文化

2019年6月17日

【セミが見た高知②】人ってこんなに温かい!?

いざ高知へ!

 

成田空港。第三ターミナルにあるため少し歩く

 

 昨年12月に成田-高知間に初の格安路線が開通した。最安値で5000円前後ということもあり、ぐっと高知との距離も近づいたのだ。「高知若者会議」に向けた初めての高知訪問はその格安航空のJetStarで高知龍馬空港へと向かった。所要時間は80分である。

 

 機内に燃料のにおいがすうーっと入ってきた。到着だ。ただの旅行ではない。緊張している自分がいる。

 

 高知はあいにくの雨だった。空港で傘が売っているものと期待していたが見つからない。諦めて出口に向かうと、そこでは龍馬像が出迎えてくれた。「うん、高知。イメージ通りだ」

 

 長い1週間が始まった。

 

龍馬像がお出迎え。想像にたがわず、高知滞在中は何度も「龍馬」を見ることになる。

 

菜園場に到着

 

 

 バスで高知市内に向かい、ゲストハウスのある菜園場(さえんば)に到着。バス停からすぐのところにある商店街だが、日曜日の昼間にシャッター通り。地元伊勢の商店街と重なった。商店街を少し進んだところにゲストハウス「とまり木ホステル」がある。

 

「とまり木ホステル」オーナー篠田善典さん
 話を聞いている最中にも、オーナーの篠田さんの知り合いが挨拶がてらに店を訪れていた。菜園場の若きキーマン篠田さんの夢は、面白い宿、ここにしかない宿を増やすことだ。

 

 「とまり木ホステル」はオープン1周年の若いゲストハウスだ。地方の典型例だが、菜園場の商店街も年々少しずつ店が閉まり、商店街の高齢化が進んできた。まさに「元気がなくなってしまった」状態だ。そんな中、「とまり木ホステル」の誕生で商店街に「人の集まる場所」ができてきたのだ。実際に「とまり木ホステル」で開催されているイベントも、イベント紹介のクリアファイルがパンパンになるほどの賑わいとクオリティーである。

 

 「地方は超一番にはなれないかもしれない。だけど、一番にはなれる」

 

 たくさんお話を伺った中で最も印象に残った言葉だ。

 

 高知の人たちは本当に温かい。ホステルのオープン時には看板からレンジまでお祝いに用意してくれたそうだ。いい意味で「おせっかいな県」なんだそう。

 

 そして、話の中で意外だったのは、「今のままでいい」と思う人たちが多いということだ。幸せそうに暮らす人たちはたくさんいるし、変にいじらないほうがいい?と思える場面もあるそう。「地方は変えていくべき」という考えを半ば前提として持っていた僕が最初に気づいた「思い込み」である。

 

 嬉しいサプライズだったのが、ゲストハウスで一緒になったみんなとすごく仲良くなれたことだ。夜はみんなで語り合った。年齢もばらばらだし、住んでいる場所も違う。高知には、高知に住んでいる人同士だけでなく、旅の人同士でも打ち解けやすくなる何かがあるのかもしれない。毎日会うクラスメートや友人とは違う、もう二度と会うことはないかもしれない人たちとの交流。だからこそ、変な見えを張らなくていいのかも。人ってこんなにあったかいんだ。

 

ゲストハウスで出会った仲間たち 今でも連絡を取り合っている
※このうちの1人、くまちゃん(写真左端)は、その後僕の家に泊まりに来てくれた!!

 

八百屋のお父さんたち

 

 「よう来てくれたねえ」

 

 菜園場の商店街にある果物屋のお母さんである。お店はご主人と始めて45年。メロンや文旦が店頭に並ぶ。お子さんは大学へ行くために高知を出たため店は継いでいないという。

 

 昔の商店街は本屋さんも布団屋さんも駄菓子屋さんもある元気な商店街だった。

 

 「寂しいねぇ。元気がない。あそこはコンビニになっちゃったしねえ。若い人が戻ってきたらいいのにねぇ。」

 

 そう話すお母さんの目には何が映っていたのだろうか。

 

八百屋のお父さんとお姉さん
高知で出会った大好きなお二人だ。(後半の章にも登場)

 

 そして商店街を路面電車の線路の方へ歩くと八百屋さんが。八百屋のお父さんとお姉さん。世間話をしながら野菜を眺めていると、おいしいトマトの選び方を教えてもらった。 真っ赤なやつじゃなくて、お尻の方に星のような筋が入っているものの方がおいしいらしい。なるほど、うまい!

 

 

 お父さんと話していると、この夏の台風の話に。この前の台風でトマトを作っている農家さんのハウスがやられてしまったらしい。農家の多くは続けられてあと10年という高齢の方がほとんど。あと10年使うかどうかの設備に融資を引っ張るわけにもいかない。多くの農家さんが泣く泣く廃業したそうだ。

 

 その後も何度かお父さんたちの前を通って話すうちに、

「お兄ちゃんとは馬が合うわ」

「次はカツオのおいしい11月にな!」 

高知に、お父さんとお母さんができた瞬間だった。

 

 余談だが、高知市内では自転車に乗っている人を多く見かける。しかも、そのほとんどがクロスバイク。後で聞いた話だが、高知に来た人は焦ってママチャリを買うのだけれど、みんなクロスバイクなので、またまたクロスバイクに焦って買い替えるなんて光景が多いんだとか。

 

ひろめ市場にて

 

ひろめ市場 中に入ればすごい活気だ。世代を超えた交流がある。

 

 高知に来てからなにかと話題に上がるひろめ市場(いわゆる「屋台」やお店が集まった室内施設である。カツオのたたきやウツボのから揚げなど高知ゆかりの食べ物が並ぶ)。入るなり、新鮮な光景が飛び込んできた。

 

 席の横同士で盛り上がっておごったり、おごられたり、至るところで世代を超えて打ち解けていた。「なんか、いい意味で日本ぽくないな」

 

ひろめ市場にて
お父さん(写真右)とは東京での再会を約束。

 

 僕も例外ではなかった。初対面の同世代3人と仲良くなったと思ったら、隣にいた仕事終わりのお父さんと盛り上がり、ピザをごちそうになってしまった。お父さんは高知に単身赴任して2年目だという。とりとめのない話なんだけれど、これがまた面白い。

 

 ひろめ市場では「お兄さんにビール一つ。会計はこっちにつけといて!」こんな声が至るところで聞こえてくるのだ。

 

 こうして違う世代同士で交流して、いろんなことを学んでいく。学生も社会人も、年齢や性別も関係なく、打ち解ける光景がそこにあった。僕も田舎育ちというのもあって、人と仲良くしゃべるのは得意な方だけれども、こんなにも人と人とが打ち解ける光景は高知が初めてだ。

 

「人ってこんなにあったかいっけ?」

 

 きっと高知に来た人は誰もが思うんじゃないだろうか。海も山もきれいだ。食事もおいしい。でも高知はきっと「人」なんだと思う。

 

 そして、そんなひろめ市場は意外に早く23時に閉まる。市場が閉まった後は数時間前までは初対面だった高知大の友達と市内のバーへ。高知の夜は長いのである。

 

文・写真 矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・工学部機械工学科3年)

 

【セミが見た高知 シリーズ】

セミが見た高知① 高知県知事、駒場に来たる!!

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