかりですね。やっぱり自分で考えて行動している人と話すと面白い。

 

望月さん:法学部においては3分の1が4年で卒業、3分の1が5年で卒業、残りの3分の1が6年で卒業という具合に分かれていたんです。6年目の学生は切羽詰まった状況にある人が多く、その後粘って司法試験合格を勝ち取るか、夢破れて地元に帰るか、といった同級生たちの行く末を見届けていました。ただ、在学時の交友関係自体は部活を除いてそこまで広くなく、今ある関係のほとんどは卒業後にできたもの。現在は大学に行かなくても自分の同級生の近況をSNSで大体知ることができますが、僕らの時代はSNSが無く、大学に行っても行かなくても同級生が何をやっているのかはほとんど分からない状態でした。

 

 

野中さん:SNSの話で言えば、私の在学時はmixiがはやりだした頃です。学外においても、同じ興味を持った人々が集まりやすくなり、ネット上で各自の行動を知りやすくなりました。そのような場で得たつながりが後々生きることも多いです。社会人になってからも、そうしてつながった知り合いのつぶやきが自分の所属する企業の新規事業のネタになることもあり、事業に協力してほしいと連絡を入れるとそれを機に濃い関係になることも頻繁にあります。そもそも新しい事業を始めるにあたっては自分自身や自社が手を付けてこなかった業界や顧客の相手をすることになるので、そこには必然的にその道に詳しい人とのつながりが必要となります。ゆるくても信頼のあるつながりからすぐに目的に見合う人とつながることができ、すぐに事業に取りかかれる、というように最終的にはビジネス面での実益になると言えます。

 

望月さん:これからの時代はセルフブランディングが重要です。自分の人生をどうデザインし、どうブランディングしていくか。そこには何らかの要素と要素を足し算していく過程が必要で、そのために「この人とのつながりでこのプラス要素をもらおう」ということが大きな力となるでしょう。お互いに利益を享受し合えるネットワークこそが価値であり、これが本交流会で提供したいものの一つです。社会人とのつながりを作るための武器として使ってほしいと思います。

 

答えのない問いにじっくり立ち向かえ

 

━━どのようなモチベーション、問題意識で東大ドリームネットの活動にご協力なさっているのでしょうか。またこれからの時代を担うであろう東大生たちにメッセージをお願いします

 

「交流会」のグループディスカッションで学生と語り合う野中さん

 

野中さん:「こう生きたら人並みに幸せになれる」という形は崩れつつあります。幸運なことに、今どきは学生時代からそれを実感できる機会が多くあります。なので、もっとわがままに、周りを振り回すぐらいに生きても良いのではないでしょうか。その方が結果的に社会も前進するでしょう。押し付けるつもりはありませんが、恵まれた環境と頭脳でこの大学に来ているのなら「次の社会をより良くする」ことに興味を持って、そこに注力するのも一つの生き方ではないでしょうか。

 

「交流会」第二部の懇親会で学生と話す望月さん

 

望月さん:私自身もヨット部出身ですが、多くの部活では「勝つ」という目標が与えられていて、それに向かって頑張れば良いものです。もっと早い話、受験の壁を突破してきた東大生の多くにとって、東大入試に合格するというのはまさに「与えられた目標」だったのでしょう。目標を与えられると優れたパフォーマンスを見せる、それが東大生です。しかしこれからは、答えのない問いに立ち向かわなければなりません。何を目標とし、何を武器として足し算していくのか、それを含めて全部自分で決めていくしかないのです。ただ一つ言っておきたいのは、「早いもの勝ちではない」ということ。東大には生き急いでいる人が多いと感じます。やりたいこと、やるべきことが見つからない、何のために学校に来ているのか分からない、というような人々が一定の割合で交流会に参加しています。しかし私を見てください。30歳手前になってようやく定職に就いた身です。むしろ、こういうモデルケースもありなんだぞ、と言ってやりたいくらいです。現時点でやりたいことを見つけている人が偉いわけでも格好良いわけでも全くありませんし、じっくり悩み抜いたって構わないのです。多様なキャリアがあり、「こういう生き方もあるんだぞ」ということを伝えたい。そのために120人もの卒業生が今日ここに来ているのです。

 

望月さん(左)と野中さん(右)

 

望月宣武(もちづき・ひろむ)さん(東京大学三四郎会会長)

経歴:03年法学部卒業。日本羅針盤法律事務所代表弁護士、日本エンターテイナーライツ協会共同代表などを兼任する。

 

野中亮宏(のなか・あきひろ)さん(東京大学三四郎会副会長・事務局長)

経歴:08年経済学部卒業。リクルートホールディングスを経て、15年よりエムスリーに参画。現在は、新規事業立ち上げに従事している。

 実際に記者も交流会に潜入することにした。

 

 会場は本郷キャンパス御殿下ジムナジアム。入口の階段を下りていくと、広いアリーナの中には既に多くの在学生が4~6人ごとのグループに分かれて座っており、各グループに運営側からのファシリテーターが1人ずつ待機していた。午後1時を回ると開式となり、望月さんをはじめとして各団体の代表からの挨拶があった。東大ドリームネット代表の村松尭さん(文Ⅱ・2年)からの「卒業生の方々は自分が何をしているとか、こういう人生を歩んできた、などということをとても熱く語ってくれるでしょう。こんなに寒い中で来てくれたのですから、学生の皆さんも是非、自らの熱い思いをぶつけていただきたいと思います!」というメッセージをもって、交流会は第一部へと移行した。卒業生が一斉に各グループに2、3人ずつ分かれて入り、最初に各グループ内で在学生と卒業生が1人ずつ自己紹介をした。

 

挨拶をするドリームネット代表の村松さん

 

「やりたいことは何でもやっていた」

 

 第一部のグループディスカッション①は、卒業生が在学時に積極的に行ったことと、その経験が今の自分に与えた影響について話し、在学生がそれに対して質問する形で行われた。グループを変えて2回行われたが、記者が入ったグループの一つでは卒業生3人の学生時代の共通点として、「やりたいことは何でもやっていた」というのが挙げられた。「エッセーの勉強のために作家に弟子入り」「大学生の学歴意識の調査ゼミ」「留年覚悟の週6ラグビー」というように三者三様な色濃い経験を持っていて、そのどれもが多かれ少なかれ現在の仕事に生きているそうだ。学生の1人が「やりたいことが多過ぎて決まらないのですが、どうすれば良いでしょう」と質問したところ「タイミングが合うものからどんどん手を付けていった方が結果的にできる量も増えるのでは」と返ってきた。また、「進路は第一希望だったのか」という質問に対しては、驚くべきことに全員がノーだった。留年や新卒募集締め切りを逃すなどの紆余曲折を経て今に至る卒業生もいて、道を真っすぐに行かないからこそ語れるキャリアもあるということを肌で感じた。

 

グループディスカッションで語り合う学生と卒業生

 

 グループディスカッション②では打って変わって、学生が将来やりたいことやなりたい姿について語り、そのためにこれからどのように行動していくべきかを卒業生と考えるという形で進んだ。記者の入ったグループの一つでは、まず在学生側が各自の夢とそれに対する悩みを語った。その中から共通点として2点が浮かび上がった。まず一つ目は「学生時代の時間をどう有効活用するか」で、これに対して卒業生側は「逆算」「優先順位」「経験」の三つの重要性を説いた。「この時点までにこれを習得する」という具合に目標を明確に設定し、そこから逆算して現在のタスクに優先順位を付ける。そしてこれを何回も繰り返し、経験を重ねることでようやく時間活用の見定め方がうまくなってくるということだ。二つ目は「進学先や就職先など、その後の人生に関わる大きな決断を下さなければならないときに、何を判断材料としてどう考えれば良いのか」について。卒業生側の回答は「正直学生として得られる情報にはどうしても限りがあるし、在学時の決断が正しくなかったということも振り返ってみると多い。仮に間違っていたとしてもそこは自分の責任として受け止めたり、そのリスクを回避できるだけの努力をしたりすることが重要」ということであった。「もっとも、ロールモデルとして自分に近しい先輩や偉人を参考にするに越したことはない」ともコメント。歴史や先例を学ぶことで可能な限りでリスクを回避することの意味を実感してきた卒業生たちの、含蓄に富んだ言葉であった。

 

フリップで自分の将来の目標を語っていく

 

教養は力なり

 

 グループディスカッション②の後に第二部に移り、卒業生が業界別に分かれて在学生が各自の興味ある分野のブースに行って質問をする懇親会となった。コンサルタント、IT、官公庁、メーカー、マスコミ、インフラ、商社、教育、法曹、アカデミアといったさまざまな業界に分かれており、多種多様なキャリアがあることが改めて伝わってきた。

 

学生が興味のある分野の卒業生と気楽に話せる懇親会

 

 さて、アカデミアの分野でとある理系の在学生が「前期教養課程にいる意味を見いだせない」と述べたところ、研究者を務める1人の卒業生が次のように返答していた。「日本では教養が過小評価されがちだが、欧米諸国において研究者の間で交わされる会話は何も理工学術的な内容だけではない。むしろ、自国のことをどれだけきちんと説明できるかといった意味での教養が学者の素養として重要視されることが頻繁にある。教養学部のうちが最も教養に触れられる時期なので、うまく時間を有効活用し一定以上の教養を身に付けるのも良いのではないか」。どこの学部へ行くか未定の人ももちろんさまざまな学問に触れるべきだろうが、既に後期課程で学ぶ専門を決めている人も、専門外のことに触れてみると後に思わぬ形で役に立つかもしれない。

 

 

 午後6時、白熱する質問の時間も名残惜しく終わった。この日を境に新たな夢を探す学生、夢に向かって新たな目標を設定する学生、次のステップを踏むために行動に出る学生など、それぞれの新たな道が切り開けることだろう。交流会は半年ごとに行われており、次の交流会は6月頃に駒場キャンパスで行われる予定だ。

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