学術

2020年1月2日

一人一人が危機認識・対策を 「異常気象」の実態と現在の対策を聞く

 今年は猛烈な台風が日本列島を襲い、大きな被害が出た。特に、台風15号では暴風による被害が大きく、千葉県を中心に大規模停電が起きた。さらに台風19号では記録的豪雨となり、71河川で堤防が決壊した。このような異常気象と地球温暖化との間にはどのような関係があるのか、そして異常気象にどのように対策すべきか。2人の東大教員に取材した。

(取材・本多史)

 

木本 昌秀(きもと まさひで)教授(大気海洋研究所) 89年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院博士課程修了。Ph.D.(大気科学)。気候システム研究センター(当時)教授などを経て、10年より現職。
沖 大幹(おき たいかん)教授(未来ビジョン研究センター) 89年工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。気象予報士。生産技術研究所教授などを経て、19年より現職。17年より総長特別参与も務める。

 

温暖化が強度と頻度を高める

 

 去年の猛暑や西日本豪雨、台風21号、今年の台風15号・19号と、異常気象による大きな被害が続いている。気象庁は、異常気象を「ある場所(地域)・ある時期(週・月・季節)において30年に1回以下で発生する現象」としている。地球温暖化により異常気象の頻度や強度は高まっていると考えられ、経験に縛られない万全な対策が必要だ。

 

 木本昌秀教授(大気海洋研究所)は異常気象を「極端気象」と表現すべきだと言う。「異常気象は低頻度というだけで、必ず起こるものです。いつ起こってもおかしくないのですから、しっかりと対策をすることが大事です」

 

 統計的に考えると、降水量や気温が外れ値を取ることは自然なことだ。ただ気象の場合は、外れ値のときの被害が大きいため、問題視される。沖大幹教授(未来ビジョン研究センター)は「異常気象で問題なのは、絶対値的な基準ではなく、通常時とどれほど違うかという偏差です。人や社会が急激な変化に対応できないと、大きな被害になります」と指摘する。

 

 自然現象にはさまざまな要因が絡むため、個々の異常気象の原因を地球温暖化のみによるものとは断定できない。しかし温暖化が異常気象の強度や頻度をかさ上げしていると考えられる。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書によると、人間の活動が、20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い。温暖化によって気温が上昇すると、大気の飽和水蒸気圧も上昇し、大気中の水蒸気が増え得る。水蒸気が凝結して雲となるので、極端に強い雨も増えることとなる。

 

 雨の場合は均一に降るわけではなく、空間的・時間的な局地性があるので、降水量の増加が異常気象のような極端な事象に影響を及ぼしやすい。実際、日降水量200mm以上の年間日数は、長期増加の傾向にある(図1)。1989~2018年の30年間の平均日数は約0.11日で、1901~30年の約0.07日と比べて約1.6倍になっている。

 

 

 今後は、非常に強いがこれまでまれだった台風の数は増えるものの、台風自体の発生数は減少すると予測されている。気温の上昇により大気の中層(地上10~120kmの気層)が温まり安定化し、台風ができにくくなるからだ。しかし一度生じると大気中の水蒸気は増えているため、台風の駆動源である水蒸気の凝結熱は以前より増大し、台風の強度は強まる傾向にある。

 

予算と人員の確保が急務

 

 気候変動問題への対策には、緩和策と適応策がある(図2)。緩和策は、温室効果ガスの排出削減などにより気候変動の元を断ち進捗を遅らせることが目的であるのに対し、適応策はインフラの整備などにより人や社会の脆弱性を減らして、避けられない気候変動によるリスクを軽減することが目的だ。緩和策は本質的に見えるが即効性が乏しく効果も見えにくいため、適応策も必要となる。

 

 

 緩和策としては「ゼロエミッション」が推進されている。ゼロエミッションとは、温室効果ガスの排出をゼロにしようという標語だ。2015年に開かれた第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、産業革命前からの世界全体の平均気温上昇を2度以内に抑えようという「2度目標」が掲げられた。これを達成するには、今世紀後半には正味の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする必要がある。

 

 排出された二酸化炭素を地下に封じ込める試みも考えられているが、まだ実用化されていない。木本教授は「電気は必要不可欠ですが、既存の技術では、二酸化炭素を全く排出せずに十分な量を発電することは難しいです。国や社会が研究に資金を投資することで、イノベーションを促す必要があります」と話す。

 

 風水害関連の適応策としては、堤防のかさ上げや強化、遊水地の確保などがあるが、そのための資金が足りていない。さらに沖教授は人員不足も大きな問題だと指摘する。「今年のような異常気象が来年も起こる可能性はあります。予算と人員を確保しないと、災害復旧で手がいっぱいになってしまい、予防的な対策ができなくなってしまいます。適応策は気候変動だけでなく、現在のリスク削減や開発にも効果があるので、やって損はありません。組織強化が必要です」

 

 

 気象予測の技術は向上しており、早くから異常気象の脅威を把握することが可能となっている。台風19号の際は、その予測される規模の大きさから、公共交通機関が計画運休を実施し、むやみに外に出る人は減ったと推測できる。一方で、計画運休などによる経済的な機会費用は大きい。また、多くの人が事前に避難するようになり、避難所に収容し切れなくなるという事態なども起きており、課題は多い。

 

 気象庁の注意喚起にも工夫が見られる。去年の猛暑の時の「命の危険がある暑さ。一つの災害と認識している」や、今年の台風19号の時の「(台風)接近とともに世界が変わる」など、印象的に危険を伝えるものが増えた。避難勧告もレベル別にすることで、脅威が分かりやすくなっている。

 

 個人の対策としては、住居選びの際に水害リスクを考慮することと、自分の居住地域の自然災害リスクを把握することが挙げられる。予報によって台風が来ることが直前に分かっても、住居を守るためにできることは多くない。住居選びの際は、川の氾濫や雨水の排水不良に対して大丈夫かどうかも基準にした方が良いだろう。もし、水害リスクのある地域に住んでいるようなら、普段からハザードマップなどを確認し、避難所の場所を把握しておくことが必須だ。

 

 気候変動は深刻化が予想され、風水害で命を落とす危険性は以前より高まっている。異常気象を甘く見たり、避難勧告を他人事だと思ったりせず、一人一人が危機を認識することが対策への第一歩だろう。


この記事は2019年12月17日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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編集後記

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