COLUMN 2018年8月10日

【ハーバードクリムゾン翻訳企画①】ハーバードの新入生アンケート

 

 東京大学がその国際競争力を問われるようになってから久しい。「タフでグローバルな東大生」を掲げ、世界で戦える人材の輩出を目指した濱田純一前総長時代に続き、現在の五神真総長が掲げる東京大学ビジョン2020においても「国際感覚を鍛える教育の充実」が掲げられており、東大生には世界での活躍が期待されている。しかしながら、東大生の中には国外の大学が東大とどのように違い、自分たちがどのような人材と渡り合っていくことを求められているのか、知らない人も多いのではないだろうか。

 

 東京大学新聞社では、あくまで一例ではあるがそのような海外の大学の実情を少しでも紹介すべく、3回にわたって米国ハーバード大学の学生新聞・ハーバードクリムゾン紙より許可を得て、同紙の記事を翻訳し紹介する。初回の今回は、ハーバード大学の新入生アンケートの分析記事を紹介。東京大学新聞社が行っている東大の新入生アンケートも踏まえ、データから見る東大とハーバード大学の違いを分析した。


新入生に会おう!2021年度卒予定クラス

(注:アメリカでは「何年卒予定クラス」と学年のことを表記する)

 

新入生の構成(2017年度版)

Graham W. Bishai and Dianne Lee

 

 ハーバード大学経営陣が低収入で大学進学第一世代となる生徒をサポートする新たな体制を取ったことで、新入生のうち16%以上が彼らの家族の中で初めて大学に進学する人となったことがクリムゾン紙の毎年恒例の入学生調査で分かった。

 

 昨春、ラケシュ・クラナ学部長はこれらの生徒が大学に進学するためのブリッジプログラムを創設するという提案を拒否した。世間の強い抗議を受け3月に同大学はこれらの生徒にハーバードでの生活への移行について助言を与える「大学進学第一世代低収入学生支援係」を雇用すると発表した。

 

 また8月にハーバードは新しいオリエンテーションプログラム──拒否したブリッジプログラムではないが、よく似た「歴史的に社会から無視されてきたコミュニティー」(訳者注:様々なマイノリティーを指している)から来た新入生が大学生活のスタートを切る手助けをするプログラムを発表した。

 

 調査では第1世代の生徒たちはそうではないと答えた生徒よりも低い家庭年収だった。両親が25万ドル以上稼ぐと答えたのは第1世代学生たちの2.2%のみだったが、親が最低1人は大学に在籍していた生徒の41.8%は家庭の年収は25万ドル以上だった。

 

 回答した第1世代学生の約41%は年間4万ドル以下の年収の家庭出身だったが、両親が大学に行っていた学生でその収入レベルだったのは5.9%のみだった。

 

 毎年新入生がケンブリッジへ行って大学での生活を始める準備をしているころ、クリムゾン紙は彼らの一人一人に調査に参加してもらうようメールを送っている。匿名のアンケートは彼らのSATの点数から宗教観、彼らの現在のキャンパスに対する意見から政治問題までを聞くものだ。約1700人の新学年のうち約50%に当たる853人の返答があった。クリムゾン紙では起こりうる選択バイアスをうち消すための調査結果修正は行っていない。

 

 クリムゾン紙の3部に及ぶ2021卒予定新入学年調査の第1部では新入学年の構成を調査、民族、ジェンダー、家族、回答者の中等・高等学校、学資援助、入学統計などを含む人口統計情報を分析する。

 

 

人口統計

 

 過去の年度と同様に、調査されたハーバードの入学生多くが白人で異性愛者であり、裕福だった。回答者の多数─53%─は女性と自認、46.6%は男性と自認していた。約0.4%はトランスジェンダーだと自認していた。

 

  • 調査した生徒の52.1%が白人と回答、23.8%がアジア系、11.4%が黒人もしくはアフリカ系アメリカ人、10.2%がヒスパニック系あるいはラテン系、1.7%がネイティブ・アメリカン(インディアン)系・イヌイット系、0.8%が太平洋諸島系だった。
  • 回答者の82.5%が自分を異性愛者(ストレート)と自認、5.6%が同性愛者(ゲイ・レズビアン)と自認し、7.9%が自分は両性愛者(バイセクシャル)だと自認した。約3%が自分の性的指向を模索中とした。
  • 同性愛者だと回答した人の80%は男性、バイセクシャルと自認する人の多くは女性で、62%の回答者が女性だった。

 

 ハーバード大学の新学年は大半が沿岸地域出身であり、大多数―39.4%―の学生が北東部から来た。アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、オクラホマといった南西部の州では、他のどの地域よりも学生数が少なく、回答者の6.9%がこれらの州出身だ。8人に1人は米国とその領土外から来た。

 

  • 調査対象の新入生の約10%は農村部出身であり、2020年卒予定のクラスの調査回答者の8.7%から増加している。調査対象の新入生の大多数─61.3%─は郊外から、28.5%は都市部から来た。

 

金銭事情

 

 調査結果は、新入生の人種と両親年収との間に相関があることを示している。白人の学生は、黒人の回答者の約2倍の確率で、年収25万ドルを超える家庭出身だった。白人の生徒のうち42%が年収25万ドルを超える家庭出身だと報告されている。

 

  • ヒスパニック系およびラテン系の回答者のうち、24%が年収25万ドルを超える家庭から来たと報告している。アフリカ系アメリカ人の回答者の22%、アジア系学生の35%が同じ親の所得レベルを報告している。
  • 黒人およびラテン系の回答者は、白人およびアジア系の回答者よりも、年収が40,000ドル以下の世帯から来た可能性が高い。アフリカ系アメリカ人の回答者の17.6%が両親合わせての年収が40,000ドル以下だった。この所得レベルはラテン系またはヒスパニック系回答者の13.5%、白人回答者の9.2%、アジア系回答者の7.8%であった。
  • およそ17%─およそ6人の学生のうちの1人─は、年50万ドル以上を稼ぐ家庭の出身、12%は年収4万ドル以下の家庭の出身だった。

 

 ハーバード大学に通った親を1人以上持つ学生は、そうでない学生より平均的に親の所得レベルが高いと報告していた。回答者の17.5%(6人に1人以上)が、ハーバード大学に両親の両方または片方が在籍していた。

 

  • ハーバードに在籍した親族を持たないと答えた学生の9%は、年間50万ドル以上の家庭収入を報告していたが、在籍者がいた家庭出身の学生の46%がこの収入を報告していた。

 

 大学によると、2017-18学年度のハーバード大学の学費は、授業料、家賃食費を含む65,609ドルとなった。大学の提示費用は高く見えるが、アンケートに回答したクラスメンバーの半分以上が大学から何らかの財政援助を受ける。近年では、低所得者世帯の2020年、2021年、2022年(卒予定)のクラスの生徒に追加の財源を授与する、3年間の試験的な”スタートアップ”奨学金プログラムを開始した。両親の年収が合計$65,000ドル未満の学生は、無料で大学に通う。

 

 調査に回答した学生の大半である55.45%が、大学からいくばくかの奨学金を受け取っていると回答した。公立高校に通っていたと回答した新入生のうち、約66%が財政援助を受けていると回答したのに対し、私立高校から来た回答者の35.5%が財政援助を受けていると回答。

 

 ほとんどすべての第1世代の学生は、大学の財政援助プログラムの受益者であり、95%が資金援助を受けていると答えている。

 

高校生活の注目点

 

 この春、大学は、2021年卒予定のクラスに応募者の5.2%、すなわち約40,000人の応募者のうちの2,056人の入学を認めた。受入れ率は、2020年のクラスのそれよりもわずかに低く、近年の合格者数の減少傾向を維持している。

 

  • 調査対象の学生の17%が、高等学校の外からの私的大学入学カウンセラーからの大学進学アドバイスを求めたと報告している。そのうちの32%が、両親が1年で50万ドル以上を稼いだと回答した一方、11%は両親の収入が年間4万ドル未満と答えた。
  • 回答者の60.3%がチャータースクール(訳者注:親や地域団体が運営母体の高校)ではない公立校に、35.7%が私立校に、3.2%がチャータースクールに行っていた。調査対象の学生の1%未満が、彼らはホームスクール教育を受けたと答えた。
  • ハーバード大の在籍生及び卒業生がいる家庭の学生は、公立校よりも私立校を卒業した可能性が高い。
  • ハーバード大の在籍生及び卒業生のいる家庭の学生の58.7%は私立校に通っていたのに対し、40%は公立校に通っていた。
  • 回答者は、4.0の尺度で3.94の平均GPAを報告した。
  • 66%の学生が、生徒の順位付けを行う中等学校に通っていたことを報告した。このうち、73%が学年の上位2%にいた。少なくとも1人のハーバードに在籍していた親を持ち、学校で順位付けがなされた学生の59%が学年の上位2%にいたと報告している。
  • 調査された新入生の大半─53.5%─がハーバードに早期に入学許可を得た。第1世代の学生の39.3%とハーバード大の在籍生及び卒業生がいる家庭出身の学生の69%はハーバードの早期出願入学を許可された。

東大新聞記者コメント

 

 ハーバードでは前述のオリエンテーションプログラムの導入と第1世代へのサポートが始まったということもあって、第1回はその関連調査がほとんどである。(人口統計の前で触れられているようにハーバードクリムゾン紙新入生アンケートは3回の連載記事であり、この記事が第1回。)クリムゾン紙ではあけすけに年収を聞き取り分析している一方、東京大学新聞社では奨学金受給者を調査しているにとどまる。

 

 そもそも「第1世代」というフレーズが読者には疑問なのではないだろうか。米国の貧富の格差は日本の比ではなく、貧困から抜け出すためには大学進学が重要と考えられている。「家族の中で初めて大学に進学する」というのは、よく使われる言い回しだ。アメリカの大学の授業料は高いが奨学金制度も充実しており、優秀なら全額学費免除以上が可能だ。つまり家族の中で初めて大学に進学することは、優秀な成績を収めてエリートの仲間入りをし、貧困から脱するであろうことを意味する。その第1世代というわけである。

 

 ジェンダーに関しては、ハーバードは女性のほうが多いくらいで、女性率2割の東大とは別世界である。東大がというより日本の男女平等が遅れていることをズバリ表しているのではないか。東大は「ダイバーシティ」を掲げ、女子の数を増やそうと、地方から進学する女子学生に対し家賃支援を実施しているが、賛否両論である。

 

 LGBTを巡る傾向について聞くのは、米国らしい質問だ。ハーバード大学はマサチューセッツ州ケンブリッジ市の大学だが、マサチューセッツ州では同性婚が許可されたのは2004年。2015年に全米で同性婚が認められる10年も前からである。記者が滞在した2008年ごろのボストンでは手をつないで歩く同性カップルの姿がよく見られたし、近所にも同性婚カップルがいた。対して東京大学新聞社では、新入生の性的指向は調査していない。

 

 学生の出身地は、東大では関東が最多の58.1%であるのに対し、ハーバードは39.4 %が北東部だ。東大もハーバードもその所在地から来ている学生が一番多いということになる。そしてハーバード大ではそれ以外の学生もほとんどが沿岸都市部出身である。

 

 特筆すべきは留学生の多さ。調査では新入生の8人に1人、約12%ほどは留学生となっている。東大は学部では2017年で2.9%、大学院や研究所も含めた全体で約14%だ。東京大学新聞社の2017年度調査で海外から来た(帰国子女と留学生両方の可能性がある)と答えた新入生は2.2%だ。

 

 興味深いのは、現在アメリカの大学では、アジア系の人々が米国内ではマイノリティー(全人口の約5パーセントほど)であるのに、米国籍のあるアジア人も、留学生としてやってくるアジア人もかなり多い状態である(後記のリンク先記事によればハーバードの合格者の22%がアジア人学生(米国籍の者もそうでない者も含む)、理系の名門マサチューセッツ工科大学(MIT)でもアジア人学生は全体の26%ほど)。

https://www.insidehighered.com/admissions/article/2017/08/07/look-data-and-arguments-about-asian-americans-and-admissions-elite

 

 しかし差別是正目的のアファーマティブアクションで逆に不利益を被っているとアジア系米国人コミュニティーから批判が出ている。ハーバードも例外ではなく、ニューヨークタイムスによると2014年の入学許可に関して人種差別ではないかとアジア系米国人コミュニティーから訴えられているようだ。多民族国家アメリカらしい問題と言えるだろう。

http://www.businessinsider.com/asian-american-groups-doj-affirmative-action-definition-ivy-league-harvard-2018-2

https://www.nytimes.com/2018/04/04/us/harvard-asian-admission.html

 

(翻訳及びコメント・堀井絢子)

 

記事のオリジナルはこちら

https://features.thecrimson.com/2017/freshman-survey/makeup-narrative/

 

【ハーバードクリムゾン翻訳企画】

ハーバードの入試の裏側

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