学術ニュース

2019年6月18日

液体のりで造血幹細胞増幅 山崎特任准教授ら 血液疾患の治療に貢献

 山崎聡特任准教授(医科学研究所)らは、液体のりの主成分であるポリビニルアルコール(PVA)を用いた造血幹細胞の増幅に成功した。骨髄内にある造血幹細胞は血液細胞や免疫細胞を供給する細胞で、血液疾患を根治する際の骨髄移植に欠かせない。PVAを用いて培養した造血幹細胞は分化しないまま数カ月間増幅可能なことも明らかになった。成果は5月30日付の英科学誌『ネイチャー』(電子版)に掲載された。

 

 今まで造血幹細胞の培養に使われていたアルブミンというタンパク質が、造血幹細胞の分化を誘導していたことが今回明らかになった。造血幹細胞は分化すると、造血幹細胞としての機能を失う。タンパク質の酸化反応が細胞老化を誘導することも判明したため、造血幹細胞を未分化のまま増幅するには培養液中で酸化されない生体外の化学物質でアルブミンを置換することが必要だった。

 

 山崎特任准教授らは代替物質としてPVAが有効だと突き止めた。培養液中で酸化されないPVAは、造血幹細胞を安定して長期間増幅できることも分かった。

 

 ヒトへの応用の可能性を探るため、山崎特任准教授らはマウスから採取した一つの造血幹細胞を、PVAを用いた培養液で1カ月培養、増幅させた後に、放射線照射により骨髄を破壊した複数のマウスに移植。結果、全てのマウスで移植した造血幹細胞による骨髄の再構築が確認できた。

 

 これらの発見は白血病などの血液疾患への次世代幹細胞治療や、幹細胞分野の基礎研究に大きく貢献することが期待される。現行の幹細胞治療のコスト削減にもつながる見込みだ。

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