INTERVIEW / PROFESSOR 2017年10月30日

【初年次ゼミナール特集企画】中心教員に聞く! 大学の学びにつながる授業とは

(写真は増田教授提供)

 

 2015年度から前期課程で導入され、今年で3年目を迎える必修少人数授業の「初年次ゼミナール(初ゼミ)」。学部教育改革の目玉として五神真総長も入学式のスピーチで触れるなど東大が総力を挙げて推し進めるこの授業は、果たしてどのようなものなのだろうか。今回から2回にわたり、なかなか全体像が見えづらいこの初ゼミという授業の魅力や改善点を掘り下げていきたい。

 

 初回となる今回は、初ゼミ運営の中心となっている理科と文科それぞれの教員に、授業の狙いや魅力を聞いた。


教養教育高度化機構初年次教育部門 部門長 増田建(ますだ・たつる)教授

(総合文化研究科・理系)

 

増田建教授

 

本郷の教員にも協力を要請 ―導入の経緯―

 もともと初ゼミは、濱田前総長が提唱した秋入学導入の議論に端を発する一連の教育改革の流れの中で出てきた授業です。総合的な学部教育改革の議論の中で指摘された三つの論点のうち、〈しっかりと学ぶ〉ために必要な授業を考えた結果、初ゼミが導入されました。

 

 

 当初、理想形として15人程度での導入チュートリアル授業を構想しました。最終的に、理系では約1850名も学生がいるため、1クラス20人程度の授業を、100新設することにしました。これを、どう実現にこぎつけるかが大きな課題でした。駒場の教養学部の教員だけでなく、本郷の各理系学科や附置センター・研究所に協力を仰ぎ、彼らと共にどのような授業にしていくかを検討しました。授業のコマ数をどう配置するか、そして授業の到達目標をどのように設定するか、などが導入にあたっての大きなポイントでした。

 

 授業設計に当たっては国内外の大学の初年次教育も参考にしました。特にプリンストン大学のフレッシュマンセミナーを実際に視察し、少人数で議論しながら教授が自分の研究を学生に教える形態が東大にもふさわしいと思ったため、その方向で準備を進めました。

 

学生の意識を変えたい­ ―初ゼミの狙い―

 

 教養学部前期課程での授業は、どうしても講義形式のものが多く、受験を乗り越えて新しい学びを期待して入って来る学生に、高校までとあまり変わらない、という印象を与えてしまいかねないと思います。しかし、大学での学びとはそれだけでなく、本来は新しい価値を創造することがその本質といえるでしょう。そのための準備期間として前期課程が存在しているのだということを学生に知ってもらいたいのです。将来的にはこういった研究に携わるのだ、ということを伝え学生の意識を変えることが、初ゼミの一番の狙いといえます。スキルを身に付けアカデミックな体験を積むというのももちろん狙いではあるのですが、意識改革の面が目標としては一番大きいです。

 

 後期課程に行ったらすぐに自ら研究するかというとそうでもなく、実際に研究を始めるのは4年生の最後に行う卒業研究です。突然4年生の最後に答えのない問いを立てろ、と言われるのと、1年生のうちに研究に触れておくのではやはり学問の世界への入りやすさの点で違うと思います。

 

全員のコミットを期待する「顔の見える授業」

 

(写真は増田教授提供)

 

 初ゼミの全体的な流れとしては、1週目に選択できる各授業の紹介、2週目に全分野で必要となるアカデミックスキルの講習、3週目から少人数での授業が始まる、という形になっています。受ける授業はそれぞれのグループに割り当てられた18〜19の授業から登録してもらい、希望が多い場合には抽選で決まります。それぞれの授業構成は、分野によって手法や教え方も違うのでいくつかにパターン化して、後は各教員に任せていますが、基本的には前半で知識を教え、後半でその知識を生かし課題に挑戦させるという構成が多いでしょう。

 

 理系では論文を必修とせずプレゼンテーションやレポート、グループワークなど多様な評価方法を取り入れています。これには論文作法の違いというのが関わってきます。理系できちんと作法を教えて、さらに研究をさせた上で論文を書かせようとしても、1セメスターの授業では時間が足りません。また、ディスカッションなどのグループワークを積極的に取り入れると、どう個々人を評価するのかという問題もあります。そこで、点数至上主義からの脱却を目指すという理念も込めて、理系では成績は合否のみで点数は出さないことにしました。合否判定のみだと、合格すれば良いという態度で適当に授業に臨む人も出てくるのではないかという心配はありましたが、やはり少人数の顔が見える授業で内容が楽しければ皆コミットしてくれるだろうと思い、今のところこの形式でやっています。

 

教員の意識改革も大事

 

 教員の意識改革も大事です。100の授業の中には我々の教育の理念と合致しない「面白いだけの授業」が見受けられます。どのように教員に目指すものを理解してもらうかが重要な課題だと思います。

 

 また、開始から3年経って学生の間での授業の口コミなども出てきたことで楽な授業に走りがちな傾向が見られることや、抽選で外れて志望順位が低い授業に当たった生徒のモチベーションは心配しています。ただし後者に関しては多様な分野に触れるという意味では良いことでもあり、ある程度は許容しています。

 

受験生へのメッセージ

 

 初ゼミは一流の研究者がたった15人程度のために授業を行ってくれる東大の中で一番ぜいたくな授業です。東大に入ったら第一線の研究の世界に触れられることを、まずは楽しんで欲しいですね。そして自分たちが最終的に目指す世界というものを知り、東大に入ってからも学ばなければならないことがたくさんあることに気付いて、努力を重ねていってください。


大学院総合文化研究科国際社会科学専攻 岡田晃枝(おかだ・てるえ)准教授

(教養教育高度化機構初年次教育部門兼任・文系)

 

基礎演習を生かした導入

 

 東大教養学部の全体的な改革の流れの中で、これから高校のカリキュラムも変わるという時に、やはり1年生向けにきちんと導入授業をやりたい、ということで出てきたのが初年次ゼミナールです。文科には基礎演習という導入授業があったため、これを発展させてより実質化しようということで授業設計を始めました。駒場の大学院総合文化研究科には文系4専攻、理系1専攻がありますが、教員の数や専門分野の幅広さからして、文系は駒場中心で回していけるというのが理系との大きな違いでしょう。

 

(写真は増田教授提供)

 

 以前から文科では必修だった基礎演習という授業では、文献の読み方やプレゼンテーションの仕方、レポートの書き方などアカデミックスキルを中心に教えていました。しかし、今の初ゼミと違い完全にクラス指定型で、学生にはどの先生の授業を取るか選ぶ権利が与えられていなかったので、興味がない人たちも集まっていることを考えると、各教員もそれぞれ自分の専門に深く入る訳にはいきませんでした。興味のなかった分野に触れて思っていたよりその分野が面白いことに気づいたという人もいれば、最後まで意欲が持てなかったという人もおりさまざまでしたが、やはり学生の興味に近い研究をしている教員の方が具体的なアドバイスもできるということで、選択抽選制への移行を決めました。実際に移行してみると中には楽に点数が取れる授業を狙って抽選登録をしようとする学生も見受けられますが、そもそも初ゼミの中には楽な授業というのは存在しません。学生には自分の興味に沿って授業を選んでもらいたいと思っています。

 

狙いはスキルと問いの立て方

 

 初年次ゼミナール文科の大きな目的は二つあります。一つはアカデミックスキルを身に付けることです。文献を読んでそれを批判検討し、得た情報に基づいて自分の意見を述べること、また小論文執筆を通じて学問的な文章とはどのようなものなのかを学ぶことが目標です。二つ目は自身の関心ごとを学問的な問いに発展させていけるようになることで、この面白さをぜひとも味わって欲しいですね。

 

 学生にはその学問ならではの問いの立て方を楽しんでもらいたいです。論文を1本、根拠を示しながら書くこと、そしてオピニオンリーダーに追従するのではなく、引用をしながら知的に自分自身の意見を発信することができるようになって欲しいと思います。

 

教員に任せる授業内容

 

 授業の全体的な流れは理科と同じで、初回が受講可能な授業のガイダンス、2回目が全体でのアカデミックスキル講習、3回目から希望抽選で当たったそれぞれの授業が始まる、という形式です。授業は10〜12の候補から第8志望まで登録できます。

 

 各授業の内容は基本的に担当の先生に任せていますが、大学1年生が少し難しいと感じる程度の難易度設定をお願いしています。やはり駒場の教員は皆1年生を教えることに慣れており、状況に合わせて授業を柔軟に変えてくれるので、こちらからはほとんど口出しをしません。完全に任せた結果、人文科学から社会科学まで多様な授業が揃い、教員の間でも他の人の授業を取ってみたいと話題になるほど、魅力的なものばかりになりました。

 

学生の意識が課題

 

 全体でのアカデミックスキル講習を2週目に行っていますが、本来は最後に小論文を書く直前にやるのが望ましいでしょう。しかし抽選をガイダンスの後にやる都合上、2週目から各授業に入るわけにはいかず、そこで講習をするしかないという事情があります。今年は執筆前にもう一度教えた方が良いだろうということで小論文執筆講座を夏休み前に希望者向けに開きましたが、全員が来られたわけではありません。できればTA(ティーチング・アシスタント)が常駐している駒場ラーニングコモンズの活用も含めて学生にアドバイスをする機会を増やしたいですが、東大生は高校まで学習で困ったことが少なく全て自己解決してしまう人が多いため、どれだけアドバイス制度を頼って来る人を増やせるかが課題でしょう。高校までと違い答えのない問いに向き合う大学では、勝手に解決したことにしないで相談しに来て欲しいです。

 

(写真は増田教授提供)

 

 また、初ゼミが終わった途端せっかく教わったアカデミックスキルを忘れてしまう学生がいることも問題です。習得したスキルは、今後も例えば通常授業のレポートなどで使えるものであるということを伝え、初ゼミを乗り越えればそれで終わりだと思っている学生の意識を変えなくてはと思います。

 

 先日、授業を担当した教員で先学期の初ゼミについての情報交換会を開きましたが、多くの教員がどうしたら効率よく学生にスキルを身に付けさせてあげられるのか、どうしたら授業内容に関心をもってもらえるのか、学生との接し方について熱心に議論していました。東大の先生は学生がアドバイスを求めてきたらぜひとも協力したいと思っている人たちばかりなので、初ゼミでそうした先生との距離感をつかんで欲しいと思います。

 

受験生へのメッセージ

 

 近年、初年次教育の重要性が認識されつつある中で、他の大学でも多彩な初年次教育が行われていますが、東大にはバラエティに富み、学術的に見てレベルの高い初年次の授業が行われているという強みがあります。みなさんが楽しみながら学問の世界に入っていけるように準備しているので、ぜひ東大に来てください。

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